経営難に陥っていた中国の不動産大手・恒大集団が、昨年12月、格付け会社から一部デフォルトの認定を受けた。代々木ゼミナールの人気講師、蔭山克秀氏は「これは共同富裕を掲げる習近平が、行き過ぎた不動産バブルを沈静化させるために不動産融資規制を強めたためですが、下手をするとバブル崩壊の引き金にもなりかねません」という——。
夕焼けを背景にした新興住宅地のビル群
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上海のマンション一戸で東京のビル一棟が買える

2021年末、少し前から経営難がささやかれていた中国の不動産大手「恒大集団」が、ついに社債の利払いで部分的にデフォルトしました。

恒大集団は中国第2位の超大手不動産開発会社。1994年より住宅の個人所有が認められたのを機に1996年に設立されました。都市部における住宅需要激増の波に乗り、マンション建設を軸に、観光、保険、サッカーのクラブチーム運営などを多角的に経営し、飛躍的に成長を遂げてきた企業です。

あまり知られていませんが、実は近年の中国は、住宅関連の固定資産投資を増やすことでGDPを伸ばしていくという、完全に「不動産バブルを推進力とする経済成長戦略」をとってきました。その結果、中国では空前の住宅ブームが起こり、建設されたマンションは全人口の2倍分、実際に約4割の人が2戸以上の住宅を持つに至っています。

それとともに、価格もすさまじく高騰しました。今や大都市圏では、住宅価格が年収のなんと約30倍にまで達し(日本のバブル期でも10倍ぐらい)、現在は上海でマンション1戸買う金があれば、東京でビル一棟が買えるとまでいわれるまでになっています。そして恒大集団は、自社株と不動産を担保に借入金をどんどん増やし、それを原資に地方政府から土地の使用権を買いあさり(これが中国における「土地売買」です)、マンションを供給し続けることで、中国バブルをあおりにあおってきたのです。

恒大の一部デフォルトは中国政府の差し金か

その恒大集団が2020年から経営難に陥り、2021年末、ついに部分的なデフォルトに陥りました。果たして、これは中国バブル崩壊の引き金になるのでしょうか。

結論からいうと、そうはならないと思います。もっと正確にいうと「そうならない方向に、中国政府が誘導していく」と思われます。なぜかというと、どうも恒大集団の部分的デフォルトは、中国政府がそうなるように仕向けた可能性が高いからです。

中国の暴落するマーケットとのたうち回る龍の影
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恒大集団のイケイケな手法は、これまでは習近平の方針(不動産主導での経済成長)と合致していました。しかし現在のように、一部の富裕層以外に手が届かないところまで住宅価格が高騰するのは「今後の方針」とかみ合わない。

習近平は、2018年の憲法改正で国家主席の任期を廃止し、「生涯国家主席」をめざしているといわれます。そのためには、中国人民全体から幅広く支持される必要がありますが、現在の極端な格差社会(富裕層=純金融資産保有額が100万ドル以上の人々=人口がわずか0.5%)のままでは、支持基盤が脆弱ぜいじゃくです。そこで彼は2021年夏より、新しいスローガンを打ち出しました。それが「共同富裕」です。

不動産融資規制は「共同富裕」を実現させるポーズ

社会主義市場経済を導入してからの中国の経済指針は、先富論(豊かになれる者から先に豊かに)→小康社会(ややゆとりのある生活の実現した社会)でした。しかし2021年7月の中国共産党創立100周年祝賀記念式典で、習近平は「小康社会の全面的完成」を宣言し、次なる目標として「共同富裕」を掲げたのです。

共同富裕とは「貧富の差をなくし、みんなで豊かになる」ことです。確かに一部の富裕層だけでなく、中国人民すべてを豊かにすることができれば、習近平の支持基盤は盤石になり、生涯国家主席への道も夢ではなくなりそうです。しかし、そのためには今の不動産バブルは行き過ぎました。価格が高騰しすぎ、もはや住宅は、富裕層と一部の中間層以上の人間にしか手が出せない代物になってしまいました。このままでは、人口の大多数を占める一般勤労世帯の支持は得られません。

だから習近平は、恒大集団を不動産融資規制で追い込む姿勢を、ある意味「中国人民に見せつけた」と考えられるのです。恒大集団は中国バブルの牽引役でしたから、これは「過熱しすぎた不動産市場を少し冷ますぞ」という中国政府からのメッセージになります。これをすると、バブルが沈静化する反面、富裕層が損をすることにつながりますが、いいかえれば、それは「富裕層にある程度、損をさせつつ、住宅価格を一般民衆の手の届く所まで下げてくれる」ことにもなります。これぞ、まさに共同富裕。習近平はこうして、生涯国家主席に向けての民衆の求心力を高めようとしていると考えられるのです。

中国が不動産バブルをキープするために必要なこと

しかしながら、これはあくまで習近平が思い描いた(と思われる)青写真であり、実際に、そううまくいくとは限りません。確かに、これがうまくいけば、彼の支持基盤は盤石なものになるでしょう。しかし、このやり方は、下手をすると「バブル崩壊の引き金」にもなりかねません。なぜなら住宅価格の高騰を抑える政策は「もう不動産ではもうからない」というメッセージとも受けとれるため、投資家たちを「売り」方向に暴走させる危険性があるからです。

五星紅旗と中国の株価チャート
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中国は、その気になれば政府の市場介入で、ある程度のバブル状態を維持することはできると思います。しかし金融のグローバル化が進んでいる今日は、外資の逃げ足も速いため、中国政府が望んでいる水準で維持できるとは限りません。

もし中国が今の不動産バブルの状況を「ほどよくキープ」したいなら、大切なのは次なるメッセージでしょう。つまり、何のために恒大集団に厳しくあたっているのか、それによって国民がどんな得をできるのか、これらが富裕層と一般民衆のすべてにちゃんと伝わらない限り、中国は不慣れな市場経済に足元をすくわれかねないのです。