台湾=中国とみなす中国に対して、独立国家を自認する台湾、そんな台湾の安全保障に関与するアメリカ……なぜそこまで中国は台湾に執着するのか、台湾有事は実際に起こってしまうのか、緊張が高まる中台関係を戦略学者で地政学者の奥山真司氏が読み解く——。
中国と台湾の関係のイラスト
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バルト三国が台湾を訪問

去る11月、リトアニアに台湾が代表機関「駐リトアニア台湾代表処」を設置し、業務を始めました。外交関係のない国に出先機関を設置するのは極めて異例なことで、これに中国は猛反発。リトアニアとの外交関係を格下げするに至りました。また、つい先日(2021年11月29日)には、EU議員団、アメリカ議員団に続き、エストニア・ラトビア・リストニアで構成されるバルト三国の議員団が台湾を訪問し、蔡英文さいえいぶん総統と面会しました。特にリトアニアは、2022年初頭にも、台湾に代表機関を設置することから、両国がパートナー関係を強化しようとしていることがわかります。

2021年11月18日、台湾が代表機関「駐リトアニア台湾代表処」を設置したと発表。リトアニア・ビリニュスのビルに掲げられた台湾代表処のプレート。
写真=EPA/時事通信フォト
2021年11月18日、台湾が代表機関「駐リトアニア台湾代表処」を設置したと発表。リトアニア・ビリニュスのビルの一室に掲げられた台湾代表処のプレート。

こうした動きに中国は非常に敏感になっています。台湾が他国と面会するたびに、中国軍は台湾海峡周辺をパトロールしたり、台湾の防空圏に侵入したり、圧力をかけています。その対立の根底にあるのが、中国は台湾を中国の領土の一部とする「ひとつの中国」であると考える一方、台湾は「中国とは別」の独立国家であるという双方の主張です。

とはいえ、これまで互いの主張は当たらず触らず、中台の貿易は行われてきました。しかし2016年に誕生した蔡英文政権が、中国が主張する「ひとつの中国」を認めない考えを表明したことで中国との関係が一転、暗雲が立ち込め始めました。そもそも中国と台湾、いったいどうしてこれほど認識が違っているのでしょうか。それを知るために、簡単に台湾の成り立ちをお話ししましょう。

中国の内戦はまだ続いている?

もともと台湾を統治していたオランダ軍との戦いに勝利し、台湾全島を統治したのは、中国人の父親、日本人の母親を持つ、鄭成功ていせいこうという人物。中国が明から清に移ろうとしていた時代でした。鄭政権が退いた後は、清が長く統治していましたが、1894年の日清戦争で日本に敗れたことから、台湾は日本の統治下に入りました。しかし第2次世界大戦後は、日本による統治が終わり、台湾は中国の管理下に置かれました。

当時、中国では毛沢東もうたくとう率いる共産党と、蒋介石しょうかいせき率いる国民党で内戦が起こっていましたが、内戦に敗れた蒋介石は国民党軍を率いて、政権を台湾に移し、自ら台湾の初代総統になりました。そこから戒厳令を施行しますが、1972年に台湾の民主化運動「美麗島事件(高雄事件)」が起こります。1986年には、民主主義と自由を求める活動者によって「民主進歩党(民進党)」が結成され、1987年に戒厳令は解除されました。アメリカのレーガン大統領が、台湾民主化推進を後押ししたとも言われています。

そういった流れがあって、今の台湾は完全に民主主義になっています。中国とはパスポートも違うし、国際的にも別の国と認知されていますが、公式には独立となっていません。中国からすれば「内戦がまだ続いている」という認識なのです。

しかし台湾は、独立国家と自認しています。台湾はアメリカの連邦議会に働きかけるチャイナロビーなど、西側にすり寄る努力を怠らず、産業面にもどんどん力を入れています。台湾としては民主主義側に寄り、独立を保とうとしているわけですね。

世界一になるには、まず裏庭の勢力を排除

では、なぜ中国はそんなに台湾を欲しがるのか。これはまさに地政学的な話です。現在、GDP世界2位の中国は、1位のアメリカに相当迫っています。歴史的に見て、こういった大国が世界帝国に発展する場合に、必ずすることがあります。それは自分の周りの国の影響力を排除しようとすること。裏庭の勢力を排除し、まず周りの海をかためて、そこから外に展開していく。19世紀末から20世紀初頭のアメリカもそうでした。

「学校用アメリカ史」1895年版に掲載された地図
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アメリカの建国は1776年。イギリスから独立して40、50年経ち、これから外に展開していこうといったときに、アメリカはまだ東部13州しかありませんでした。そこで1823年、アメリカの第5代モンロー大統領は、ヨーロッパ諸国はアメリカに干渉しない、アメリカもヨーロッパに干渉しないことを表明する「モンロー宣言」を出しました。当時、東部13州はアメリカの領土だったとはいえ、北はイギリス、南はスペイン、フランス、さらに南に行くと、またイギリスと、周りには他国の勢力がウヨウヨしていました。つまりモンローさんは「これから俺たちは周りの外国の影響力をすべて排除してやる」と宣言したわけです。

特にアメリカが気にしていたのが、ジャマイカやキューバのあるカリブ海。そのあたりの外国の勢力を排除することで、アメリカは南に抜けて、西に回り、カリフォルニアからハワイ、フィリピンへと出ていくことができました。モンロー宣言からたったの70年弱、1890年にアメリカは南北統一という形で、地域ナンバーワンになりました。19世紀から20世紀に変わる頃です。

中国に地域ナンバーワンのチャンスが到来

かつてのアメリカと同じことを、今まさに中国はやり始めています。中国の周りの海を見ると、黄海、東シナ海があって、さらに南にいくと台湾があって南シナ海がある。中国は南シナ海のナトゥナ諸島まで、自分の海として含めようとしています。アメリカがパナマ運河まで勢力を伸ばそうとしていた構図とまったく同じです。

大国というのは、やはり領土が少ないと不安になる。今の中国は、過去に中国人が航海したという古い歴史を持ち出してまで、一湾岸地域を取りたいという欲望を持っています。

以前の中国は、陸地のほうが大変で、海に出ていく余裕はありませんでした。他民族が馬に乗って攻めてくる、北のほうから来るのが特に凶暴で、万里の長城を築くなど、いろいろな方法で国を守ることに必死でした。そして時は流れて90年代、江沢民こうたくみん時代に国境を画定しようとなった。14カ国接する国のうち、まずロシアと国境を画定させました。ベトナムとは戦争が起こるほど危険な国境争いもありましたが、どうにかこの時代にほとんど画定させました。そうすると余裕ができて、内陸のほうにそんなにリソースをかけなくてよくなりました。

そして2000年代に入って、いよいよ海外展開というところで2001年、海南島付近の南シナ海上空でアメリカと中国の軍用機が衝突する「海南島事件」が起こり、米中関係は一触即発状態になりました。しかし、その後、アメリカはテロとの戦争が始まったため、中国を押さえるのをある程度やめてしまいました。

中華人民共和国の政治地図
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そうしたら中国は地域ナンバーワンをめざすチャンス到来とばかりに、軍事力をどんどん伸ばしてきた。本格的に世界帝国となるための踏み台として東シナ海、南シナ海のすべての国を支配下に置いてやろう。そこで最大の問題が、台湾だったということです。「祖国統一」というイデオロギーを掲げて台湾を取るというのは、中国共産党からすると外せない現実なのです。

アメリカが中国に勝てる見込みはなし

地政学ではユーラシア大陸にある大陸国家を「ランドパワー」、国境の多くを海に囲まれた海洋国家を「シーパワー」ととらえ、歴史上は大きな力を持ったランドパワーの国がさらなるパワーを求めて海洋に進出して、シーパワーの国と衝突するといったことを繰り返しています。

現在、ランドパワーを持った中国が海に出て行き、シーパワーの台湾とぶつかっている状況です。これが成功するかどうかは誰にも予想できませんが、台湾自身も力を持っていますし、そこには日本、韓国、アメリカもいる。中国がかつてのアメリカのように易々やすやすと世界に展開していける状況は、まだ厳しいのかなというのが私の見立てです。

問題は台湾有事があるのかどうかです。東海岸のロードアイランド州には、アメリカ海軍と関わりの深い、海軍大学があります。そこでは台湾有事が起こったらどうなるのか、ウォー・ゲーミング(war gaming=図上演習)を行って、シナリオを描き出しています。今はアメリカよりも中国のほうが船の数だけでも圧倒的に多く、それらの船がしっかり動いたらどうなるかシミュレーションをしてみると、残念ながら今のところアメリカが中国に勝てる見込みはない。去年までに行ったウォー・ゲーミングでは、20回中アメリカ軍が全敗という結果も出ています。この結果は、アメリカ海軍が国に予算を求める口実としている部分もありますが、アメリカと中国の力が拮抗きっこうしているのは間違いありません。

SF的な近未来都市の兵士
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実際、中国が台湾に軍事的に侵攻する事態が起こったら、日本もひとごとではありません。もし中国が侵攻するとしたら、最短距離である台湾海峡を渡って直接侵攻することは考えにくい。軍のプランナーが考えるのは、北側から回って反対側から入ってくるルート。つまり尖閣諸島、石垣島や宮古島のほうを通ってくることになります。そうすると、中国はこれらの島々が邪魔になるので、米軍や自衛隊の動きを封じ込めるなど、何らかの働きかけを行うであろうと言われています。実際、回り込んで入ってくると必ず島々は巻き込まれます。イヤな話ですが、沖縄の一部は戦場にならざるを得ない。それらを踏まえると、やはり台湾有事に関しては、日本は巻き込まれる覚悟でいるべきだと思います。

見えない未来への対処方法3つ

ただ、こういった未来予測を当てられた人は、ほとんどいません。いろいろ予測しても、結局どうなるかわからない。では何か起こったときに、うまく対処するにはどうすればいいか。そこで今、国際社会において最も有効とされているのが「レジリエンス」です。日本語で言うと強靭性とか回復力といったところでしょうか。どうなるのかわからないから、大前提として組織に柔軟性を持たせましょうと。そのうえで、未来への対処の仕方が3つあります。これらはビジネスパーソンにも参考になると思います。

SF的な近未来都市を背景に、外に座っている女性
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(1)シナリオプランニング

1970年代にロイヤル・ダッチ・シェルというヨーロッパ最大の石油会社が、このシナリオプランニングという手法を使って避難訓練のようなことをやりました。ランド研究所の図上演習のようなものです。おかげで、この会社はオイルショックをうまく乗り切れたという歴史があります。

(2)トレンド・スポッティング

今、世界中の人たちがスマホを使っていますが、実は10年ぐらい前からスマホのタネはありました。iモードです。iモードがスマホに発展したのです。つまり、これから世界ではやるタネは、すでに現状の中にあるわけで、未来に備えるには現状をよく見ることが大切ということです。こうした、すでに存在するトレンドを注意深く読み解く手法を、トレンド・スポッティングといいます。

(3)SF(サイエンス・フィクション)や未来戦記

SFや未来戦記は突拍子もないように見えますが、実際に映画『スタートレック』の中には、すでに音声認識するアレクサのようなものが出てきます。自動運転の開発者はアメリカの特撮テレビドラマ『ナイトライダー』を見て研究したともいわれます。未来のものをつくるときのヒントは、すでにSFの中にあるのです。実は今、台湾有事に関する未来戦記が出ています。『2034 米中戦争』(二見書房)という未来小説です。興味のある人は、ぜひ読んでみてください。

台湾有事に関しては、起こってほしくないけれど、起こるかもしれないと想定して、起こったときには動揺しないことがいちばん大切です。そういう可能性があるなら、預金を現物に変えておく、暗号資産に移しておく、そういった対処の仕方もあります。いざ起こったときにパニックの陥らないように、心の準備だけはしておきたいものですね。