従業員一人あたり利益が2332万円にのぼる北の達人コーポレーション。営業利益上位の大手5社を凌ぐ数字だ。高い利益を出すことにこだわる社長の木下勝寿さんが新入社員に必ず伝える“お金の話”とは――。

※本稿は木下勝寿『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

棒グラフ
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利益を上げた会社は何をすべきか

目標とする利益を十分に上げた会社は次に何をすべきか。

もっと世の中の人に喜んでもらうにはどうしたらいいか。

ある社員はこう言った。

「社長、必要な利益を十分上げたのだから、これからは無料にしましょう」

すると注文が殺到する。商品を渡せる人、渡せない人が出てしまう。以前、有料で買ってくれたお客様は「不公平だ」と思うだろう。お客様に対して失礼なことになる。

社員は考えを改めた。

「やっぱり有料で販売して利益を上げ、利益目標を超えた金額を寄付しましょう。これこそが社会貢献ですよ」

だが、いざ寄付しようとしたら、様々な団体があることに気づいた。貧困や食料不足に苦しむ人たち、学校にいけない子どもたち、地震や豪雨で被災した人たち……世の中には困っている人がたくさんいる。

たまたまニュースなどで知った人や団体に寄付をすることになるが、それでいいのか。

世の中にはもっと困っている人がいるのではないか。本当はすべての困っている人を把握し、優先順位をつけて援助できればいいが、自分の力では難しい。

では、どうしたらいいか。

会社の利益そのものが“社会貢献”である

そのために行政と税金という仕組みがある。不案内の分野に寄付するのではなく、本業に専念して利益を生み、納税したほうが役に立つ。日本の社会は、必要以上に利益が出た分は、税金という形で社会に還元される仕組みになっている。行政は日本中から集めた情報をもとに、どこにどれだけのお金を分配すべきかを決める。稼いだ利益は行政を通じ、日本全体がバランスよく、みんなが幸せになるよう適切なところに分配される。「累進課税」では、利益を上げれば上げるほど税率が高くなる。

【図表1】累進課税の仕組み
出典=『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』より

生活に必要な最低限度の金額はどんな人でもあまり変わらない。だから稼げば稼ぐほど税率が高くなるのは理解できる制度だ。多く稼いだらそれに応じて納税し、社会に還元する。だから世の中に役立つには、より多くの利益を上げることだ。

非営利団体の活動とは?

企業は社会に役立つものを提供する。役立った分だけ対価をもらう。役立っていなければ対価はもらえない。

役立った分だけ利益が出る。役立っていなければ利益は出ない。

そして出た利益を納税する。税金は役所の人の給料になる。そして役所の人が無償や安価の行政サービスを市民に提供してくれる。

では、非営利団体はどのように活動しているのか。

パズル
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彼らの活動の一部は、補助金や助成金といった税金、企業からの寄付に支えられている。

あるとき「世の中の役に立ちたい」とボランティアをしている若者に出会った。その人は当然、相手の人からは対価をもらっていない。

では、自分の生活はどうしていたか。親からの仕送りで生活していた。本当に世の中を支えているのはその若者ではなく、親ではないだろうか。

「自己満足」と「本当に役に立っているかどうか」は紙一重

ボランティアは大切なことだが、非営利や無償サービスは本当に役立っているかどうかの判断が難しい。有償なら、「お金を払ってどうしてもほしい」「お金がかかるならいらない」がはっきりするが、無償だと「タダならほしい」「絶対にほしいがお金がない」の区別がつきにくい。

開発途上国で井戸を掘ったけれど、3か月くらいで井戸が壊れてしまい、誰も修理せず放置されてしまうケースが多々ある。修理されないということは、そもそも必要度が低かったのかもしれない。これでは自己満足になってしまう。ただ、私は寄付を否定しているわけではない。

2018年9月6日に北海道で発生した「北海道胆振東部地震」の被災地支援のために、私財から1億円を寄付した。被災直後、多くの社員の自宅は停電し、交通機関は全面停止、市内全域の大多数の信号も止まった。宿泊難民が札幌駅にあふれ、コンビニの周りに長蛇の列ができていた。

その後、各関係者の懸命の努力によって都市部では復旧の見込が立ってきたが、人口の少ない地域では復旧・復興に長い期間を要するものと思われた。北海道の企業として、全北海道の早期復興を願い、そうした地域に優先的に支援していきたいと考えた。

北の達人と大手5社、一人あたりの利益が高いのは?

このような特別な場合を除くと、納税のほうが社会の役に立つ。企業が利益を出して納税していかなければ、世の中は成り立たない。なぜなら赤字企業はほとんど納税しないからだ。

木下勝寿『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)
木下勝寿『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)

「北の達人」の利益は29億円だ。世の中には当社よりも役立っている(利益を出している)会社はたくさんある。

だが、従業員一人あたり利益は2332万円(2020年2月期)で、図表2の営業利益上位大手5社よりも大きい。

法人税は利益に応じて課税されるので、従業員一人あたり法人納税額は大手より高く、当社の従業員は、大手企業の従業員よりも世の中に役立っていると言える。従業員には「自分がこの国を支えているという自負を持ってほしい」と伝えている。

利益を上げ、支払った税金が社会のために使われる。さらに言えば、税金を有効に使ってもらうために、信用できる政治家を選ぶ必要がある。

企業が利益を上げることは、お客様がお金を払いたいほど喜ぶ商品・サービスを提供し、お客様の役に立つことだ。そして利益を納税という形で社会に還元し、社会全体の役に立つ。企業はこの2つで社会に役立っている。

まとめると、売上は企業のお役立ち度の合計を数値化したもの。利益とはその中で自社が生んだ付加価値分。社会貢献とは稼ぐこと。お金を稼ぐことは社会貢献。

だから利益が大事なのだ。

【図表2】大手5社との従業員一人あたり利益比較
出典=『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』より

売上OSを「利益OS」にする

以上が、利益に対する「北の達人」の考え方を示したストーリーだ。これをつくった理由は2つある。

一つは新卒社員に「お金とは何か」を考えてもらうこと。もう一つは中途入社の社員に、「なぜ利益が大事なのか」を考えてもらうこと。新卒者は、この内容をすぐに理解してくれ、反対に、「世の中の会社はなぜ利益より売上を大事にするのでしょうか」と疑問を抱く。

また、「毎日の仕事の意味がわかりました」「世の中の役に立ちたいので、ボランティアをしようと思っていましたが、一所懸命、目の前の仕事をすればいいとわかりました」という感想もある。

中途入社の社員は、前職の影響で、売上重視の考えに染まっている人が多い。だから私は、パソコンの基礎システムであるOS(Operating System)になぞらえ、「今までのOSでは『北の達人』のやり方は理解できないでしょう」と話す。

売上をたくさん上げることが目的の行動と、利益をたくさん上げることが目的の行動ではまるで違う。だから、売上OSから利益OSに入れ替え、そのうえでこれまで経験してきたものをアプリとして載せてほしいと伝えている。

また、日常業務で利益の大切さを忘れそうになった人がいたら、「売上は誰でも上げられるから意味ないと、最初に話しましたよね」と言っている。

この話を経営者向けの講演ですると、

「自分たちが何のために利益を出すのか考えたことはなかった」
「利益を出すことが社会貢献になるとは考えたこともなかった」

と言う人が多い。