4月は出会いの季節です。初対面の人に覚えてもらうにはどんな自己紹介をすればいいでしょうか。話し方コンサルタントの阿隅和美さんは「趣味を語るにしても、より印象に残る前置きのフレーズがある」といいます――。
手を伸ばすビジネスウーマン
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自己紹介は事前準備が大切

4月は新しい職場や子どもの学校などで自己紹介をする機会が多くなる時期。自己紹介は第一印象を決定づけて、新しい人間関係をスタートさせる大事なシーンです。

しかし初めての環境での自己紹介は緊張して苦手な方も多いようです。でも、事前準備をしておけば落ち着いて話すことができるはず。

そこで、今回は第一印象で失敗しない「奇をてらわず、印象に残る自己紹介の王道」をご紹介します。

自己紹介の緊張対策には「目的」と「準備」

自己紹介で緊張する主な原因は、「初対面の相手に何を話せばよいか分からない」「自分がどう見られているか不安になる」ということではないでしょうか。

そもそも自己紹介の目的は、相手に自分のことを知ってもらい、良好な関係になるきっかけを作ることです。そう考えれば、ウケを狙うなど奇をてらわずに無難な内容がおすすめです。自然体を心掛けましょう。

とはいえ、誰でもたくさんの引き出しを持っているので、よい関係をスタートするには、どの自分を知ってもらえばいいのかが悩みどころではないでしょうか。

そこで、準備の際にはまず自己紹介をする場面での目的をはっきりさせることが肝心です。

例えば、新組織やチームなら仕事仲間として「信頼関係をつくり、成果につなげたい」、子どもの学校なら「ママ友と円滑な関係をつくりたい」など、それぞれの目的にあった話題を引き出しから選びましょう。

話題は「自分が知ってほしい」「相手が興味あり」の組み合わせ

もう一つ知っておきたいのが、自己紹介は聞き流されやすいということです。だからこそ、興味を持ってもらい、記憶に残って次につながる自己紹介をするには準備が必要なのです。当然、その場での思いつきよりも準備をしたほうが緊張も和らぎます。

決して外さない話題の選び方は、自分が知ってほしいことと相手が興味のありそうなことの重なった部分を選ぶこと。ビジネスシーンなら職務上の立場、子どもの学校なら母親という立場で、場面や対象者によって自分の出し方が変わってきます。

例えば、「ビジネスにつなげたい」場合には、仕事での強み、実績をメインにしつつ、皆も興味がありそうなプライベートでの趣味の話題を添える。

一方、ママ友の仲間をつくりたいのであれば、共通の話題である子どもや家族の話をメインに紹介するなど、その時々のシーンで自分の置かれた役割、立場に応じて自己紹介の内容を選択しましょう。

どこでも使える「自己紹介の基本項目」

では具体的に自己紹介の基本項目と記憶に残る伝え方の工夫をみていきましょう。

一般的なビジネスシーンでの自己紹介の基本項目は

①名前
②所属・担当等
③学歴・経歴
④出身地・住んでいるところ
⑤特徴・特技・趣味など
⑥今後の抱負

の6つです。

特に、自己紹介後に話題にしてもらえそうなことを盛り込みます。社風などによって異なると思うので、もちろん全部使わなくてもOKです。柔軟に組み合わせを変えて、自己紹介しましょう。

記憶に残る伝え方の工夫は、単なる紹介でなくエピソードを添えることです。また一度にたくさんの情報は覚えられないので欲張らずに「Web関連が得意な佐藤さん」「ラーメン好きの小池さん」のように、「名前と特徴」をセットでインプットしてもらえれば十分です。ではポイントを見ていきましょう。

「うどん県の香川県出身です」は◎

①名前

特徴的な名前の方は「由来」など、一言添えるだけでも印象に残ります。そうでない場合には著名人と同じ名前というエピソードを挿入してもいいでしょう。

例)「国民的アイドルの嵐、櫻井翔さんと同じ苗字の櫻井若葉です」
「私の名前は、テニスプレーヤーの大坂なおみさんと同じなおみですが、テニスではなくダンスが趣味です」

③学歴・経歴/④出身地・住んでいるところ

学歴や出身地は自分の背景を簡単に示せる便利な情報です。「何学部で何を学んだのか」という情報がビジネスにつながることもあります。また転職の際には、前職の内容とあわせて仕事のエピソードを伝えるといいでしょう。

例)「前職は損保会社で10年広報を担当していまして社名変更など大きなイベントもいくつか経験しました」

住んでいるところや出身地に関しては、美味しい食べ物、観光名所などは、興味をもってもらいやすいので自己紹介後の話題になりやすいです。

例)「うどん県の香川県出身です。1日3食でも飽きないくらい、うどん好きです」
「海なし県の埼玉出身でして、海への憧れから今は神奈川県藤沢市に住んでいます」

讃岐うどん
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エピソードは一つに絞る

⑤特徴・特技・趣味など

得意ネタがある話題や、質問をしてほしいというテーマを選びます。ただ、自己中心的になっても白けてしまうので、相手が興味を持ちそうなものを選びましょう。特徴・特技・趣味などを伝える理由は2つあります。

まず共通点を見つけて話しかけてもらうきっかけを提供することです。もう一つが、人となりを知ってもらうことです。そのためにも、具体的なエピソードを入れると親近感が湧きます。ただしエピソードは一つに絞り、手短にまとめること。あれもこれもと話を広げ過ぎて長くしないのがポイントです。

趣味のエピソードは、「始めたきっかけ」や「何が面白いか」というストーリーで話すといいでしょう。

例)「私の趣味はピアノです。実は子どもの習い事に付き添っていたら面白そうでハマってしまいました。今はディズニーの『星に願いを』を練習中です」

読書や映画鑑賞、カフェ巡り等よくある趣味でも、話し方次第で面白い内容になります。

読書はいつもお気に入りのカフェでするとか、好きな映画は何十回も観るなど、一言加えて印象的な話にしましょう。

例)「休日はカメラを持ち、風景を撮りに行きます。最近お気に入りは下町の風情です」

趣味がないという方は、飼っているペットについても話題になりやすいのでおすすめです。犬や猫等を飼っている者同士、仲間の輪ができやすいはずです。

例)「毎朝出勤前に愛犬の散歩をするのが私のモーニングルーティンです。そのため、会社では朝からテンション高めです」

未来志向の締めで印象アップ

⑥今後の抱負

新しい環境の中で、「~をしたい」「~を頑張りたい」など、自分がどうありたいのか、何を目指してどんなことに取り組もうとしているのかという、未来志向の言葉で締めると印象がぐっとよくなります。こうした目標を明言すると、周囲からの協力が得やすくなるという効果もあります。特に、リーダー的な立場の人はチームの方向性などで自己紹介をまとめると締まります。

例)「○○支店での営業経験を生かしつつ、本社でも積極的に新規開拓に取り組んでいきたいと思います。本日からよろしくお願いします」
「このチームをチャレンジする人を応援するチームにしていきます。一緒にプロジェクトを成功させましょう」

ワンランク上の自己紹介を目指すなら盛り込むべき3つのこと

ワンランク上の自己紹介を目指したいなら、必ず盛り込みたいのが、①自分と仲良くなるメリット②人柄③意外な一面です。

①自分と仲良くなるメリット

今後につなげたいのであれば、自分の専門性、得意なこと、実績・強みを示して、相手視点で、どんな時に役に立てるのかを伝えます。

実績や強みは「自慢話になってしまいそうで心配」という声もありますが、構成次第です。「私の強みがあなたにとってこんなお役に立てます」という組み立てにすると、むしろ興味・関心を持ってもらえて、「つかみ」になります。強みを嫌味にならずにアピールできる構成フレームをご紹介しますので、どうぞアレンジしてご活用ください。

・自分と仲良くなるメリットを伝える構成フレーム
「私は○○という仕事をしています。/業務を担当してきました。○○という想いで、○○の方が○○となるサービスを提供しています。特に、長い間携わってきた○○については、○○という時にお役に立てるかもしれません。もし何かあればいつでもご相談ください。」

自分の人柄は「間接的」に伝える

②人柄

特に、リーダーや管理職の場合、実績や今後の抱負がメインになりがちですが、部下がコミュニケーションをとりやすいように、人柄が伝わるエピソードを上手く活用したいところです。しかし、例えば「私は優しい人間です」のように自分の人柄を伝えるのは気恥ずかしいものです。そこで、間接的に人柄を示すエピソードで伝えるといいでしょう。

例)「年齢とともに涙もろくなって、テレビドラマでもすぐ涙腺が崩壊します」

また、「高橋課長ではなく美香さんと呼んでください」と、呼び方をお願いすれば歳の差や立場を気にせずざっくばらんに接する人柄が伝わります。「こんな風に接してください」というように自分の取り扱い説明をするのもいいですね。

ギャップは自分で作ることができる

③意外な一面

一般的に相手の意外な一面を知ると好感を持ちやすくなると言われています。

例えば、しっかり者という印象の方が、実は方向オンチで地図が読めないなど、自分のちょっとダメなところを織り込むなど、真逆のイメージとなるエピソードを伝えると、意外性を生み、親近感がうまれます。また、こういった部分を付け加えることで、自己紹介に盛り込んだ強みや実績が嫌味にならなくなる効果もあります。

そうはいっても、ギャップが見つからないという方もいるかもしれません。そういう場合でも、言い方次第でギャップはつくれます。それが、「私、実は○○なんです」という言い方です。「実は」とひと言を付けるだけで、秘密をカミングアウトされているようで印象に残りやすくなります。

例えば、「特技はトライアスロンです」よりも、「おとなしそうに見られますが、実は趣味はトライアスロンです」と言ってみたり、あるいは「趣味はマンガです」よりも「ビジネス書ばかり読んでいそうと言われますが、実はマンガが好きで『ONE PIECE』は全巻持っています」と言ってみたりした方が、意外性が際立ちます。

また、伝え方の工夫として、苦手なことを自己開示するときにはポジティブに締めくくると好印象が残ります。「苦手な食べ物は納豆です」よりも「納豆が苦手なのですが、もし克服の仕方を知っている方がいたら教えてください」、「料理は苦手です」よりも「料理が苦手なので料理上手のパートナーと結婚しました」など、ポジティブな一文を付け加えると印象も良くなります。

例)「リモートワークが続いてリモート太りをしてしまいまして、健康診断の数値も気になりだしたので、良い体質改善法があったらぜひ教えてください」

自己紹介の「話し方」

自己紹介は話し方によって印象はがらりと変わります。まず「特に何もありません」という言い方や、緊張して下を向いて「早く終わらせたい」ことが垣間見える消極的な行動は控えましょう。謙遜や照れ隠しのつもりでも「親しくなるつもりはない」「やる気がない」と誤解されてしまう場合もあるのでご注意ください。

・自己紹介は短い方が好かれる

「自己紹介は簡潔に」が原則です。つい話し始めると長くなりがちなので、あれもこれもと盛り込まず、1文を短く、エピソードは簡潔にして1分程度にまとめておくといいでしょう。

・大きめの声で、ゆっくりはきはき話す

聞き手を意識して、大きな声でゆっくりはきはきと話すこと。小さい声でぼそぼそ話すと、自信がなさそうに見えたり、不機嫌に見えたりしてマイナスの印象を与えます。また、緊張すると早口になってしまう人がいますが、落ち着いて話すように心掛けましょう。

・顔を上げて、明るい表情を意識する

緊張すると相手の顔を見られなくなるという場合もありますが、できるだけ顔を上げて表情を見せるようにします。そして相手の顔を順番に見ながら話すと、相手は自分に話してくれていると感じ好印象です。話に詰まったり、間違えたりしても気にすることはありません。顔を上げて明るい表情で話をすれば、間違えたとしても印象はよくなるものです。

オンラインや子どもの学校でも好印象を

・オンラインでの自己紹介

最近は、リモートで自己紹介をする場面も増えました。リモートの場合は、自己紹介のスライドを1枚用意して、経歴・実績と家族構成、趣味など人となりをまとめて、PCで共有しながら自己紹介をする方法もあります。

実績は言葉にすると嫌味になりがちですが、スライドに書いておいてそこはサラっと流すようにすれば自慢気になりません。またスライドを使った自己紹介では、プライベートの写真など画像を挿入して、人柄や意外性を上手に見せることもできます。

・子どもの学校での自己紹介

一方、子どもの学校での自己紹介は仕事モードから母親モードに切り変えて、子ども同士が仲良くなる手助けをしてあげるスタンスで話しましょう。

例えば、「まだ幼いところがありますがサッカーが大好きです。お近くの方がいたら、ぜひサッカー仲間になってください」など、子どもの性格や趣味を紹介して仲良くなってもらいたいと伝えます。

また家族構成もこうした場に適した話題です。「2人姉妹の長女で妹の面倒をよくみてくれています」「一人っ子でのんびりしています」など、兄弟や姉妹との関係性やどんな性格かなどエピソードを加えて話しましょう。

他にも「男子で学校からの手紙が手元に届かないことが多いので、ぜひ学校の情報を教えてください」など、学校生活での情報交換をするお仲間をつくりたいという気持ちを素直に伝えるのもいいですし、「ベランダ菜園をやっています」「ペットで猫を飼っています」など声をかけてもらいやすい話題を提供してもいいでしょう。

ただあくまで、主役は子どもです。優しく学校生活を見守るというスタンスでいれば浮いてしまうことはまずないでしょう。

何事も初めが肝心です。たかが自己紹介されど自己紹介。好印象が残る自己紹介で、出会いを大切に、新生活の好スタートを切って良い関係を築いていきましょう。