1億円以上の資産を築いた人はどのような考え方や行動の習慣があるのだろうか。経済コラムニストの大江英樹さんが、投資信託メインの投資で4億円の資産をつくった“元普通のサラリーマン”こん吉さん(ハンドルネーム)にインタビューを実施した――。

※本稿は、大江英樹『となりの億り人』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

リスクブロックを取り除く人間の手
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

元会社員なのに4億円を超える金融資産

「こん吉」さんは60代、中国地方に住む個人投資家で、私は彼と知り合ってからもう10年ほどになります。こん吉さんも多くの億り人と同様、親からの遺産を相続したわけではなく、個人で事業をやって儲けたわけでもありません。元々はサラリーマンとしてコツコツと投資を始め、今では4億円を超える金融資産を保有する、大成功した投資家です。

ご本人は、照れくさそうに「いや、私は運が良かっただけなんですよ」と言いますが、じっくりと話を聞くと、決して運などではなく、投資家として成功するために必要なことをきちんと実践してきています。彼は自分でSNSやブログをやっていて定期的にメッセージを発信していますが、私は彼のメッセージにはいつも強い共感を覚えます。そんな彼の考え方や行動について、普通の人が何をどう参考にすべきかについて聞いてきました。

投資を始めたきっかけは、高い住宅ローン金利

投資を始めたのは1992年と言いますから29年の投資歴を持つベテラン投資家です。こん吉さんは元々、中国地方のある放送局でいわゆる局アナDJとして約20年間音楽番組を担当してきました。彼の担当する番組は当時大人気で、それまで低聴取率にあえいでいた時間帯の番組を一躍高聴取率に引き上げ、以後は安定的な人気を誇るようになったそうです。公開録音等の際には、サインを求めるファンの行列ができるほど若い人たちから絶大な支持を得ていました。とは言え、局アナですから、やはり普通のサラリーマンです。

人気の芸能人のように莫大な収入を得ていたわけではなく、給料の範囲内で普通に生活をするサラリーマンだったのです。

そんなこん吉さんが投資を始めたきっかけは一体何だったのでしょうか?

「30代半ばで一戸建ての家を新築したんです。借り入れた金額は1700万円。ところが返済計画書に載っていた金額を見て、あまりにも金利の額が大きいのに驚きました。もちろん当時の金利は6~7%ですから今とは比較にならないくらい高かったのですが、その高金利がもたらす支払額の多さを目の当たりにし、『これは何としても早く返済しなくては!』と思ったのです」
「妻も働いていたということもあり、二人合わせた可処分所得から年間700万円ぐらいは返済に回すことが可能でしたのでがんばって返済し、2年あまりで完済することができました」

それにしても2年で返済というのはすごいですね。その間の生活は大変だったのでは?

「ええ、その間は本当に生活を切り詰めていましたね。もちろん貯金なんかできません。でもよくよく考えてみたら、6%で借りているお金を返済するということはリスク無しで6%の利回りで運用することと同じだということに気付いたのです。そこで返済が終わると同時に、それまでローン返済に回していたお金で投資を始めるようにしました」

今から考えると恥ずかしいような失敗も

「ただ、投資を始めたとはいうものの、何もわからない状態でヨチヨチ歩きですからね。ずいぶん失敗もしましたよ」

どんな失敗がありましたか?

「証券会社の営業マンに言われるままに株式や投資信託を乗り換えたりしながら売買を続けたんです。いずれも今から思うと手数料の高いものばかりでしたね。結局、当時投資していた200万~300万円のお金がほとんどなくなってしまった。いわゆる“スっちゃった”という状態ですね(笑)。あと、本当に恥ずかしいような失敗もしました。いわゆる投資詐欺ですね。健康に良い水を造るとかいう会社への投資話とかに乗ってしまったのです。今でも目の前で100万円を相手に渡した時の光景を覚えています」

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「でも失敗したからわかったことも多いんですよね。要は『こういうことをしなければ失敗はしないんだ』ということがわかったのが大きかったと思います。だからやはり失敗することは大切なんです」

そんな失敗を重ねながらもうまく行くようになったきっかけは何でしたか?

「1995年頃に地元証券会社主催のセミナーに、さわかみ投信の創立者澤上篤人さんが来られたのですが、その時のお話を聴いておおいに共感しました。その直後に『さわかみ投資顧問』と契約し、後に設定された『さわかみファンド』に運用資金をどんどん移していったんです」
「私は好きなこと、興味のあることはとことん突き詰める性格なので、その後も数カ月に一度開催されていた澤上さんのセミナーに出席しては質問攻めにしていました。同時に投資に関する書籍も読み、自分でとことん納得できるまで勉強しましたね」

なるほど、それで、投資信託の積立を始められたんですね。

「いえ、当時はそうではありませんでした。資金ができるたびに追加でスポット購入するということを繰り返していました。でもそれまでローンを返済していた勢いでお金を投資に回していきましたから、残高は着実に増えていきましたし、マーケットの環境が良かったこともあって。さわかみファンドでは大きな含み益が増えていきました。2000年には気が付くと、私と妻の持っている金融資産が7000万円ぐらいまで増えていたのです」

ITバブル崩壊時は呆然と、何もできず……

「ところが、そんな時にやってきたのがITバブルの崩壊です。さすがにこの時は自分の資産が大きく値下がりするのをただじっと見ているだけでしたね。記録は残っていませんが、恐らくその時点での評価損の額は2000万円を超えていたはずです。

今だったら、好機と捉えて大きく買い増しをするところですが、当時はそんな気持ちの余裕は全くありませんでした。ただ、澤上さんから『こういう暴落の時は絶対売ってはいけない! むしろ買うべきだ』と言われていたので、売ることはしませんでした。さすがに買う勇気はなかったですけどね(笑)。損切りするということは損が確定してしまうということなんですよね。でも市場は長期的に見れば成長していきますから、たとえ下がっても保有し続けて待つことさえできれば心配することはないのだということを学びました」

暴落時に初めて買った時は手が震えた

結果として、売らなかったのは大正解だったのですね。その次にやってきた暴落が2008年のリーマンショックですね。その時はどうされましたか?

大江英樹『となりの億り人』(朝日新書)
大江英樹『となりの億り人』(朝日新書)

「そこでは買いましたよ(笑)。当時は株式ファンドで手数料が安いものを毎日最低10万円程度買っていました。でも暴落時に初めて買った時は恐ろしくてネットで購入のクリックをするマウスを持つ手が震えていたことを今でもおぼえています。でも慣れてくると下がったところをチャンスと考えて大胆に買えるようになり、多い時は一日100万円ずつ買ったこともありました」

こん吉さんは今でも毎日9万円ずつ7銘柄の投資信託の購入を続けていると言います。ドルコスト平均法で、毎月銀行引き落としで購入する人は多いですが、こん吉さんのように自分で購入手続きをして毎日買い続けている人というのはあまり聞いたことがありません。

「いや、私はもう仕事も引退しているので、ヒマだからできるんですよ(笑)。それにいつが買うのに良いタイミングかなんて誰にもわかりませんよね。だからとにかく少しずつ毎日買い付けていきます。たまたま昨年みたいにコロナ禍で大きく下げた時は喜んで買い増ししますけどね。あと、私は基本的には買った投資信託は売りません。売るのは運用方針に疑問を感じたものだけです。それだけ運用報告会等にも参加して丁寧に状況を聞いていますから」

それにしてもよく毎日買いを続けることができますね。現金もかなりゆとりを持っていらっしゃるんでしょうか?

「ええ、今でも資産の25~30%ぐらいはMRF(短期金融商品などで運用される元本の安全性の高い投資信託。証券会社での普通預金のようなもの)とか預貯金といった現金に近いものを持っています。いつ暴落があるかなんてわかりませんからね。そうなってもすぐに買えるように待機資金は一定額持っておかないと、と思っています」

投資信託中心で運用を続ける理由

こん吉さんは運用資産の大半を投資信託で保有しています。これには何か理由があるのでしょうか?

「株も7%(3000万円)ぐらいは持っていますけど、ほとんどは投資信託ですね。私は銘柄を研究したりするのが苦手なんです。でも運用会社を選別するのは得意です(笑)。今までにいろんな運用会社の説明会に何度も何度も出かけ、わからないことはその場で聞いたり、運用会社に直接電話したりして詳しく聞きます。その対応を見ていたり、実際に運用会社の人が自分のお金で自分たちの商品を買っているかどうか等、聞き込んでいくと信頼がおける会社かどうかが大体わかってきます。これはあまり外れたことがありません」

具体的にはどんなタイプの投資信託が多いのでしょう?

「現時点での保有比率を書き出してみました。個別株もアクティブ運用なので、それをアクティブ型に加えると、面白いことにちょうどインデックスとアクティブと待機資金が3分の1ずつになっています。特に意識したわけではないですが、結構バランスは良いですね」

「お金が貯まったら投資を始めよう」はNG

これから投資を始める人や投資をしてもなかなかうまくいかないという人に対して何かアドバイスがあるでしょうか?

「まず一番大事なことは、自分で調べて自分の頭で考えることです。だって、家や車を買う時は自分でカタログやネットで調べて徹底的に考えて買うでしょう? なのにどうして投資だと『誰かに聞けばいい』とか『何か儲かるものを教えて欲しい』と考えるのでしょう。それは甘え以外の何ものでもありません。だから最近の、インデックスで積立さえしていれば大丈夫という風潮には正直少し懐疑的です。少なくとも自分が投資しようとしているファンドはどういう考え方で運用して何に投資しているかはきちんと把握すべきだと思います」
「それから、お金が貯まったら投資を始めようという人もいますが、これも絶対無理ですね。なぜなら苦労して貯めたお金で投資すると、1円たりとも減らしてはならないという気持ちに陥ります。つまりリスクを取ることが怖くてできなくなるのです。でも投資はリスクを取らない限り、リターンを得ることができないというのは永遠の真理です。少額でもいいから少しずつ始めて、実際に価格の変動に心を揺さぶられながら小さな失敗を経験していくことが大切です。そうすればリスクも取れるようになりますから」

実際に自分で実践してきたこん吉さんだからこそ言える言葉には重みがあります。少し気になることも聞いてみました。

ロボアドバイザーは絶対やらない

最近話題になっているロボアドバイザーとか○○ナビみたいなものはどう思いますか? 「まあ、投資のやり方は人それぞれなので一概には否定しませんが、私はそういうものは絶対にやりません。投資って実は結構理不尽なものなんですよ。一生懸命働いて得たお金で投資しても自分には何の責任もない理由で株価が下落して損してしまう。これってとても理不尽ですよね。でもそれを繰り返し経験していくことで、リスクに対する耐性が身についていくわけです。そういう体験をしないで、人間の心理的な弱さを経験せずにAIに任せるなんてとても無理だと思います。いずれ必ず大暴落がやってきますから、その時に○○ナビに任せていた人がどんな行動を取るのかが見ものです。少し意地悪ですが(笑)」

投資で一番大切な心構えは何でしょう?

「それは“待つこと”です。どんな暴落があっても資本主義である限り、経済は自己増殖していきますからいずれ必ず復活するのです。それを信じて待つことが大事です。必然的に長期投資になるのは自然なことです」

良質の投資家を育てたい

最後にこん吉さんがこれからやりたいことについて聞いてみました。

「やりたいというか、今既にやっているのですが、『良質の投資家を育てること』ですね。SNSやブログで情報発信を続けているのもそのためです。一人でも多くの人が『貯蓄家脳』から『投資家脳』に変わって欲しい。そう願って活動を続けていますし、今後も続けていくつもりです」
「いずれ将来に運用資産が10億円ぐらいになればボランティア団体に寄付するプライベートファンドを設立したいです。NPOや社団法人なんかだと、私1人で運営はできないし、自分のやりたいこともできないかもしれません。でも全て自己資金であれば自分の好きなところへ寄付したり、支援したりすることができます。将来的にはそういうことをやりたいと思っています」

お話を聞かせていただいた別れ際に「これから“億り人”を目指す人に何かメッセージはありますか?」と聞いたところ、意外な答えが返ってきました。

「どうして1億円が必要なのですか? 金額を目標にする前にまず自分のやりたいことや楽しみたいことを明確にイメージし、そのためにどれくらいお金が必要なのかを考えた方がいいんじゃないですか? 金額を目標にしてしまうとキリがありませんよ。100万円貯まったら次は1000万円、それが貯まったら1億円という具合にどこまで行っても心は満たされません。それに、1億円なんてなくなるのはあっという間です。大事なことは自分が何をやりたいかですよ」

この答えを聞いて多くの人は「それはこん吉さんが億り人になったから言えることでしょ」と思うかもしれません。でもそうではなく「こういう考え方をしているからこそ億り人になった」と考えるべきではないでしょうか。

※ちなみにこん吉さんは、アメーバブログ、ツイッター、インスタグラムで『こん吉くんの長期投資ファン倶楽部』という名前で情報発信していますので関心のある方はご覧ください。