学校がある日に1時間以上、週末に4時間以上を、娯楽目的でネットやゲームに費やしている子どもは1年後の成績が下がる。最新の研究でそんな衝撃的な内容が明らかとなった。脳科学が専門の細田千尋さんは「彼らは学習意欲が低く、授業中の集中力が低く、学校を退屈だと感じる傾向があることがわかりました」という――。
彼女の携帯電話を操作するために教室に隠れている日本の中学生の女の子
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幼児期は親子での利用が重要

デジタルテクノロジーの目覚ましい発展に伴って、さまざまな分野で「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が推進されています。

近年は、幼児むけの分野でもデジタルコンテンツを目にするようになりました。気がつくと長時間子どもにスマホやタブレットを与えていた、ということもありがちです。ひと昔前までは、これがテレビでした。

幼児にテレビを見せる際、一人で見せるなど何の会話もない場合に比べ、一緒に見ながら会話をすることが、言葉の発達に僅かながら効果があるという報告があります。また最近では、デジタル絵本によって親子のコミュニケーションが促進され、言語の発達が促進されたことも示されています。

つまり、決してタブレットやテレビを使うことが悪なのではなく、利用するとき、それらに子どもの世話を任せっきりにするのではなく親子で利用することが大事ということがわかります。

自ら学ぶ意欲や英語や数学の学習が促進される

また文部科学省があげるGIGAスクール構想に加え、コロナによるオンライン教育体制の急速な構築も後押しし、リモートにおけるインタラクティブな教育をする技術は、学齢期の子ども達の学習を促進するのに必要不可欠になりつつあります。

デジタル環境やデジタル教材を使った場合の効果については、まだ新しい領域であり、再現性の高い研究成果が積み上げられてきているわけではありません。しかし、デジタル教材を使うことで、外国語(英語)教育や数学の教育に効果があったことがいくつかの研究から示されています。

また、マレーシアの中学校では、ディスカッションプラットフォームとよばれるインターネット上の掲示板のようなものを利用することが、自ら学ぶ意欲を持って学習を進めていくという、自己調整学習の訓練にとても有効であることが示されました。

一方で、タブレットやスマートフォン、パソコンなどを利用した学習環境を整えたときに、必ず問題になってくるのが「それらを使った学業とは関連のないインタラクティブ技術、例えば、インターネット、ソーシャルメディア、ゲームの利用に簡単に行きがちなのを、どう制限するか?」です。具体的にどのくらいこれらの利用を許すのか? について頭を悩ませている親は多いはずです。

平日1時間以上ネットを見る子は1年後に成績が下がる

日本の子ども達のインターネットの利用状況はどうでしょうか。令和2年度(2020年度)「青少年のインターネット利用環境実態調査」(内閣府)によると、10~17歳のインターネット利用時間は1日平均3時間強、3割強が5時間以上使っており、この使用時間は年々増加しています。

この現状を鑑みると、衝撃とも言える研究成果が最近発表されました。9949人の10代の子ども達のデータを分析した結果、学校がある日に1時間以上、週末に1日4時間以上を、娯楽的に、インターネット、ソーシャルメディア、ゲームに費やす子どもたちは、1年後に、国語、数学、英語などのテストの成績が下がっていたというのです。

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学習意欲と集中力が低下する

それだけでなく、この調査では、彼らは学習意欲が低い、授業中の集中力が低い、学校を退屈だと感じるというような傾向も見られました。毎日4時間以上をネットなどに費やす子どもたちは、そうでない子よりも4倍、不登校のリスクが高くなることも示されています。

他の研究からも、学習時間は同程度にも関わらず、ネットやSNSなどに費やす時間が長い子どもの方が、学習意欲や学習成績が低くなることが報告がされています。日本での小学校5年生~中学校3年生を対象にした調査でも、スマホの使用時間と学業成績の関係について行われた調査で1日2時間以上勉強していても、スマホ使用が4時間以上になると、スマホをやらないけれども勉強時間が30分未満の子より成績が悪いことなども示されています。

SNSやネットは、自己肯定感を下げる

SNSやネットの利用が、学業成績以外の、メンタルにどのような影響を起こすのか、とても気になるところです。

海外メディアでも大々的に取り上げられた研究成果があります。それは、SNSの利用頻度が高い子どもほど、自己肯定感が低く、孤独感を抱えている、といった内容です。日本の研究からも、インターネット依存が強い人では、自尊心が低く、不安・抑うつ傾向が高いことや、共感性や情動制御能力が低いことが示されています。

近年よく耳にする、well-beingとインターネットの利用状況についても、2020年にNatureに発表された論文や米国科学アカデミー紀要に発表された研究があります。ここでは、10代の子ども達にとって、SNSなどの利用状況は、well-beingや人生や生活の満足度にはほとんど影響しないということが示されています。おそらく、SNSの利用と一言に言ってもどのように利用していたか、という個人差の効果が大きく、全体としてwell-beingへの影響が見られなかったのでしょう。何れにしても、インターネットの利用によるメンタルへの影響については、まだ統一的な研究成果は得られていません。それほど研究領域としては複雑なうえ、新しい分野と言えます。

子どものインターネット利用が脳に及ぼす影響

脳発達とインターネット利用頻度の関係を調べるために224人の子の脳を3年間にわたって追った研究成果があります。この研究からは、インターネット習慣がない、あるいは少ない子どもたちは、3年間で脳全体の灰白質体積が増加しているのに対して、ほぼ毎日インターネットを使用する子どもたちの全脳の灰白質の増加はゼロでした。

大脳灰白質とは、脳の中で神経細胞が集まっているところです。近年、脳はネットワークとして捉えられ、脳の離れた領域を結ぶ神経線維連結も重要であることが多くの研究から示されていますが、この研究では、この神経線維連結も、ほぼ毎日インターネットを利用する子どもでは、発達が止まっていることが示されました。

新しいテクノロジーは、メリットもデメリットも合わせもちます。メリットを得るかデメリットを被るかは、使う人次第なのです。子どもの世話や教育を、デジタル環境に補助してもらいつつも、完全に頼り切らないことが重要なのです。

<参考文献>
・Preschool children's learning with technology at home.Plowman, L., Stevenson, O., Stephen, C., and McPake, J. UK, Computers Education, 59: 30-37、2012
・Alabdulaziz MS. COVID-19 and the use of digital technology in mathematics education. Educ Inf Technol (Dordr). 2021
・Escobar Fandiño FG, Silva Velandia AJ. How an online tutor motivates E-learning English. Heliyon. 2020 Aug 6;6(8):e04630. doi: 10.1016/j.heliyon.2020.
・Wen LiAnthony, YuhongZhu, LiaNowera “The Relationship of Interactive Technology Use for Entertainment and School Performance and Engagement: Evidence from a Longitudinal Study in a Nationally Representative Sample of Middle School Students in China” Computers in Human Behavior 122(7):106846, 2021
・Liu D. et al. Social networking online and personality of self-worth: A meta-analysis Journal of Research in Personality, 64:79-89., 2016
・Impact of frequency of internet use on development of brain structures and verbal intelligence: Longitudinal analyses. Takeuchi et al., Human Brain Mapping 2018