仕事が速い人は何が違うのか。多くの企業で働き方改善のコンサルティングを行う岡田充弘さんは「仕事が速い人ほど、自分独自の型をもっています。チャットの確認は1日3回と隙間時間のみ、メールチェックは3秒など、仕事にかける時間を決めておくのはお勧めです」という――。
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仕事が速い人は“型”をもっている

少し前に「ルーティン」という言葉が流行ったことを覚えていますか?

「決まっている手順」「お決まりの所作」「日課」などを意味する言葉ですが、五郎丸選手やイチロー選手など傑出した成果を出すアスリートが取り入れていることで注目が集まり、多くの人が自分のスタイルやパターンを持つことの大切さを再確認するきっかけにもなりました。

実際仕事が速い人は、そういった自分ならではの“型”を持っているといわれますが、それは私の経験上からも正しいと断言できます。

かつて私が勤務していた外資系コンサルティング会社、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(略:PwCコンサルティング)では、個人のみならず組織として一定の“型“を持っていました。

例えば、プロジェクトワークに関する作業手順や利用する文書フォーマット、言葉遣いやキーワードといったことです。

そのことが仕事の標準化をもたらし、業務の効率化に大いに寄与していたのです。

自分の“型”を持つことで得られるもの

もし仮に型を持たなければ、つまりその都度いきあたりばったりのやり方をしていると、本来は減らせる重複作業の発生を許してしまったり、判断する内容にバラツキが生じてしまうことになります。また、他人の意見や、ちょっとしたトラブルに、簡単に自分の指針が揺り動かされてしまうことでしょう。

一方で、自分の一定の型(スタイルやパターン)を持っていると、無駄な仕事の発生を抑えられるだけでなく、リズムができることで素早く着手・遂行できるようになります。その結果、型を持っていない時と比べて、仕事はかなり楽になります。

つまり自分の“型”を持つということは、自分を縛るといことではなく、一定の基本形を持つことで異変や無駄に気づきやすくなり、改善に向けた強力な指針になるのです。

「自分の型を持つ」という考え方は、仕事以外の日常生活にも適用できますし、良い仕事を行うための基盤構築になるため、私は強くお勧めします。

自分の“型”をどう持つか

型を持つことについて、自分の中に一定の共感する気持ちが芽生えたとして、次にどのように自分の型を持てば良いかについて考えていきたいと思います。

例えば、平日の就業以外の時間であれば、

①就寝と起床の時間を決める
②家を出るまで(=始業前)の段取りを決める(片付け・ストレッチ・シャワーなど)
③帰宅後(=終業後)の段取りを決める(ジム→風呂→食事→会話・休憩→就寝など)

といったことです。段取りだけでなく、モノの置き場所を固定化する等も一定の効果があることでしょう。

ちなみに「家を出るまで(=始業前)」「帰宅後(=終業後)」としているのは、コロナ禍の影響によって、リモート勤務やオフィス勤務など、近年の勤務状況が人や会社毎に大きく異なるからです。ただ、型を作るという意味ではどのような状況でも変わりませんし、むしろその型によってリズムが保てるなど救われることもあります。

自宅でノートを勉強し、書く学生
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一方、就業時間中であれば、

①取り掛かる仕事の順番を決める(メール処理→タスク調整→アポ取り→カレンダー反映→成果物作成→外出・商談→報告送信→情報整理など)
②時間帯によって仕事内容を決める(午前は雑務や処理仕事、午後は成果物や外出など)
③曜日や月度によって取り組む仕事や課題を決める((月)は作業、(火)(木)は午後に訪問、(水)(金)は成果物作成や集中作業など)

といった感じです。

資料作成時間、メール確認の回数を決めておく

それに加えて私の場合は、

④資料や文章の作り方を標準化する(テンプレ活用、辞書機能、箇条書きなど)
⑤仕事内容に応じて投入時間を決める(資料作成なら30分、メール閲覧は3秒など)
⑥メールやチャットの確認&処理は1日3回+スキマ時間(電話や通知は基本使わない)
⑦タスクは発生時点で全てタスクツールに入れる(Google ToDoリストを活用)

といったものを加えています。

特に④は、前出のコンサルティング会社で何度も繰り返し体で覚えていたため、今でも大変役立っています。

「資料作成30分」の制限を設定する理由

⑤の「資料作成は30分」と言うと、周りの人は「ほんとに?」といった表情を浮かべますが、逆に何らかゴールや制約条件を設けておかなければ、無尽蔵に時間を費やしてしまうことになります。

みなさんも資料作成の途中で細かな事が気になったり、あれもこれも入れておかなきゃ、といった気持ちになった経験はありませんか? もちろん私にもあります。

しかしその思考特性こそが時短を阻む最大の原因なのです。要は無意識のうちに成果物を過剰品質にしてしまっているのです。残業をしないことで知られるドイツのワーカーはそんな仕事のやり方はしません。最初に設定した品質基準が80%であれば、それを達成すれば仕事終了です。

実際、資料作成を30分内に納めようとすれば、「テンプレートを使う」「過去資料を再利用する」「見切り発車をやめて最初にストーリーライン(骨組み・流れ)を決めて、必要最低限のスライドを用意する」といった実効性の高いテクニックを自然と役立ていくことになるはずです。

メール閲覧3秒を実現する方法

「メール閲覧は3秒」については、私はGメールの「プレビュー機能」と「ショートカットキー」を使って瞬読を実現しています。具体的な操作イメージは過去記事「仕事が爆速化するGmailの意外な使い方」をご参照下さい。

私がお勧めする「プレビュー機能」の設定方法は、以下の通りです。

画面右上の設定>受信トレイタブで、
・「受信トレイの種類」欄で「未読メールを先頭」
・「閲覧ウィンドウ」欄で「閲覧ウィンドウを有効にする」
・「閲覧ウィンドウの位置」欄で「受信トレイの右」

またプレビュー機能でメールが勝手に既読にならないよう設定>全般タブで、
・「プレビューパネル」欄で「スレッドを既読にするタイミング」を「既読にしない」を選択し、そのあと「変更を保存」で設定完了です。

「ショートカットキー」については、上下キーでメールを選択して「Shift+I(既読にする)」または「Shift+U(未読にする)」、この2つを覚えておけば充分だと思います。

隙間時間に何をするかがその後の展開を左右する

⑥のメールやチャットの処理は「1日3回」と言うとハードルが高いようにも感じますが、「+隙間時間」があることで、処理能力の問題は解消できると思っています。相手から届くメールやチャットに都度対応していると、自分のペースが乱れます。こういった“型“を決めることで、集中力がそがれるのを防ぐことができるため、生産性は高まるはずです。

ちなみに私の場合は、電話は一部の限られた人以外は普段出ませんし、通知機能(アラート)もメールやチャットのアイコンバッチ機能を除いてすべてオフにしています。以前に他人のアラートを見てなんとなく「気が散りそうだなぁ」と思ってからずっとそうしていますが、今のところ何ら支障はありません。

なお、「隙間時間」は、日常における待ち時間や電車・タクシーでの移動時間など、見渡せばけっこうあるものです。その時間をネットニュース等を見るのに費やすのか、スマホでこまめに連絡やアポ取りなど仕事の前倒しを行うかで、その後の展開スピードは大きく変わってくることでしょう。

生産性が低い職場の共通点

メールのテンプレート事例
メールのテンプレート事例 図表=筆者作成

個人や会社から生産性向上の相談を受けることがあるのですが、生産性が低い原因を掘り下げてみると、何か特別な原因があるというよりかは、意外とそういった細やかな型作りを面倒くさがって取り組んでいないために、多くの時間をロスしている事に気づきます。

個性を出すべきところと、出しても意味がないところが逆転しまっているのです。

さらなる成長のために、自分で作った“型”を自ら破る

ここまで、自分の型をもつことで享受できるメリットや、その具体的な手段についてお話してきましたが、一方で「型にはまり過ぎると、創造性や柔軟性が損なわれてしまうのではないか」といった心配の声もあると思います。

確かにそういった心配も理解はできますが、世の中のあり様や時代は移り変わるもので、当然ながら求められる“型”も変わっていきますから、それに向けてどんどん自分をアップデートしていかなくてはなりません。

守破離という言葉が意味する通り、人にはいつか必ず自分で作った“型(殻)”を破るべき時が来ます。その時に、ベースとなる“型”があることで、どこに向かってどのように破っていけばいいのかが明確に分かるのです。

人間が変わる方法は3つしかない

型の破り方には大きく2つあります。

まず1つは既存の延長線上で型を破っていく方法です。

たとえば、前項で説明したような、「自分の型を持つ10個の取り組み」それぞれをブラッシュアップしていくイメージです。型を持つことで一定の手応えを感じている人がさらなる向上を目指して取り組むアプローチと言えます。

もう1つはより大きく型を破っていく方法です。

これには世界的な経営コンサルタントとして有名な大前研一氏の言葉が役に立ちそうです。大前研一氏は人間が変わる方法は次の3つしかないと言っています。

「時間配分を変える」「住む場所を変える」「付き合う人を変える」です。

私も普段よく「行ってみて、会ってみて、やってみよ」という台詞を口にするのですが、もしかしたら無意識のうちに影響を受けているのかもしれません。

また、「流れる水は腐らず」のごとく、常に自分を新しい機会や異なる環境に置くことで、自然と変化耐性が育まれていくものと思っています。

以上、自分の“型”をもつことについてお話してきましたが、仕事や人生が安定しないと感じる人は、まずは身近な自分の型を持つことから始めてみませんか?

きっとその“型”に救われ、やがてその“型”を超えていく日が来るはずです。