転職活動を始めると、あちこちから届く「スカウトメール」。キャリアアドバイザーの江﨑麻里奈さんは「すべてを真に受けないように気を付けてほしい。しかし、誰がどんな目的で送っているかを知り、うまく活用することで、転職の便利なツールになる」という――。
スマホとノートパソコンを使用してメールを送信している女性の手元
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「誰が」「何の目的で」送っているのか

連休明けのこの時期は、現実社会に引き戻された反動から仕事に身が入らず、「つい転職サイトをのぞいてしまう」というビジネスパーソンが増える時期でもあります。

何となく転職を考え始めて転職サイトや転職エージェントに登録したら、送られてくるメッセージの数々に驚いた経験がある人も多いでしょう。今、皆さんの元に届く「優秀な貴方様へ」というメッセージを真に受けて、勘違いをして失敗したり、うっかり恥ずかしい言動をしてしまう人が増えています。

そもそもスカウトメールとは、採用担当者が「応募してほしい」と思った求職者に対して、応募を促す目的で送るメッセージのことです。しかし、実際はそうではないものも多く、送り手も目的もさまざま。大きくは以下の3つに分類されます。

(1)転職サービスから集客目的で自動配信されるスカウト
(2)ヘッドハンター(転職エージェント)からのスカウト
(3)企業の人事や経営者からの直接スカウト

数で言うと、(1)の「転職サービスから集客目的で自動配信されるスカウト」が圧倒的多数を占めます。(2)の「ヘッドハンター(転職エージェント)からのスカウト」についてですが、本当のヘッドハンターからのスカウトは、部長以下のクラスではほとんどありません。ただ、ヘッドハンターと名乗る転職エージェントからのスカウトメールも多く、実質的には大多数が(1)に含まれる自動配信メールです。(3)の「企業の人事や経営者からの直接スカウト」は、まだ数は少ないですが、増える傾向にあります。

この分類を参考に、スカウトメールを受け取ったら、まずは誰からどんな目的で送られたメッセージなのかを正しく理解することから始めましょう。特に30代以上のビジネスパーソンは、そのメッセージを額面通りに受け取るのではなく、それぞれ送信相手の目的や特徴を正しく理解して、有効に自分の転職活動に生かしてください。

大半は自動送信の集客メール

転職サービスに登録したところ、ヘッドハンターを名乗る人物から「一度お話ししませんか?」「転職活動をサポートさせてください」というスカウトメールを受け取ったことはないでしょうか。

メッセージには「IPO間近の企業へ特別にオファーさせてください」「貴殿は日本を代表するスタートアップを進化させられる方だと可能性を感じております」と、成長中の企業への転職を示唆する言葉の数々、そして「お電話かオンラインで面談しましょう」というお誘い。「もしかして、こんな超有名企業に転職できるのでは?」と思ってしまいますが、これらのメールは企業からの直接スカウトではなく、転職エージェントへの登録を促すためのものであることがほとんどです。

採用が約束されているわけではない

例えば、大手転職サイトはプラットフォームを開放しており、外部の中小規模の転職エージェントが、そのサイトの登録者にスカウトメールを送ることができるようになっています。これらは自動化されていることが多く、あらかじめ定めた条件を満たす登録者に、外部の転職エージェントからのスカウトメールが自動送信されるようになっています。例えば、英語が堪能だったり海外経験のある登録者には、外資系への転職に強い転職エージェントからのスカウトメールが自動的に送られるよう設定されていたりします。

つまり、「スカウトメール」とメールの題名に入っていたとしても、実は「一都三県在住、女性、20代、30代、登録から1カ月以内」のように、あらかじめ設定されたターゲットに向けて一斉に送信しているメールなのです。メッセージの文面に、あなたの名前や直近の在籍企業が入っていることもありますが、これも自動生成されたもの。「オファー」「スカウト」という言葉があったとしても、記載された企業への採用が約束されているわけではありませんので注意しましょう。

ヘッドハンターとは誰なのか

本来ヘッドハンティングとは、企業から依頼を受け、外部の企業で活躍する優秀な人材に声を掛けて採用に導く手法を指しており、経営者・役員・幹部など重要ポストの人材獲得のために実施される手法です。

しかし、最近は転職エージェントがスカウトメールを送る際に「ヘッドハンター」と名乗ることが多いので、混同して捉えている人も多いと思います。この記事をお読みいただいている皆さんが経営者・役員クラスの人材でなければ、スカウトメールを送ってくる「ヘッドハンター」は転職エージェントである可能性が高いと考えてよいと思います。

メッセージには「優秀な貴方様へ」「◯◯様だけに特別オファー」と歯の浮くような言葉が並び、名だたる企業へ内定可能性があると示唆する熱のこもったメッセージが書かれています。そんなスカウトメールを受け取れば、誰でもつい浮き足立ってしまうもの。しかしこれは、本来のヘッドハンティングとは異なり、単に転職エージェントへの登録を促すメールであって、不特定多数に大量に送られているダイレクトメールであることがほとんどです。

並んで待っている人々がさまざまなガジェットでメールを確認中
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情報収集のつもりで返信してみる

ただ、必ずしも、役に立たない、不特定多数に向けたダイレクトメールばかりだとは言い切れません。転職エージェント側も、見込みのない方へ誰にでもスカウトメールを送るわけではなく、求人の条件に合いやすい条件で絞り込んだ相手に対してメールを送っているはずです。また、個別にレジュメを読み込み丁寧なメッセージを送ってくれる、きめ細かいサポートをしてくれる転職エージェントもたくさんいます。

「どうせ集客目的だろう」と頭から無視せずに、活用したことがない転職サービスや、信頼できる人物からのメッセージであれば、利用するのは無料なので、一度カウンセリングを受けてみることをお勧めします。

世の中には数多くの転職エージェントがありますが、とにかく相性が大切です。持っている求人情報の数や種類、受けられる助言もさまざまなので、まずは情報収集をしようという気持ちで返信してみたらよいのではないでしょうか。

「ヘッドハンティングされた」恥ずかしい勘違い

「オファー」「ヘッドハント」と聞くと、まるで自分が優秀な人材として特別な待遇が約束されているように感じるかもしれませんが、恥ずかしい勘違いをしてしまうケースも増えています。

求職者のカウンセリングをしていると、時々、部長職以下で転職経験のない方から「実はヘッドハンティングされちゃったんですよ」と自慢気な話を聞いたり、「実はあの企業からオファー(=内定)もらったことがあるんですよ」という武勇伝を耳にしたりすることがあります。

しかし、じっくりお話を伺うと、実は「ヘッドハンター」を名乗る転職エージェントから大量送信されたスカウトメールだったようです。また、「企業からのオファー」といっても、内定に至ったわけではなく、あくまで「選考に挑戦してみませんか?」というお誘いのスカウトメールでした。

スカウトメールが送られてくる背景を知らずに言葉を額面通りに受け取ってしまうと、ご自身の市場価値を高く見積りすぎてしまうことになります。恥ずかしい勘違いを起こすことになるので注意したいですね。

企業からのメールで「ご縁をつなぐ」

一方、近年は「ダイレクトリクルーティング」という手法で、企業から直接オファーが届く転職系サービスが増えました。気になる企業から直接届いたメッセージであれば、積極的に返信してみるとよいと思います。

特に、人事担当者に限らず、現場責任者や経営からのコメントが入っていたり、具体的にあなたの経験に触れ、「どのような活躍を期待しているか」といった入社後のポジションを想定した提案があるなど、明らかにあなたの経歴をじっくり読んで個別に送ったと思われるメッセージは、信用してもよいでしょう。

また、「今すぐに応募できないが、将来的に応募を検討している場合」「募集しているのとは別のポジションを希望したい場合」も、無視してしまうのではなく、一度状況や希望を伝えるメッセージを送ってみましょう。今後の採用計画や募集ポジションの可能性について確認できるかもしれません。また、将来、また声をかけてもらえるケースもあります。ご縁をつないでおくことで、将来のビジネスチャンスにつながります。こうしたテクニックは、30代以上のビジネスパーソンには欠かせません。

選考で落とされることも

企業から「オファー」と書かれたメールを受け取っても、「内定がもらえるだろう」と考えるのは時期尚早です。単に有名大学出身であるとか、在籍企業が大手であるといった理由や、募集中の職種と現職の職種がマッチしているなど、設定した条件に合っているという理由だけでメッセージを送っている可能性も大いにあります。

また、メールの内容にかかわらず、応募すれば通常通り書類選考や複数回の面接は実施されます。応募書類を確認してコミュニケーションを重ねた結果、期待値に届く人物でなかった場合は、あっさり落とされてしまうこともあります。

特別扱いは期待できない

時々、面接で「なぜ弊社を受けてくださったのですか?」と問われて「スカウトメールをいただいたからです」と答える方がいらっしゃいます。しかし、本当にヘッドハントされたわけではなく、あくまで応募を促すスカウトメールを受け取っただけなので、「受け身な応募姿勢だ」とみなされてマイナスの印象を与えることになります。確かにスカウトメールがきっかけではありますが、「応募しない」という選択もできた中で、この会社へ応募に至った意思決定の背景を問われているからです。

スカウトメールにおける「オファー」とはあくまで「提案」です。内定獲得に至るまでは、通常の選考と同様に、職務経歴書を練り上げ、面接で何を話すかについても戦略的に考えて準備して臨みましょう。

自分の市場価値を勘違いしない

転職サービスに登録すると、思いがけず多くのスカウトメールを受け取ることになるので、「実は私は、かなり市場価値の高い人材なのではないか」と勘違いしてしまうことがあります。そして、自分の市場価値を見誤り、希望に合った会社から条件の良いオファーをもらっても「もっとほかにいい会社があるはずだ」と、辞退を繰り返してしまことも。

しかし、スカウトメールだけでは、自分の市場価値を正確に測ることはできません。スカウトメールは、必ずしも自分の経歴やスキルへの正当な評価を基に送信されたわけではないということを、知っておいてほしいと思います。