株主優待実施企業は11年ぶりに減少
株主優待を実施する企業の数が、2020年度は11年ぶりに減少しました。
これは株主優待を新たに導入する企業よりも、廃止してしまう企業の方が多かったわけで、優待愛好家にとっては大きなショックでした。それまで一貫して増え続けていた優待実施企業数ですが、いままさに、大きな転換点を迎えつつあるのです。
優待廃止は株価暴落にも直結することから、今後、優待銘柄への投資には、細心の注意が必要となることでしょう。そんなこれからの時代の、優待銘柄との付き合い方を考えてみたいと思います。
株主優待とは、企業が株主に対して、自社製品やお食事券、買物券などを年1回、もしくは2回程度送ってくれる制度です。
いわば、企業からのお歳暮(お中元)と言ってもよいでしょう。
優待はプチ贅沢を許してくれるありがたい存在だが
企業にとっては義務ではないものの、上場企業全体の4割程度(1500社程度)が実施しており、とくに外食、小売り、レジャーといった一般消費者にとって身近な企業の多くが実施しています。
ちなみに吉野家(9861)は年間4000円分(株価20万円台前半)、かっぱ寿司(カッパ・クリエイト/7421)は年間6000円分(株価10万円台前半)もの優待券・ポイントがもらえるので、利回り換算するとかなりお得と言えるでしょう。
先日、私はかっぱ寿司にて100円皿には目もくれず、200~300円皿を欲望のままにむさぼりつくしました。そんな贅沢ができたのは、かっぱ寿司の「株主優待」があったからこそ。そんな優待ライフを楽しむ人はたくさんいて、中には、ほぼ株主優待だけで生活している強者もいるとか――。一般に、株式投資のメリットは「値上がり」「配当金」とされていますが、株主優待は、それらに続く第3のメリットとも言われています。というか、もっぱら株主優待目当ての投資家も少なくありません。
優待廃止はWパンチの大ダメージになりうる
人気の株主優待ですが、優待銘柄(優待を実施する企業)への投資については、優待銘柄であるがゆえの、大きなリスクがあります。
それは、株主優待の廃止。
株主優待は義務ではないので、経営陣の判断で、突然廃止となることもあり得るのです。優待廃止となれば、通常、株価は下落します。とくに人気のある優待銘柄など、優待目当ての投資家からの失望売りが激しく、目も当てられないような大暴落となることも珍しくありません。
それはすなわち、投資家にとっては「優待がもらえなくなるというショック」だけでなく、「保有銘柄の値下がりによる損失」というWパンチなのです。
私自身、そんなWパンチを何度も食らっております。
優待廃止で株価が2割以上暴落した不動産会社
その1つがエリアクエスト(8912)という不動産会社でして、当時200円台の株価(投資金額2万円台)でクオカード1000円分がもらえるという(※1)、なかなか魅力的な優待を実施している会社でした。
(※1)正確には優待券2000円分との選択だが、大阪在住の私にとっては、近くに店舗がないので関係なし。
私もその魅力に惹かれて投資をするも、突然、優待廃止を発表。200円を大きく超えていた株価ですが、その日のうちに2割以上暴落し、その後も下落を続けて100円程度まで落ち込み、1万円以上の損失を被りました。
その後送られてきた、もう二度とはもらえないクオカードを眺めては、「1万円以上した1000円クオカードだったな……」との苦い経験があります。
他にもロングライフHD(4355)、ミサワホーム(上場廃止)等、優待廃止によって受けたWパンチは、ゆうに10発を超えるでしょうか。このWパンチのダメージは数字以上に大きいもので、優待廃止とは、優待投資家にとって、絶対に避けたい事態なのです。
優待廃止企業が増えた3つの理由
しかし近年、株主優待の廃止が相次ぎ、優待実施企業数が11年ぶりに減少したことは冒頭に書いたとおり。優待投資家にとって受難の時代となりつつあるわけですが、ではなぜ、今、優待廃止が相次いでいるのでしょうか?
主な要因としては、以下のものが挙げられます。
1 コロナ禍による影響
優待銘柄には外食、小売り、レジャー、旅行といった、一般消費者にとって身近な業種が多いのですが、これらはコロナの影響をモロに受ける業種でもあります。優待実施には少なくない費用負担が発生するわけですから、コロナによって将来の業績見通しが不明瞭となれば、それは優待廃止の要因となります。
2 株主還元の不公平
個人投資家にとっては嬉しい株主優待ですが、機関投資家や外国人投資家は優待の恩恵を受けにくく、優待制度は不公平だとの声は以前からありました。それが近年、「株主との対話」が求められる風潮が強まる中で、そうした声がますます強くなってきたことも、優待廃止の要因の1つです。
3 東京証券取引所の市場再編
2022年4月4日から東京証券取引所の市場区分が見直され(「プライム」「スタンダード」「グロース」に再編)、それに伴い、各市場への上場基準の1つである株主数が、以前よりも緩和されました。これまで、一定の株主数を確保するために優待を実施していた企業にしてみれば、その株主数のハードルが下がることは、(優待実施の必要性が薄れることから)優待廃止の要因となります。
優待廃止リスクの低い銘柄を見極める2つの視点
いま、ザっとこれだけの要因が挙げられるわけですから、優待実施企業の減少(優待廃止リスクの上昇)というのは、時代の大きな流れとして、受け入れざるを得ないようです。
そんな時代において、株主優待を楽しもうとするのであれば、いままで以上に、企業の業績や財務状況などをしっかり見極めるという、株式投資の基本に立ち返る必要がありそうです。前述の要因に限らず、やはり業績や財務状況の思わしくない企業は優待を廃止してしまう(せざるを得ない)可能性は高いわけですから、赤字続きや減収減益、債務超過といった企業は(どれだけ優待が魅力的でも)極力避けたいところです。
あと、そういった株式投資の基本に加えて、優待廃止リスクを見極めるポイントとして、優待銘柄ならではの視点を2つ、挙げてみたいと思います。
1 その優待には、実績があるのか?
昔からずっと続いている優待については、企業側にもそれだけ優待実施のノウハウが蓄積しており、優待の費用対効果も把握(コントロール)していることから、廃止リスクは比較的低いと言えるでしょう。
また、長年続く優待廃止のマイナスイメージは計り知れないであろうことからも、優待廃止には消極的だと考えられます。
逆に言えば、導入されたばかりの優待は、「優待を始めてみたけれど、負担が大きいので、やっぱりやめます」的な感じで、あっさり廃止してしまうケースも少なくありません。
最低3年以上、できれば10年以上、改悪されることなく続いている優待銘柄を選びたいものです。
2 その優待は、本業と関連するのか?
たとえば、吉野家やかっぱ寿司といった外食企業の「お食事券優待」は、企業(店舗)の宣伝や集客につながり、本業との相乗効果が見込めます。このように本業と関連する優待(お食事券や自社製品等)も、廃止リスクは比較的低いと言えるでしょう。
逆に言えば、本業とはまったく関係ないような優待は、廃止リスクが高くなります。その代表が、クオカード等の金券優待です。
金券の類いは使い勝手がよく、もらう側にとっては嬉しいのですが、企業側からすれば本業との相乗効果が薄く、せいぜい券面に企業ロゴを入れるくらいでしょう。また、原価ベースの負担である優待券や自社製品に比べて、金券は額面金額そのものがコストとなるので、企業側の負担も大きくなります。なので、とくに金券優待には気を付けなければいけません。
ちなみに、前述(優待廃止でWパンチ)のエリアクエストもクオカード優待だったわけです。しかも優待利回り(優待金額÷株価)は5%近くと高く、企業からすれば、かなりの負担であったと思われます。また、優待は導入されたばかりでもありました(導入からわずか5カ月で廃止するという、優待マニアの間では伝説的なスピード廃止として語り継がれている)。いま振り返れば、エリアクエストの優待廃止は、十分予見できたのかもしれませんね。
優待廃止リスクにおびえながらも保有を続ける銘柄とは
あと、優待廃止リスクを避けるためには、企業からの「アナウンス」も見逃せません。
たとえば、優待銘柄として有名なアトム(ステーキ店や居酒屋等を運営/7412)ですが、『会社四季報』2022年春号にて、「個人株主多く優待の負担大きい」「長期的に配当での還元に重点移す方針」と、将来的な優待廃止をにおわせる記載があり、優待愛好家をざわつかせています。もっとも、「優待改悪には消極的」との記載もあり、実際の判断は難しいところですが。
ただ、7万円台の株価で年間4000ポイント(4000円相当)もの優待は、大きな負担であることは間違いありません。長年の優待実績があり、本業との相乗効果のある優待ではありますが、業績が芳しくなく、コロナ禍の逆風を考慮すると、個人的には、将来的に優待廃止も十分あり得るかとは思っています。
そして私自身、この銘柄を保有しているわけでして(優待廃止リスクにおびえながら)、さらなる優待廃止のサインが出てくるようであれば、いつでも手放せるよう身構えております。
このように、優待愛好家にとっては心労が増す時代となりつつありますが、株主優待制度そのものがなくなることはないでしょうし、魅力的な優待銘柄はまだまだたくさんあります。
今こそ、こんな時代の変化こそ、ずっと付き合える優待銘柄を見極め、そして、素晴らしい優待銘柄と出会えるチャンスであると、前向きに捉えたいものですね。