他社に先がけ男性が1カ月以上の育児休暇を取ることを制度化するなど、15年間、積水ハウスでダイバーシティを推進してきた伊藤みどりさん。女性初の営業職から始まった波瀾はらん万丈のキャリアについて語ってもらった。
積水ハウス 執行役員 ダイバーシティ推進担当 伊藤みどりさん
積水ハウス 執行役員 ダイバーシティ推進担当 伊藤みどりさん

※役職は雑誌掲載当時のものです

第1子出産後、営業職に。神戸で震災も経験した

2018年に、3歳未満の子を持つ男性社員全員が1カ月以上の育児休暇を取得するという「イクメン休業」制度を作った積水ハウス。現在までに2000人以上が育休を取り、取得率は100%を達成した。ほかにも女性の管理職を増やす取り組みや、介護や闘病との両立を支援し、ホワイト企業として知られる。

その立役者である伊藤みどりさんは、男女雇用機会均等法さえない昭和40年代から同社に勤めてきた。高校卒業時、新聞広告を見て積水ハウスに入社し、神戸のモデルハウスで接客をして働き、23歳で結婚。第1子出産後、全社初の女性営業職に。

「当時、どこの会社でも女性社員は男性社員のお嫁さん候補のような存在。寿退社が当たり前でした。私は社外の人と結婚しましたが、仕事は好きでしたし、辞める理由がなかったんです。私のロールモデルである母もずっと働いていましたからね」

(左)子連れ社内旅行で(右)住宅メーカーの女性営業有志で宝塚観劇
(左)子連れ社内旅行で(右)住宅メーカーの女性営業有志で宝塚観劇

上司から声をかけられ、法人営業をすることになったが、男性と共に企業を訪問すると、取引先には「事務員を連れてきたとしか思ってもらえない(笑)」。そこで男性と肩を並べて働く難しさを感じた。なんとか一戸建ての契約を取るため、「奥さまとなら話ができる」と考えて企業の社宅を回り、各家庭の事情を聞きながら、成約につなげていった。

最初の試練は、自身にとって2棟目の契約となった住宅の建設中に起こった。業者との行き違いで照明器具が約束した日に取り付けられず、顧客に電話で怒鳴られてしまった。

「私はちゃんと取り付け可能日を確認していたんです。だから一瞬、自分は悪くない、と思ってしまった」

しかし、ちょっとした行き違いが積み上がって起きてしまったことを、誰かのせいにすること自体がおかしいと考え、引っ越し当日に土下座するくらいの勢いで謝罪に行った。そのかいあって、いまもこの顧客との関係は続いているという。

「怒られるのにはそれなりの理由があるし、誠実に向き合うことについて洗礼を受けた出来事でした」

その後、神戸・山の街展示場の店長に就任。営業職の女性たちと奮闘していた1995年に最大の危機に見舞われた。後輩女性の家に泊まり込んで仕事をしていた日、阪神・淡路大震災に遭ったのだ。家具が倒れ、2人で命からがら外に避難したが、いったん落ち着くと「お客さんの安否確認を!」と奔走した。その後しばらくは食事や睡眠の時間を削って被害確認に回った。

「ひとまず落ち着くまでに約1年かかりました」

積水ハウスの家は地震による全壊・半壊がゼロ。「住む家で人生が変わる」と、家づくりを仕事にしている重責をあらためて感じた。そして、10年後には営業成績300棟を達成。しかし、そこで営業を離れ、人事部へ異動して新しい仕事に取り組む。

(左)「オーナーさまの形見のお花。15年咲き続けてくれています」(右)女性管理職候補者研修ウイメンズカレッジのメンバー
(左)「オーナーさまの形見のお花。15年咲き続けてくれています」(右)女性管理職候補者研修ウイメンズカレッジのメンバー

いったん制度を作れば現場の空気は変わる

「当時、女性営業職は少しずつ増えていましたけれど、全国に配属されると、各地にポツポツいるという感じになってしまう。その状況をなんとかしたいと思い、女性活躍推進グループのリーダーの公募に手を挙げました」

それまで男性社会だっただけに、支部長クラスから「若い女性たちに営業がやれるのか」という反発も受けたという。「覚悟なんて最初にすることじゃなくて、実際に仕事をしていく中でできてくるもの」「営業としてきちんと育てれば、女性も男性と同じ」という認識を持ってもらうために、膝を突き合わせて話すこともあった。しかし、5年もすると、営業成績の秀でた女性も出てきて、社内の空気が変わった。

「ありがたかったのは、現在の経営陣が女性を活用することは会社の将来のための経営戦略と考え、その方針がぶれなかった点ですね。だから、安心していろんな手が打てました」

LIFE CHART

その後、執行役員となりダイバーシティを推進したのは、冒頭のとおり。就任直後に大病が発覚したが、その闘病経験を活かし、入院や通院をしながら働ける制度も作った。

育休を取得した男性社員の満足度は97%

男性の育休制度を導入するときは、最初は管理職から「部下本人(男性)は休みたくないと言っている」という反応が来たという。

「現場によって温度差はあっても、いったん決まってしまえば、なんとかしようと動いてくれる。実際に育休を取得した男性社員の満足度は97%なんです。そうして夫婦が互いのキャリアを認め合い、サステイナブルな家庭をつくり、社会と家庭の両方に軸足を置けるようにしておかなければならないと思いますね」

ずっと住める家をつくること。ずっと働ける会社にすること。この2つにかける思いは同じなのかもしれない。「本当は自信がなく、くよくよするタイプ」と言う伊藤さんが47年の経験を活かしてつくり上げた“家”は、多くの人にとって住みやすい場所になっているようだ。

■役員の素顔に迫るQ&A
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Q 好きな言葉、座右の銘
「なりたかった自分になるのに、遅すぎるということはない」(ジョージ・エリオット)

Q 趣味
ガーデニング

Q ストレス解消法
宝塚観劇(年に10回ほど)

Q 愛読書
1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』エリック・シュミットほか著

Q Favorite item
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