脱炭素や自動運転などの技術革新といった課題を前に、クルマのあり方は大転換期を迎えている。2020年創業100周年のマツダで初の量産型EVモデルを含む「MX-30」の開発責任者としてチームをけん引した女性リーダーのあり方とは。

評価ドライバーから転身。流れに乗りチャンスをつかむ

入社2年で大抜擢され、電気設計部門から評価ドライバーに異動した竹内都美子さん。10年間で腕を磨き特A級ライセンスを取得、社内有数の評価ドライバーとして尊敬される存在に。その後、車両開発本部に異動。そのとき上司にかけられた“今までは田んぼのあぜ道を歩いていたが、これからは田んぼの中に入れ”という言葉が今でも心に残っているそう。

マツダ 竹内都美子さん
マツダ 竹内都美子さん

「評価部門ではクルマを良くしたい一心での改善点を指摘。でも設計・実験研究の現場に入ると、部品1つ改良するのも簡単ではなかった。開発のリーダーにはスタッフに寄り添い、一緒に考えながら仕事を進める姿勢が大切だと実感しています」

数年後、実績を評価され、初の量産型EV(電気自動車)モデルを含む「MX-30」の開発責任者に就任。上層部から“新しい価値観の提案”を指示されたが、最初の半年は迷走してしまう。“新しさ”を取り違え、新技術や新機能にとらわれすぎたのだそうだ。

“1人のアイディアが正しいわけではない。さまざまな化学反応から創造が生まれる”

「クルマの開発には数年かかり、その間に技術は古くなります。技術だけでは新しい価値は創造できない。そこでボーダーレスで支持される新しいクルマの価値を探るため、数年後に世界の新しい価値観をリードしていると思われるクリエイターや起業家を世界中に訪ね回りました」

My Working History

竹内さんは10人の特別チームを結成し国内外の先進的なリーダーに取材。彼らは共通して居室などの空間に気を配り、すべてのモノを丁寧に選んでいた。生活をデザインすることで心が整い、創造的な仕事につながるという美意識を持っていたのだ。

「例えば、ある家にあった年代もののまな板。分厚くどっしりしていてキッチンにあるだけで空間が色づき、心を癒やすモノとしての実体感がある。こういうモノとしての魅力をクルマにも取り入れたいと思いました。『運転するだけで心が整うクルマ』というコンセプトは、取材で出合った新しい発見から生まれたのです」

こうしてMX-30の誕生に至るのだが、まったく新しいクルマだけに、ドアひとつとっても特別仕様になり、周囲の反発は大きかった。

「新しい価値観を表現するために採用した観音開き式のフリースタイルドアなど、規格外だらけ。上層部に実物大の模型を体験してもらうなど、主観的に“欲しい”と思ってもらうことでサポーターを増やす地道な作戦で発売までこぎつけました」

竹内さんには、創造的なチームのリーダーは、後ろで控えめに見守るほうがよい、という持論がある。

リーダーとしての3カ条

「新しいアイディアは誰か1人ががんばっても生まれません。チームのメンバー全員が言いたいことを言い、相互に化学反応を引き起こすことでこそ醸成される。リーダーは会議の最初の30分は口を出さず、意見が出そろった頃を見計らって意見を言うまとめ役でよいと思います」

また、竹内さんは、上昇志向な女性ほど陥りがちな失敗を指摘する。

「やる気がある人ほど転機で流れに乗れない傾向が強いですね。私も入社早々やりたい仕事に就けず、会社に反発した経験があります(笑)」

愛用のノートとペン。考えを図式化して整理したり、構想を練ったりするための必須アイテム。生年月日が同じサンリオキャラクター“ハローキティ”は国内外の出張のよき相棒だそう。
愛用のノートとペン。考えを図式化して整理したり、構想を練ったりするための必須アイテム。生年月日が同じサンリオキャラクター“ハローキティ”は国内外の出張のよき相棒だそう。

というのも竹内さんは新人時代、同期の男性社員が全員志望部署に配属されたのに、自分だけ志望していない電気設計部門に配属されたことに納得できず、退職しようとしたことがあるのだ。幸い上司に説得されて残ったことで、今がある。

「組織では流れに逆らってもあまり意味がありません。飛び込めと言われたところに飛び込み、チャンスをものにすること。今の私があるのはその結果だと確信しています」