スタートアップ企業などの資金調達手段として定着しつつある「クラウドファンディング」。興味はあるものの、よくわからないために投資に二の足を踏んでいる人も多いだろう。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「そんなの人のために私が身銭を切って体験した顚末を紹介します」という――。
クラウドファンディングのイメージイラスト
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始まりは六本木の「桑名の天然ハマグリ」専門店

数年前、私は某飲食店に出資しました。

それは、「桑名の天然ハマグリ」が売りの、とある「ハマグリ専門店」。

その店の売り上げに応じてリターンが変動する仕組みなのですが、直前実績の6割程度の売り上げがあれば元本割れはしないとの条件でして、これは手堅いなとの判断でした。

私はハマグリには何の思い入れもありませんが、店は東京・六本木という好立地、そして東京で天然ハマグリが食べられる物珍しさからも、投資妙味を大いに感じたのでした。

そして、その投資スキームは、今話題の「クラウドファンディング」だったのです。

クラウドファンディングとは、「ネットを通じて不特定多数の人から、お金を集めること」です。

よく目にするのは、「映画を制作したい」「新商品を開発したい」といった夢を語り、それに共感してくれた(不特定多数の)人にお金を出してもらい、その夢を実現するものではないでしょうか。お金の出し手には「映画鑑賞招待」「新商品(の割引)」といった見返りがありますが、出したお金は戻ってきません。

われわれがよく目にするこのタイプは「購入型」と言われるもので、お金の出し手に金銭的リターンはありません。まったく見返りのない「寄付型」とあわせて、これは「非投資型」クラウドファンディングと言われるタイプです。

金銭的リターンが期待できる「投資型」クラウドファンディング4タイプ

それに対し、金銭的リターンが得られるタイプが、「投資型」クラウドファンディングです。私が出資したのは後者のタイプであり、当然、私は金銭的リターンを大いに期待してのことでした。

さて、そんな「投資型」クラウドファンディングは一般的に、以下の4つに分類されます。

貸付型(※):さまざまな事業を営む事業者にお金を貸付ける
不動産投資型:不動産に投資する
株式型:非上場企業の株式を購入する
ファンド型:特定の事業(プロジェクト)に対して出資する
*融資型、ソーシャルレンディングとも呼ばれる

「ハマグリ専門店」への出資は、このうちの「ファンド型」でした。

すなわち、ハマグリ専門店を営む会社に貸付けたり、出資したりするわけではなく、その事業(プロジェクト)そのものへの投資ですから、あくまでも「お店の売り上げ」こそがリターンを決める要素となるのです。その意味では非常にシンプル、かつ、投資先がハッキリ見えるわけで、他の投資にはない緊張感もありました。

実質マイナスリターンなのに「大満足できた」理由とは

ちなみに、ハマグリ専門店への出資額は、1口わずか2万円。

クラウドファンディングの大きな売りは、少額から投資できることでして、しかも投資期間は半年間と短く、非常にお手軽に投資できたのでした。

そして気になる結果ですが……売上目標には届かないものの、なんとか損益分岐点は超え、1口2万200円程度で償還と、わずかながらのプラス。

しかし、取扱手数料が2000円というオチがつきまして、実質的にはマイナス。

目新しい投資商品(手法)は、手数料等といった諸費用がかさむことは、“投資あるある”でございます。

それでも、私は今回の投資には大満足でした。

なぜなら、投資家には「投資家特典」として、そのハマグリ専門店の食事券1万円分が送られてきたからです。

2万円の出資で1万円分ですから、そこらの株主優待とは比べものにならない利回りです。

このようにファンド型では、金銭的リターン以外にも、出資先事業(プロジェクト)に関する特典を受けられるケースが多く、しかも、今回のように破格の利回りであることも珍しくないのです。

調子に乗ってハマグリを食べ過ぎ、お腹を壊したことは自己責任ですが、この特典込みで考えれば、今回の出資については、十分に元は取ったと思っています。

ハマグリ投資で味を占め、次なるスイーツ投資でほぼ全額が損失に

さて、そんな「ファンド型」の投資型クラウドファンディングに味を占め、私は早速、次なる出資先を物色し始めました。

そして見つけたのが、とある「極上スイーツの製造・販売プロジェクト」でした。

スイーツ好きの私としては、ハマグリよりも、はるかに興味がそそられるのでした。

色とりどりのケーキ
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1口1万円、投資期間1年間というお手軽さも大きな魅力でしたが、何よりも、「投資家特典」である極上スイーツ(2000円相当)に惹かれたことは言うまでもありません。そして、多少元本割れしても、投資家特典込みで元が取れればいいやと、甘く考えてもいました。

そしてプロジェクトが始動したのですが、なんと想定外のトラブルが発生して販売自粛となり、それ以降の売り上げはほぼ0円と、壊滅的な状態となってしまったのでした(※)

*プロジェクトの詳細は、基本的には投資家限定の情報公開なので、ここでは割愛。

その結果、多少の元本割れどころか、償還されたのは1口200円程度、ほぼ“全額パー”状態です。

送られてきたのは甘いスイーツでしたが苦い結果となり、特定の事業(プロジェクト)に出資して、それが大コケしたときの怖さを思い知りました。

投資案件が次々と不調に終わり連続大コケ

そんな事態になったとはいえ、他の投資ではなかなか味わえない、臨場感あふれる体験だと前向きに捉え、私は懲りずに、次なる出資先を物色しました。

そして次は、「神戸の飲食店プロジェクト」「途上国の太陽光システムプロジェクト」に出資したのでした。

「神戸の飲食店プロジェクト」は1口5000円で5000円分の食事優待券、「太陽光システムプロジェクト」は1口1万円で2000円分のカーボンオフセット証明書(←二酸化炭素500kg分の大気への負荷消失)と、いずれも少額出資で、しかも破格の投資家特典。そして売り上げ次第では大きなリターンも期待できるわけですから、やはり魅力的でした。

ただ、いずれも結果は惨憺さんたんたるもので、「神戸の飲食店プロジェクト」はコロナ禍もあって売り上げは低迷し、出資額はほぼ半減に、「太陽光システムプロジェクト」にいたっては収益化できずに、償還されたのは1口あたりわずか400円程度でした……。

損失を被っても後悔していない理由とは

このように、冒頭のハマグリ専門店プロジェクト以外は、数字だけを見れば投資としては大失敗ですが、私は決して後悔はしておりません(強がりではなく)。

その理由として、これらの商品性を理解し、リスクを十分認識し、自己責任で腹をくくっての投資であったことはもちろんのことですが、他に、以下の理由が挙げられます。

1 少額投資であった

投資額はいずれも5000~2万円とごく少額で、たとえゼロとなったとしても(実際、ほぼゼロとなったものもありました)、十分耐えられる金額でした。

2 投資家特典が大いに魅力的であった

いずれも魅力的な投資家特典が受取れて、その金銭的価値は、投資額に対して20~100%もの高割合でした。すなわち、投資家特典だけでも、ある程度のリターンは確保できたのでした(「神戸の飲食店プロジェクト」は特典だけで元が取れた)。

3 投資先との距離が近く、臨場感抜群であった

投資先の事業(プロジェクト)がハッキリしており、そして、その事業も小規模なことから、投資家気分を大いに味わうことができました。また、事業の進捗状況についても定期的に報告があって、(いい意味でも、悪い意味でも)臨場感をたっぷり味わうことができ、非常に満足感がありました。

手堅く金銭的リターンを狙うなら「貸付型」「不動産投資型」

さて、次世代投資として話題の投資型クラウドファンディング、中でも、事業(プロジェクト)そのものに出資できる「ファンド型」の投資型クラウドファンディングに投資してみて感じたことは、“投資”というよりも“応援”の要素が大きいこと。

もちろん、株式投資や債券投資などにも「応援」の要素はありますが、それら伝統的な投資と比べ、まだまだ目新しい投資法である投資型クラウドファンディングはリスクが大きく、何が起こるか分かりません。金銭的リターンだけを目当てに投資するのは危険です。

売り上げ次第で変動する金銭的リターンは「おまけ」であって、「応援したい」との気持ちを前面に出して、投資先を選択するのが賢明でしょう。

私自身、今ではそのような目線で、次なる出資先事業(プロジェクト)を物色しております。

もし、手堅い金銭的リターンを狙いたいのであれば、投資型クラウドファンディングの中でも、あらかじめリターンが決まっている「貸付型」「不動産投資型」がおススメです。

もちろん、これらにもリスクはありますが、今回取り上げた「ファンド型」に比べれば、はるかに安定したリターンが見込め、投資商品としての要素が大きいタイプです。私自身も投資しており、こちらではそれなりのリターンを上げております(そちらは、またの機会に取り上げたいと思います)。

ちなみに「株式型」は非常にハイリスクですが、非上場企業への投資法として注目されています。

いずれにせよ、これからの時代の新たな選択肢の1つとして、投資型クラウドファンディングにもっと注目してもよいかもしれませんね。