毎日どこかでマネーや自己啓発のセミナーが開催されている。有益なものを見分ける方法はあるのか。経済コラムニストの大江英樹さんは「私が信頼する主催者の会では、金儲けの方法や儲かる銘柄を教えてくれることは一切ありません。自分で考えずに『儲かる方法や儲かる銘柄を教えてくれ』と聞く人は多いですが、そうした人がセミナー商売のカモになっているのです」という――。
セミナーでプレゼンするビジネスウーマン
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セミナーがあふれるように開催されている

今、世の中にはさまざまなセミナーがあふれています。セミナーやイベントの申し込みサイトである「こくちーず」を見ると、今月中の開催だけで4000件近くありますし、他のセミナーサイトを見てもほぼ同様なので、全国で合計すれば1カ月に開催されるセミナーの回数は恐らく数万回になるものと思われます。私自身も自分が主催するセミナーは年間十数回はやっています。

その種類もさまざまなので自分の興味のあるものに参加することができるのは楽しみでもありますし、メリットもあると思います。でも私はセミナーへ参加するにあたっては、いくつか注意すべき点もあると考えています。特にお金に関するセミナーや自己啓発系のものについては気をつけておくことが多いように思います。

まずはセミナーとひと口に言っても無料のものと有料のものがあります。どちらの方が多いかはデータがないのではっきりとはわかりませんが、恐らく無料のものがかなり多いでしょう。中には単に無料というだけではなく、ホテルの会場でお茶やケーキ、そしてお土産まで付いた豪勢なセミナーもあります。こういうセミナーを「お得だ」と感じて参加する人もそれなりに多くいるから開催されているのでしょう。

なぜ無料で開催できるのか

でもそういった無料セミナーに「お得だから」というだけで参加するのではなく、そもそもなぜ無料でしかもお土産まで付いているのだろう? と考えるべきです。これは言うまでもなくマーケティングの手法としてやっていることなのです。もっと強い表現で言えば、「無料である、とかお土産や食べ物を提供するということをエサにしてばらまき、そこからお客さんを釣り上げようとしている」と言っても良いでしょう。でもこれは業者としては当然のことです。主催者が会場費やお土産などのコストをかけてまでやるのですから、そこからリターンが得られなければ丸損になってしまいます。

中にはできたばかりの製品やサービスを試してもらうために純粋に「広告宣伝」としてやっているというケースもあるでしょうが、メーカーなどとは違って金融系のものであれば、そういうことはまずないでしょう。やはり自分たちの金融商品を買ってもらいたいか、あるいは新たに口座を開設してほしいという狙いがあるに違いありません。したがって、自分がその金融商品に興味があり、詳しく話を聞きたい、あるいは聞いて自分が納得するまでは勧められても安易に買わないという意志を持って臨むのであれば、そんな無料セミナーに参加するのも良いでしょうが、後から気が付くと巧みなセールスによって衝動的に買ってしまったということも大いにあり得ますので、気をつけることが必要です。

有料セミナーは大丈夫なのか

では、有料のセミナーはどうでしょう? 参加費をきちんと取って開催しているので、商品を売りつけられたりすることはない、と考えていいのでしょうか。恐らく無料セミナーに比べればそういうケースはかなり少ないと思います。ただ、問題は、その有料セミナー自体の内容です。払った参加費に見合うだけの値打ちがあるかどうかが大きな問題だと思います。

金融機関が主催するセミナーはその多くが無料で明らかに宣伝の意図があるということが容易に推測されますが、何らかの組織や個人が主催する有料セミナーの場合は参加してみるまで内容に価値があるかどうかはなかなかわかりません。ただ、価値がありそうかどうかをある程度予測することは可能です。

セミナー風景
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なぜ儲かるノウハウをわざわざ人に教えるのか

例えばよくあるのは、「お金の増やし方」みたいなテーマで開催される場合です。多くの場合、このタイプは投資で成功してお金持ちになった人などがその経験やノウハウを教えるというものが多いのです。あるいは自己啓発セミナーであれば、事業が成功する秘訣を伝授するみたいな内容のものですね。

でもこれは考えてみると少し不思議な気がします。仮に投資や資産運用で成功したお金持ちの人なら、なぜそんな少額の参加費を取って稼ごうとするのでしょう。そんなヒマがあるのなら、自分でトレードをやっている方がずっと稼ぎが良いはずです。あるいはビジネスで成功の秘訣を伝授すると言っても、そんな参加費数千円程度稼ぐくらいなら、自分が成功したビジネスを続ける方がよほど実入りがいいのではないでしょうか。「いや、それは成功した人がボランティアで、あるいは社会への還元という純粋な精神でやっているのだ」というかもしれませんが、それなら参加費だって無料にすればいいはずです。

ひょっとしたら、多分もうあまり稼げなくなってきたからこういうセミナーをやっているんじゃないだろうかということも考えられます。だとすれば稼げなくなったノウハウなんか聞いても役に立たないはずです。それに今でも投資や事業で儲かっているのなら、そちらが忙しくてそんなセミナーなんかやっているヒマはないでしょう。そもそも本当に儲かるノウハウならそれをどうしてわざわざ人に教えるのでしょうか。

また、参加費は通常はせいぜい数千円程度ですが、中には何万円とか何十万円という高額の参加費を取るものもあります。だいたいそういう場合に主催者が主張するうたい文句は「それだけの高額なお金を出すということで参加者の覚悟を問うている」ということが多いですが、それは実に怪しげな話です。

セミナーでの質問でわかるカモになってしまう人

何をするにしても、セミナーに参加して知識やノウハウを得たからといってすぐにうまくいくほど投資や事業は甘いものではありません。自分で実践してみる、そして自分に合うやり方かどうかを考えた上でやってみないと何とも言えないのです。そもそもセミナーで成功の秘訣を一から十まで教えてもらい、その通りやれば必ず成功する! という考え方自体が間違っていると思います。

私が信頼するアナリストやエコノミストが開催するセミナーでは、金儲けの方法や儲かる銘柄を教えてくれることなどは一切ありません。情報の見方、判断のヒントになる話をその人自身の感覚でコメントしてくれるだけです。したがってあくまでもセミナーでの話を聞いた上で、自分で考えて判断をしなければならないのです。ところが自分では考えずに「儲かる方法や儲かる銘柄を教えてくれ」という人は実際に多いようです。そういう人たちがカモとしてちまたにたくさんいるからこそ「お金の増やし方」や「ビジネス成功の秘訣」みたいなセミナーが商売になるのだろうと思います。

結局、投資にしてもビジネスにしても成功するためには自分で考えるしかないのです。参加しても役に立つセミナーというのは「自分で考える」ためのヒントを与えてくれるものだと思います。成功やお金儲けのノウハウは、人によっても違うし、時代と共に変化し続けていきます。いつの時代でも必要なのは根気と柔軟な頭、そして少しの運でしょう。