誰かが誰かを大切に思う。その心を届けるのがお菓子
創業は1948年、銀座四丁目にて。四季折々の和菓子をそろえながらも敷居は高くなく、店舗の前を通るたび、「あの人に贈ろうか」と親しい人々の顔が浮かんでくる……そんな温かなムードをたたえているのが「銀座あけぼの」である。現在、代表取締役社長を務めるのは、どこかたおやかな雰囲気をまとう細野佳代さん。2004年、3代目である父からその意志を受け取った。
「今までたくさんのプロジェクトに関わってきましたが『大成功!』などと万々歳できるものは少なくて、つねに『ああすればよかった』『こうすべきだったのに』と反省しきりの日々。それでも創業70年を機に“パーパス”なるものをつくり直したことは、自分にとって大きな財産となりました。社の歴史を振り返り、まとめ直し、あらためて未来のビジョンやミッションを描き起こしたもの。父、社員、株主の皆さまそれぞれが、すべてを自然に受け入れてくれたことは『やってよかったのだ』と自信になった出来事でした」
老舗として決して揺るがない軸となるもの。そして老舗だからこそ変化させるべきもの。それらはいったいどんなことだったのだろうか。
「ずっと守っていくもの、それは『人が人を大切に思うときに用いられるもの。それがお菓子』という考え方です。これは会社の歴史と現社員へのヒアリングが完全に一致した、未来へのバトンとも言えるものになりました。一方で、今の人々が喜ぶ味わいやパッケージを見極め、ご満足いただけるための変革はいとわないこと。それこそが変えていくべきことだと理解を深めたのです」
老舗の企業を率いるトップとして、細野さんがずっと続けてきた学びがある。それが「組織開発」について。前述のパーパスづくりと前後して、ここ数年、それらが少しずつ腑に落ちるようになってきたと語る。
「6、7年前、商品のトラブルや社内の人間関係の問題などを抱え、深く悩んでいた時期がありました。個人的に本を読むなど模索しながらも、解決のために外に出かけていくのが私の性格。多くの人に意見を求め、アンテナを広く張り、勉強会に参加するなかで出合ったのが、“発達指向型組織”でした。以来、それらをベースにした組織開発理論を猛烈に勉強し始めたのです」
見るべきは“今”。未来のヒントは今にあり
講座での座学に加え、理論を実践に落とし込む知人の会社を見学するなど、頭も体も同時に動かすのが細野さん流。すると自社にはどう取り入れるべきかが見えてきたという。
「学びを深めるうちに驚いたのは、いかに自分の資質を理解できていなかったか、ということ。それがわかると、人はそれぞれ違う強みと弱みをもっていることも実感し、周囲の役員はもちろん、社員を見る目、育てる視点も変化していきました」
たとえば就職難の時期に入社した世代と、今の新入社員とでは、仕事に対する考え方に大きな違いがある。でもそれは、たまたま時代背景に差があるだけで、一人一人をていねいに見ていくと、その懸命な働きぶりに差はないと気づかされるのだ。
「それよりも強みはどこにあるのか、足りない知識は何か。まだ狭い視野を広げるため、本人の意欲を自然に引き出し、新しい世界を見せられるかどうかは、こちらのスキル次第だということがわかったのです」
もちろんパンデミックにより、先を見通すことが難しい状況は続く。
「だからこそ見るべきは“今”。未来のヒントは今にあり、今を分析すれば、やるべきことは必ず見えてきます。大切なのはその施策をスピーディーに実行に移すこと。おそらく今後、価値観は大きく変わることでしょう。現実を見る、施策を打つ、検証する。それらを繰り返すことで未来を探る。そんなどの時代でも必要となる力を、今こそ一人一人が養う時期なのだと考えているのです」