忙しく働き実績を出しているのに、いつも涼しげに見える人は何が違うのか。多くの企業でデジタル変革のコンサルティングを行っている岡田充弘さんは「数千人のワーカーの振る舞いや思考特性、パフォーマンスなどをつぶさに観察しているうちに、超多忙なのに余裕に見える人には“絶対やらないこと”があることが分かってきました」という――。
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成果が無いのに忙しそうな人、多忙なのに余裕に見える人

世の中には、実際は多忙なのに、はたから見るといつも余裕そうにしている人がいます。一方で、これといった成果が無いにもかかわらず、いつも忙しそうにしている人もいます。その違いは一体どこにあるのでしょうか。

私は謎解きゲーム企画会社を経営する一方で、人・組織のデジタル変革を手伝うコンサルティング会社を営んでいるのですが、職業柄、日頃多くの人に出会う機会があります。

そんな中、私は長い年月をかけて数千人のワーカーの振る舞いや思考特性、パフォーマンスなどをつぶさに観察しているうちに、超多忙なのに余裕に見える人には「絶対やらないこと」があることが分かってきました。

今回はその一つひとつを掘り下げて解説していきたいと思います。

1.SNSやネットニュースと距離を置く

余裕が無いというのは自分にとって時間が無い状況を指しますが、その時間は大別すると「意識的な時間」と「無意識的な時間」の2つに分かれます。

一般的に、予定やタスクのような「意識的な時間」は比較的自分で制御しやすいのですが、娯楽や休息のような「無意識的な時間」は、自分で制御するのは難しいものです。

特にスマホでSNSやニュース、動画などを見ていて、気がついたら「もうこんな時間⁉」と焦った経験は、おそらく誰しも記憶にあるのではないでしょうか。もちろん私にもありますし、今でも気を抜くと流されてしまう人間のさがみたいものは、他の人とそれほど変わりません。

ただ、無意識の時間は直接的に何かを生み出しませんので、すべて断つとは言わないまでも、ほどほどに抑えられるに越したことはないでしょう。

そのための最善策は「無意識的な時間」を生み出す行為と“適切な距離を置く”ことです。「なんだそんなことか」と思われる方もいるかもしれませんが、物理的にも心理的にも距離をとることで余裕が生まれ、その時間を内省に充てることで、自分を深く理解することができ、心の底から本物の余裕や自信がふつふつと湧いてくるのです。

2.誘いや依頼にすぐ飛びつかない

人が良すぎるせいか、人からの誘いや依頼にNoと言わない人がいます。なんでも見境無しに飛びついてしまうのです。「成功するにはとにかく行動だ」と言う人は少なくありません。間違ってはいませんが、私には少し注釈が必要な気がします。というのも、臆せずいろいろなことに挑戦するのと、見境なしに飛びつくことは似て非なるものだからです。

当然ながら後者はリスクが伴います。たたまた10回中9回うまくいっても、最後の1回ですべてを失うこともあります。特に出会いや新しい仕事の失敗は、時間を失うだけでなく、あなたの人生から信頼や希望など多くのものを奪います。

取り返しのつかない失敗を避けて、より大きな運を惹きつけるには“その時”を待つことも必要です。いったん待つことで冷静にもなれますし、その直後に入ってくる補足情報でさらに良い判断ができる場合もあります。実際、多くの場合は判断のタイミングをわずかにずらしても、結果にさほど大きな差を生みません。

かの有名なソフトバンク孫正義さんも、即断即決の豪胆なイメージがあるようですが、重要な案件については期限ギリギリまで考えに考え抜いた上で結論を出されるようです。決して思いつきではありません。

また交渉事においては、待つことで値段が下がることや、“おまけ”がつくこともあるでしょう。逆に自分が焦っていることや、何が何でも欲しいという気持ちが見破られてしまうと、交渉相手の術中にはまることになります。交渉事に限らず、誘いや依頼にすぐに飛びつかない自制心を持つことができれば、心や時間にも余裕が生まれ、あなたの状況を有利にしてくれるはずです。

T字路の突き当りに「YES」と「NO」の道路標識
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3.むやみにつるまない、しがらみをもたない

年代や業界・業種にかかわらず、つるんだり、派閥に入るのを好む人がいます。確かに権威あるコミュニティーに入ることは、時に自分を守ってくれたり、自分を大きく見せられるなどのメリットもありますが、その反面、意思決定の自由度やその集団の維持・貢献のために時間が奪われるといったデメリットも存在します。また、そこに属しているという対外的なイメージがマイナスに作用することもあるでしょう。

私の場合は、あえてデメリットの側面を憂慮して、特定の利益団体に所属したり、しがらみ関係を持つことを避けています。実際過去に私がカナリア社の企業再生に着手し始めた頃には地方の業界団体はすべて脱退しました。初めは団体の古参の方から陰口を言われたり脅迫めいた圧力をかけられることもありましたが、毅然きぜんとした態度を取り続けていると自然とそういったことも無くなっていきました。おかげで、多くの経費や時間が浮いて、それらをすべて変革のために費やすことができました。

以降私は、「つかず離れず」「囲わず囲われず」を対個人・法人との基本ポリシーにしているのですが、その絶妙な距離感がこんにちの余裕につながっていると確信しています。

4.クーポンなど目先の小銭に振り回されない

私はコンビニエンスストアや飲食チェーン店のレジで聞かれる「○○カードはお持ちですか」という問いが苦手です。その都度丁重にお断りするのですが、普段からクーポンやポイントバックのような仕組みに取り込まれることから意識的に遠ざかっています。小銭に釣られて購買の判断軸をぶらされたくないからです。同様にショッピングサイトの割引やタイムセールスの商品も基本スルーします。

そもそも企業がクーポンやポイント、割引といった金銭面のメリットを消費者に与えるのは、売り上げの総量を増やすためです。統計的に計算した上でそれらを設計しています。決して損をするためではありません。

そもそも消費者目線で見た場合に、必ずしも金銭面で有利な購買が良い購買とは限りません。実際「安物買いの銭失い」といったことは往々にして起こりえます。

購買のミスによって失うのはお金だけでなく、時間もそうです。後に正しく買い直したり、本物にたどり着くまでの回り道をさせられているのです。

といいつつ、私も小銭につられて変なものを買ってしまったことは多々あります。たまたまそのサイトがキャンセルや返品を受け付けてくれていたので経済的な損失は回避できましたが、時間的な損失や、やりとりのストレスは相当なものがありました。

そこで自分が行ったのは「誘惑に惑わされない状況をお金で買う」という発想の転換です。具体的には以下のようなことを行いました。

・スマホの中のクーポンアプリを捨てる
・財布の中のクーポン券を捨てる
・ポイント付きクレカを増やさない

多少は後ろ髪を引かれる思いはありましたが、この決断のおかげで、小さな損得計算や比較作業から開放されました。

今では目先の利益に心躍らされることなく、本当に欲しいもの、本当に必要なものを見極められるようになりました。

自分にとっての真価を見極め、目先の小銭に振り回されなくなると、日常の景色や時間が穏やかに流れ始めることを実感することでしょう。

5.仕事道具や仕事環境をないがしろにしない

多忙なのに余裕に見える人が絶対やらないことのトリは、やはり仕事道具や仕事環境の整備を怠ることでしょう。逆に言うと、好循環が続く人は、道具や環境への投資を惜しみません。私もその一人ですが、これまでの数々のトラブル経験から、その結論にいたりました。ここに手間暇をかけるかかけないかで、仕事の成否を大きく分けることになります。

たとえば仕事道具でパソコンのCPUやメモリのパワーが足りないと、作業に余計な時間がかかったり、最悪の場合は途中で固まってそれまでの仕事がパーになったりします。また、ハードディスクの容量がいっぱいで重要なソフトがインストールできず、仕事が後手に回るケースを数多く見てきました。なので、私は高い付加価値を生み出そうとする人は、日頃から基本性能の高いデジタルデバイスを利用することをお勧めしています。トラブルで失う遺失利益と、道具への出費を差し引いた獲得利益とでは、まったく比較になりません。プロのアスリートがそれなりのスパイクやグラブを使うのと同じです。

筆者が企業再生時に行った仕事環境の変革事例
図表作成=筆者

仕事環境も、余裕を生み出すための大変重要な要素です。ここで言うところの仕事環境は、主にデスクやチェア、キャビネットなどを指しますが、特にデスクスペースが広いと精神面でも作業空間的にも余裕が生まれるので、私としてはできる限り広く(最低幅140cm以上)とるようお勧めしたいところです。最近では安価で高品質なデスクも出てきていますので、昔ほど購入に躊躇しなくて済むのではないでしょうか。

さらに私の机の上は、今取り掛かっている仕事以外のものは一切置かないため、常に集中すべきことが明確で、仕事の生産性向上と安定性維持に役立っています。

小さな仕組みが余裕を生み出す

以上、「超多忙なのに余裕に見える人が絶対にやらない5つのこと」についてご紹介しましたが、今思うと私も無意識のうちにこの5つを実践していたかもしれません。謎解きゲーム企画やDXコンサルティングの会社を経営するかたわら、執筆や公演、企業研修、若手起業家の支援など、幅広い活動を行っているため、はたから見ると多忙な人のように思われがちですが、きちんとプライベートの時間も確保していますし、コロナ禍で大会が中止になる前はトライアスロンの試合にも参加できていました。

結局のところ、余裕を生み出すのは、小さな仕組みと、ちょっとした心がけ次第なのではないでしょうか。