「FIREには1億円の貯蓄が必要」とよく言われます。しかしマネーコンサルタントの頼藤太希さんは「それに達しなくても早期リタイアは十分に目指せます」と断言します。頼藤さんの言う、誰にでもできるFIREの実現策とは――。

※本稿は、頼藤太希・高山一恵『「経済的自由」を最速で手に入れる! ぴったりの投資プランが最速で見つかる! マンガと図解 はじめてのFIRE』(宝島社)の一部を再編集したものです。

椅子に座ってラップトップを使用して成功した若い女性
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生活費をまかなうだけなら1億円は不要

FIREを目指すということは、資産を運用し、そこから得られる収入で生きていくということです。株式の配当収入などだけで生活していくわけですから、かなりの額の資産が必要になるイメージをもつでしょうが、億万長者=1億円に達していなくても早期リタイアは十分に目指せます。

ひとつ目安として言えば、300万円×25倍=7500万円が私の試算です。年間300万円で生活していこうとすれば、その25倍の7500万円の資産があれば何歳からでもFIREできます。「毎年もっとお金(生活費)が必要だ」ということであれば必要な資産額は増えますが、逆に「そんなになくても生活できる」のであれば、必要な額は少なくてすみます。

いずれにせよ、メディアなどで見聞きする「1億円」は不要です。そもそも、そんな額が必要なら欧米の若者に支持されることもありません。FIREは夢物語ではなく、あなたでも実現できる「生き方」のひとつなのです。

極端な我慢は本末転倒

FIREは、投資法ではなく「生き方」「ライフスタイル」です。ですから、なぜFIREを目指すのか、その点をあらためて考えてみましょう。

FIREのために必要な資産は人それぞれですが、単純な話、猛烈に働いて稼いで、極端な節約を重ねれば、比較的早い時期に達成できます。たとえば残業に休日出勤を重ね、食事はカップラーメン、お酒も飲まず、趣味にもまったくお金を使わない。新たな知識を学ぶための自己投資も一切なし……。

そうしてがんばってFIREを達成しても、以降、FIRE生活を継続する限り、使えるお金は年間に300万円前後です。経済的な自立とは、お金のことを何も考えずに好きなものをじゃんじゃん買えるという意味ではありません。

働かずに自由な時間がいくらできても、その生き方に満足できるでしょうか? お金がなければ何もできないというわけではありませんが、「働かずにすむ将来」を目的に「今の暮らし」を犠牲にするのは、とてももったいないと思います。

「RE」(早期リタイア)よりもまず「FI」(経済的自立)を重視

そもそも、仕事が充実している人はFIREを目指す必要がありません。そして、会社の人間関係にストレスを抱えているのなら転職すればいいわけですし、上司の指示で働くのが嫌なら個人事業主や起業して働くことも考えられます……などと言うと、随分突き放した言い方に聞こえる方もいると思いますが、そうではありません。

もちろん、組織から離れて10万円稼ぐのは大変なことです。でも、経済的自立ができていれば、その月10万円の勤労収入でも生活はできます。当初はご飯を食べるだけで精一杯だけど、勤労収入以外の収入があり経済面で余裕があれば、やりたい仕事に取り組めることで収入がアップしたり、身についたスキルで就職してステップアップできたりすることも可能になります。

ここでお伝えしたいのは、仕事がつらいとばかり考えて早期リタイア(RE)を目指すのではなく、まず経済的自立(FI)を確立することで人生の選択肢の幅を広げてみてほしい、ということです。

お金を貯め込む
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日本では「フルFIRE」の達成は困難

FIREには、大きく2つ種類があります。ひとつは、完全に仕事から退いて、不労所得のみで生活する「フルFIRE」。もうひとつが、不労所得を得ながら、ある程度働いて収入を得ていく「サイドFIRE」。

FIREと言うと前者を想像する人が多いと思いますが、このフルFIREは現在の日本ではかなりハードルが高いと言えます。

まずひとつは、実現に向けてかなり激しい節約を求められるということ。「7500万円」を30歳の人が50歳までにつくるには、年利4%で運用したとしても月およそ20万円の投資が必要です。

さらに、激しい節約と同時に貯蓄したお金を全額投資に回していかなければFIRE実現まで年数がかかり、実現後も、安定した利率で運用し続けられる保証もありません。そして、企業を退職すると厚生年金から国民年金に移行することになり、年金額が減ることも忘れてはいけません。老後の年金が少なくなれば、資産運用の収入はもちろん、資産運用に頼る時期が長くなります。

目指すなら勤労収入+資産運用収入の「サイドFIRE」

「フルFIRE」が困難だとして、一方の「サイドFIRE」はどうでしょうか。投資収益に加えて、アルバイトや個人事業主などである程度負担を少なくしながら働き収入を得ていくスタイル。

ちなみに、「バリスタFIRE」と言う言葉もありますが、これは「カフェでパート・アルバイトとして働きながら」というイメージでサイドFIREの一種です。

この「フル」と「サイド」を比べたときに、現在の日本で現実的なのは「サイドFIRE」になるでしょう。「サイド」という言葉の響きから誤解があるかもしれませんが、これは決して妥協案ではありません。

サイドFIREでは、早期リタイアではなく、セミリタイアを目指すわけですが、単に「短時間だけ仕事する」「ゆったり仕事する」という考え方ではなく、本書では、「働き方の選択肢を増やし、やりたい仕事を過大な負担なく取り組む」と捉えたいと思います。

「仕事が嫌だ。辞めたい」とだけ考えると、FIREがすなわち「投資で稼いで仕事を辞める」という捉え方・目的になっていきます。しかし、ライクワーク(好きで働く仕事)、ライフワークに取り組めるとしたら、どうでしょうか。

また、働き方の問題だけでなく、収入面でも大きなメリットがあります。勤労収入があるので、用意すべきFIRE資産は先ほど目安として示した7500万円よりぐっと下げられます。

つまり、日々の節約をそこまで強いられないということ。また、運用中の利率の上下にも対応できるようになります。

子どもに「働く意味」を伝える

そして、子どもへ親として見せる「生き方」の問題もあるでしょう。親として、仕事が嫌で辞めたという姿を見せることになるわけです。

労働が嫌という意見はわかりますが、労働で得る対価、社会でどのような人がどのように働き、収益が上がるのか、そうしたことを子どもに伝えずによいのか、一度考えてみてもらいたいと思います。

仕事をしてお金をもらうということは、お金を喜んで払う人がいます。お金の向こうには人がいるのです。仕事をネガティブなものではなく、ポジティブなものとして捉えることが大切ではないでしょうか。

「豊かな暮らし」とは何か

子どもは「親の背中」を見て育つと言われますが、子に見せる大事な時期に、何の目的も目標ももたず早期リタイアしている姿を見せるのが望ましいのか、とも言えます。

FIREとは、人生を豊かに過ごすための生き方です。運用方法とともに、どのような暮らしをしたいのかよく考えて選択することが、結果的に豊かな暮らしにつながると思います。

主体的な生き方を獲得するために女性こそ「FI」が大切

現在の日本において、共働きが増えてきたとは言え、専業主婦の方も多くいます。また、依然として男性と比べ女性のほうが、平均年収が低いという現実もあります。

万一、離婚することになれば、男性よりも女性のほうがその後のお金のことを考えなければならないのが実情です。実際、離婚した場合に、その後の暮らしでお金をどのように見積もるのかというマネー相談を受けることもあります。

勤労収入を増やすのはもちろんながら、資産運用による収入があれば、職業の選択にも幅ができます。慌てて、ご飯を食べるためだけにする仕事=ライスワークを行わずにすみます。じっくりとライクワーク、ライフワークに取り組んでいけます。要は、主体的に生き方を選べるわけです。

それらの点を考えると、女性がFIREを考える場合は、まずREは置いておいて、FIを重視する必要があるでしょう。夫婦で一緒に考え、進めていくにしても、頭のなかに入れておきたいことです。

人生100年時代における「老後資金」の考え方

必要な老後資金の考え方について、以前に「2000万円問題」が話題となりましたが、これは総務省の家計調査において高齢無職世帯の年金収入と支出に毎月5万円ほどの差があり、この差が30~35年を補うために2000万円が必要という話です。

頼藤太希・高山一恵『「経済的自由」を最速で手に入れる! ぴったりの投資プランが最速で見つかる! マンガと図解 はじめてのFIRE』(宝島社)
頼藤太希・高山一恵『「経済的自由」を最速で手に入れる! ぴったりの投資プランが最速で見つかる! マンガと図解 はじめてのFIRE』(宝島社)

「人生100年時代」と言われ、男性の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳(2020年時点)で、100歳を超える高齢者は、国内で8万人を超えています。この人数は51年連続で過去最多を更新しています。

こうした話を聞くと、特別に「老後のため」の資金をつくらなければと思ってしまう人もいるかもしれません。

しかし、サイドFIREを行う場合の考え方としては、生活費を年間で300万円(月で25万円)と決めて、老後も同じ額で生活することを前提にすると、勤労収入で稼いでいた額が年金収入でまかなえるのであれば、「老後資金」として無理に用意する必要はありません。

資産は稼ぎ続けてくれる

つまり、考えることは、年金をもらう前に稼いでいた勤労収入の額と、同等かそれ以上の年金が世帯でもらえるのか、という点のみです。老後の人生は長いのですが、生きている限り年金は支給され、同様に資産も“働き”続けて、収入を生み出してくれます。

ただし、豊かな老後を送るということに関しては十分ではないと考えれば、原則60歳以上から引き出せるようになるiDeCo(個人型確定拠出年金)や、つみたてNISAの活用も選択肢に入れておくとよいでしょう。