「どうしても苦手な人」と仕事をしなければならない。そんな場面はいくらでもあります。心理カウンセラーの大嶋信頼さんは「そんな相手には、あえて思ってもいないことを褒めるのが効果的です」と言います。その理由とは――。

※本稿は、大嶋信頼『チクチク・いやみ・理不尽と感じる「ほんのひと言」に傷つかなくなる本』(大和書房)の一部を再編集したものです。

オフィスで働くビジネスウーマン
写真=iStock.com/metamorworks
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「褒められない人」は論理的思考

学生時代、心理学の授業の時に教授から「自分の素晴らしいところのリストを作ってみてください」と言われて「エ?!」となってしまいました。

「自分の素晴らしいところ」と言われても全く思いつかず「食べるのが早い」とか「学食は残さずに食べる」などしか浮かんできませんでした。

そして、教授から「今度は自分のダメなところをあげてみてください」と言われた時に「うわー! ノートにいっぱい書けるかも!」となりました。

「学習能力が低い」「記憶力が悪い」「コミュニケーション能力が低い」「英語がまともに喋れない」「人と親密になることができない」「だらしがない」「物を捨てられない」……など次から次へと出てきて自分でもびっくりしました。

すると教授が「素晴らしいところよりもダメなところのリストが多かった人は論理的、分析的な思考が得意な人で左脳を多く使っているんです」と言われて「へー!」と感動したんです。

子供の頃から「あんたは思いつきで動いて、ちゃんと考えないダメな子」と怒られ続けてきたので「自分は直感的な右脳の子」と思っていたのですが、「論理的思考が得意」と言われて自分でもびっくりでした。

「褒め上手」は想像力が豊か

教授から「今度は隣の人の素敵なところリストを作ってみてください」と言われて、長い金髪のジェシカだったので「うわ! 緊張する!」となりました。

でも、この時の私は冴えていて「ジェシカは頭がいい」「みんなをまとめる力がある」「カリスマ性がある」「服や持ち物のセンスがいい」「コミュニケーション能力が高い」「人に気遣いができる」……と書いていて止まらなくなっていきました。

それを見ていたジェシカもびっくり。

私が書いたあまりにも長いリストを教授が見て「ノブは、ジェシカのイメージから想像力を働かせたから、この時は右脳が働いている」と言われたんです。

教授は単純に「右脳と左脳の機能の違いについての説明」のためにリストを書かせたのですが、私はそれをやってみた時に「あ! 人を褒めて右脳を働かせると自分が解放された感覚になる!」ということに気がついたんです。

孤独から解放される

ジェシカを褒める前は、心理学のクラスの中でも「自分はクラスのみんなと仲良くなれない」とか「誰よりも成績が悪い」「教授からも嫌われている」と心の中で思っていて、常に自分にダメ出しをしていて「自分はこのクラスで孤立している」と本気で思っていました。

授業中に手を上げる学生のグループ
写真=iStock.com/Drazen Zigic
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ところが、ジェシカを褒めるリストを作成してから「あれ? 孤立して息苦しい感覚がなくなった!」と感じて、なんだか広い空間に解放された感覚になりました。

今、あの時を振り返って考えてみると「自分は論理的、分析的に考えて左脳を使うことで精神的な引きこもりになっていた」ということがわかります。

なぜなら「孤立」と「孤独」をたくさんのクラスメイトがいる中でもずっと感じていたからです。

私はクラスで孤立していたのでジェシカを全く知りませんでした。

知らない相手なのに「素晴らしいところを褒める」となったら、想像力が働き「素晴らしいジェシカ」というのを勝手に作り出せてしまった。

褒めることで想像力を働かせて右脳が活発に動くようになったら「孤独感と孤立感から解放された!」という感覚になれたんです。

相手を知らなくてもイメージで褒める

右脳には「空間の把握」をする機能があります。

左脳の論理的、分析的な思考だと「正しい・間違っている」の「白黒思考」に陥って、孤立した狭い空間にいる感覚だったのが、右脳が働き適切に空間が把握できるようになると「孤立感から解放された!」と狭い空間から広い空間に飛び出した感覚になったんです。

自分や人にダメ出しをしていると論理的、分析的な思考が働いて左脳が優位になり「精神的な引きこもり状態」になっていたりします。

「人を褒める」ということをやろうとしても、まだ相手のことはわかりません。

そこで想像力を働かせることで右脳が活発になります。

右脳が活発になることで、自分の周りの空間を適切に把握できて「精神的な引きこもり状態」から脱出できて、考えが外の広い空間に飛び出せるんです。

効果的な練習「家族を褒めてください」

たまに「家族のことを褒めてあげてください」とカウンセリングの中で伝えると「家族には褒めるところがありません」という答えが返ってきます。

大嶋信頼『チクチク・いやみ・理不尽と感じる「ほんのひと言」に傷つかなくなる本』(大和書房)
大嶋信頼『チクチク・いやみ・理不尽と感じる「ほんのひと言」に傷つかなくなる本』(大和書房)

それは論理的、分析的な思考である左脳がバリバリに働いているせいです。

「私は家族のことをよく知っている」という自負があるから「想像力」が働かなくなってしまいます。

そんな時は「もし、家族が赤の他人であったらどんなふうに褒められますか?」とイメージを使って右脳を刺激して、想像力を働かせてもらうと、「あ! 家族のことを大切に思っています」「気遣いをしてくれています」「コミュニケーションを取る努力をしています」「節約に協力してくれています」などとたくさん褒めるところが出てくるのは右脳が活発に動くようになったから。

そして、右脳が活発に動くようになると精神的な引きこもり状態から解放されて脳のノイズが減るので嫌なことや理不尽なことが起きても頭が真っ白にならなくなります。

どんな場面でも楽しく動くことができてしまう。脳内のノイズが減って、さらにどんどん頭が働くようになるから「自分の思い通りに人生が進む?」と嬉しくなるんです。

「会いたくもない相手」でも褒める

「会うと頭が真っ白になる相手」がいます。

会う前から「嫌だな?」とか「気が重いな?」となっているのは、脳内でノイズが大量に発生しているからです。

「会うと頭が真っ白になる相手」が「あれもダメ、これもダメ」という論理的な思考や「あんなふうに考えているんじゃないか、こんなふうに思っているんじゃないか」という分析的な思考を刺激するから、あなたも左脳が活発に働いてしまう。

そして、精神的な引きこもり状態になって脳内にノイズが増えてしまう。

脳内のノイズが増えてしまうことで頭が真っ白になって、思い通りに行動できなくなります。

そして、相手の前で悔しい思いをしたり、相手に対する怒りが発生することでさらに左脳が刺激されて、ますます脳内のノイズが増えてしまうんです。

こんな「会うと頭が真っ白になる相手」も褒めてしまうことで、「右脳が活発になった」と脳内のノイズが減って頭がクリアに働くようになります。

「頭が真っ白になる相手だから、褒め言葉なんて思いつかない!」と考えるのは当たり前です。

「こんなところを褒めてやろう」と、褒め言葉を用意して「会うと頭が真っ白になる相手」のところへ行っても、面と向かったら「頭が真っ白になる」となって褒め言葉がまともに出てこなくなってしまいます。

なぜなら、「事前に褒め言葉を用意する」というのは「相手を褒めたらこうなる」という左脳の分析力を使っているので、脳内のノイズが減らず、目の前にすると頭が真っ白になり、相手を褒められなくなってしまうんです。

「思ってもいないことを褒める」ことがポイント

右脳を刺激するためには「思っていないことを褒める」が一番効果的なんです。

「思っていないことを褒めるって、噓をつけというの?」と左脳の論理的思考は抵抗感を示します。

「噓をつけ」というのではなくて、「思っていないことを褒める」というのは「何もないところから作り出す」という右脳の想像力を刺激するため。

「思ってもいないことを褒める」と相手を前にして頭の中で呟いてみると「あれれ! 結構、適当な褒め言葉がスラスラと出てくるんですけど」となります。

「思ってもいないことを褒める」で右脳の想像力が刺激されて「会うとパニックになる相手」が右脳の力によって全然違う人に変わっていきます。

思っていることを褒めようとすると左脳が働いているから、脳内のノイズは減らずに頭は働きません。

ところが、思ってもいないことを褒めると右脳が刺激され、どんどん脳内のノイズが減るから、頭が働いてすらすら褒め言葉が出てくるようになります。

そうしたら「会うと頭が真っ白になる相手」に対する脳内のノイズが消えていきます。

「相手の前でもちゃんと頭が働くようになった!」となり、頭の中が自由に解放されていくんです。