※本稿は、長尾義弘『私の老後 私の年金 このままで大丈夫なの? 教えてください。』(河出書房新社)の一部を加筆再編集したものです。
一人暮らし高齢者の2割が貧困
女性の平均寿命は、男性の平均寿命と比べて6年も長いです。そうすると、夫が亡くなった後、女性が一人暮らしをする可能性はとても高くなります。さらに夫が年上で一回り(12歳)も年齢が離れているとしたら、平均寿命で考えれば18年間も一人で暮らすことになっています。
一人暮らしになったときの生活はどうなるのか心配です。「自分だけの年金になったときに生活できるのか」「遺族年金ってどのくらい受け取ることができるのか」――そんな悩みを抱えている人は少なからずいるのではないでしょうか。
実際、内閣府「高齢社会白書(平成24年版)」によると、一人暮らしをしている高齢者の約2割が相対的貧困に陥っているとあります。とても他人事ではありません。
夫に先立たれたとき、どうすればいいのでしょうか。共働き夫婦と専業主婦の両方の場合で解説していきましょう。
「遺族年金」は思うほどもらえない
まずは、遺族厚生年金はどのくらい受け取れるのかをお話しします。
「夫の年金の4分の3を遺族年金として受け取ることができる」と勘違いしている人が多いです。しかし、受け取ることができるのは夫の厚生年金部分のみで、基礎年金は含みません。基礎年金は個人の年金なので、死亡すると消滅します。
つまり妻の受け取れる厚生年金の計算方法は、次の通りです。
②夫の厚生年金と妻の厚生年金の半分ずつ
③妻の厚生年金
この3つのうち、もっとも高い金額が自動的に選ばれます。
共働き夫婦の遺族厚生年金は期待薄
共働きの夫婦の場合、夫が先に亡くなったときの遺族厚生年金はあまり期待できません。というのは、夫の遺族厚生年金の金額から、自分の厚生年金額を引いた金額が上乗せされることになるからです。
少しわかりにくいと思うので、65歳以上の共働き夫婦を例にとって説明します。
妻・C子さんは基礎年金6万円+厚生年金10万円=月額16万円
先ほど挙げた3つの式に当てはめると、
②夫の厚生年金の半分7万円+妻の厚生年金の半分5万円=12万円
③妻の厚生年金10万円
②の12万円がもっとも多い金額になりますので、遺族厚生年金は12万円になります。しかしC子さんの厚生年金が優先されますので、夫の遺族年金は2万円になるのです。内訳は次の通りです。
それまでは、夫婦の合計年金受給額は36万円でしたが、夫が亡くなると18万円になります。半分になってしまうということです。妻の厚生年金が夫の厚生年金より同じまたは多い場合には、遺族厚生年金は受け取れないということになりますね。
例に出したC子さんの月額18万円という金額は、一般的に見て多いのか少ないのかというのは、ちょっとイメージができませんね。総務省統計局の「家計調査(2019年)」の調査によると、高齢単身無職世帯の毎月の支出は約15万円です。
すると、平均の金額よりも3万円多いので、たぶん生活をする上では、困らないという予想ができます。ただ、二人の生活が一人になったからといって生活費も半分でOKというわけではありません。やはりそれなりに節約をしていく必要があるでしょう。
夫のほうが妻より高収入である場合の対策
では共働き夫婦は、どんな対策があるのでしょうか。C子さんの場合は、基礎年金だけをできるだけ繰下げ受給する方法があります。
遺族厚生年金の受給額に影響するのは、厚生年金だけです。基礎年金は関係ありませんから、基礎年金だけを増やせば、それだけ年金の受給額は増えることになります。繰下げ受給をすると年金は増額になります。1年繰り下げれば、8.4%の増額、70歳まで繰り下げることで42%の増額、75歳まで繰り下げると84%の増額になります。
C子さんの基礎年金は月額6万円ですので、もし75歳まで繰り下げるとしたら、月額11万円になります。自分の厚生年金と遺族厚生年金を合わせると23万円になります。かなり余裕のある暮らしになると思います。
年金は、基礎年金・厚生年金のどちらか一方だけ、またはその両方を繰下げ受給することができます。もちろん、基礎年金・厚生年金の両方を繰下げ受給して、年金額を増やす方法もいいと思います。
ただし、繰下げ受給して厚生年金が増額されると、その部分は優先されてしまい、夫の遺族基礎年金の受給額が減ってしまうということもあります。ちなみに遺族年金というのは非課税になりますが、厚生年金は課税の対象になります。
これは、ちょっと難しい問題です。というのは、平均寿命で考えると夫が先になくなる可能性は高いのですが、どちらが先に死ぬかというのはまったく予想がつきません。夫婦の健康状態、家計の資産状況などを考えて検討してみてください。
夫婦同程度の収入ならば自分の年金受給額に目を向ける
共働き夫婦で、夫の厚生年金と妻の厚生年金が同じ、または多いという場合には、どちらにしても遺族厚生年金はありません。
この場合の対策としては、自分の年金受給額を増やすことがもっとも重要になってきます。ということは、基礎年金と厚生年金の両方を繰り下げることによって年金の増額を考えるのがいいと思います。
つまり、おひとり様になったとしても、困らない年金額を目指すのがいいでしょう。
たとえば、夫と妻の厚生年金額が同じ場合。
妻は基礎年金6万円+厚生年金14万円=月額20万円
どちらが先に亡くなっても、遺族厚生年金はありません。月額20万円の生活になります。
しかし、夫婦ともに70歳まで繰下げ受給をして受給額の増額をしておけば、年金受給額は、28万4000円になります。どちらが亡くなっても、ある程度の暮らしを維持できるようになります。老後資金をしっかり貯めておくとなお安心できるでしょう。
専業主婦でもゆとりのある年金生活を送るには
専業主婦で考えてみましょう。
妻は基礎年金6万円のみ=月額6万円
この場合の遺族厚生年金は、9万円になります。
妻の基礎年金6万円+遺族厚生年金9万円=15万円になります。月額15万円の老後生活というのは、先ほどの厚生労働省の「家計調査(2019年)」の調査によると、高齢単身無職世帯の毎月の平均支出と同じです。ですので、生活費には困らないかも知れませんが余裕のない生活になります。
夫の厚生年金の4分の3といっても、基礎年金がなくなるので、夫婦のときの半分近くになってしまいます。これまた二人の生活が一人になったからと言って生活費が半分になるわけではありません。
では、対策としては、どうすればいいのでしょうか。先ほどの共働き夫婦と同じように基礎年金の繰下げ受給はどうでしょう。
もし、75歳まで繰り下げることができれば、84%の増額になるので、妻の基礎年金は約11万円になります。遺族厚生年金と合わせれば、20万円になります。少しゆとりのある老後生活が送ることができるようになると思います。
どんなに仲が良い夫婦でも、最後はおひとり様になってしまいます。これは避けることができないことでもあります。そして残念ながら女性がおひとり様になる確率の方が男性よりも高いのです。そのための備えとしては、たとえ一人になったとしても、暮らしていける年金額を確保しておくことです。そのための対策をしっかりしてください。