日本の男性の家事時間は他の先進国の2分の1~3分の1。その分、日本の女性たちは家事育児介護の無償労働に時間を費やし、仕事の時間をセーブせざるを得ない状況です。共働きの妻と子育てをする中での気づきをまとめた『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』の著者・前田晃平さんは「政府がまずやるべきは、男性を家庭に返すこと。女性が輝く社会づくりのためには、すべての男性が安心して家事育児をできる社会づくりが不可欠です」と指摘する――。

世界的に有名な家事育児をやらないクラスタ

新型コロナウイルスが、私たちの生活を激変させています。多くの職場では、リモートワークが一気に進みました。わが家もご多分に漏れず、夫婦共々リモートで働く日々です。家で過ごす時間が長くなり、自然、夫婦のコミュニケーションの機会が劇的に増えました。こういうご家庭、少なくないですよね。まさに、ニューノーマル。

ところで、われわれ日本人男性といえば、他国の男性と比較して家事育児をやらないクラスタとして有名です。実際、6歳児未満のいる家庭のパパの平均的な家事育児時間は1日あたり1時間7分。これに対し、トップのスウェーデンのパパは3時間21分で、その差は2時間以上です(図表1)。

6歳未満児のいる夫の1日当たり家事・育児関連時間の国際比較

在宅でも家事時間がほとんど増えない

でも、今回リモートワークが進んだことで、この状況は変わっているハズ! だって、夫婦で同じ空間にいるのに、パートナーにだけ家事育児を押し付けて、自分だけせっせと仕事するなんて、さすがにそんな状況はあり得ません。新型コロナは災いでしかないけれど、まぁ、こういう変化もあったと思えば、ほんの少しは溜飲が下がるというもの。

ところが、最近出てき始めたデータによると、状況がほとんど変わっていないことが判明……! 例えば、リクルートワークス研究所の記事(「テレワークは男女の家事・育児の分担を変えるのか」)によれば、たとえ夫婦共にリモートワークになっていたとしても、夫婦の家事育児の負担格差が、マシにはなっているとはいえ、依然として大きいままです。リモートワークの男性とそうでない男性を比較しても、1日あたり10分しか家事時間が増えないのです。

女性の社会進出より「男性の家庭進出」のほうが先

また、夫婦でリモートワークをしている妻の側からは「家にいるくせに、夫は全然変わらない。期待したこっちがバカだった」という、怒りと諦めで満ち満ちた悲痛な声がたくさん聞こえてきます。全然、ニューノーマルじゃない! 男性のライフスタイルは、“ノーマル”なまま……。

政府、メディア、そして社会の空気は、「女性の社会進出」をゴリゴリ推してきます。それ自体は、素晴らしい。でも、この状況では、どう考えても家庭を維持しながら社会で活躍することは無理ではないでしょうか。だって、社会に進出して、キャリアを積んでいくには相応の時間が必要です。しかし、日本の女性には、そんな時間はどこを見渡してもありません。

「家事も育児もこれまで通りやってね! 手を抜いちゃダメだよ! でも、仕事も、も〜っと頑張ってね★」

今社会は、女性に対してこんなメッセージを無自覚に発信しています。これは、どう考えてもおかしいです。女性に社会進出してほしいなら、「男性の家庭進出」が先です。男性が家事育児を女性と平等に担ってはじめて、「女性の社会進出」が実現する土台が整います。でも、男たちの行動に変化の兆しはほとんどありません。いったい、どうすればいいのでしょうか。

働きすぎで家事ができない

そもそも、なぜ日本人男性は他国の男性と比べてこんなにも家事育児をしないのか? われわれ日本男児って、そんなに怠け者なの……?

イラストレーション=ハナウタ

実は、そうではないのです(いや、もちろん、単に怠けてるだけのケースも往々にしてあると思いますが!)。

日本人男性は、働きすぎているために、家事育児をする時間がないのです。日本人男性の有償労働時間は、先進国の中でぶっちぎりトップの452分となっており、スウェーデン人男性との差は139分! つまり2時間19分! まさに、先ほどみた日本人男性とスウェーデン人男性との家事育児の差そのものです。

家事育児等を含む無償労働(お金が支払われない労働のこと。典型的なのは家事労働)も含めた総労働時間では、スウェーデン、カナダも日本並みに長いのですが、日本は有償労働の男女差が180分と大きく開いているのが特徴です。これは、いまだ日本人女性の就業者に占める非正規雇用者の割合が56%と多いことが影響しています(図表2)。

男女別に見た生活時間~総労働時間が長い3国

実は、男性も変わりつつある。目を凝らせば……

しかし、このような状況の中でも、日本の男性たちは健気に変わろうとしています.

実際、2008年の頃と比較すると、就労時間にまったく変化がないにもかかわらず、家事育児をする時間が増えています。微妙にだけど……‼(図表3)

夫の家事・育児・介護時間と仕事時間の推移

このデータが、今の日本の実情をよく表している気がします。日本の男たちは、断じて救いようのないダメダメな存在ではないのです。むしろ、今の現実の中で、少しでも家事育児にコミットしようという前のめりな姿勢を見いだすことができます。目を凝らせば!

もちろん、「“職場の空気”とか言ってないで、定時で帰ってきたらいいでしょ!」というご意見もあろうかと思います。それは、間違いありません。しかし、私もかつて残業が当たり前の企業に勤めていた経験があるのでわかりますが、そういう職場の空気を無視して、ひとりせっせと定時で帰宅するというのは、本当に恐ろしいでことです。出世コースから外れてしまうかもしれない、周囲の期待を裏切ってしまうかもしれない、すると、家族を守るためのお給料がもらえなくなってしまうかもしれない……、そんな不安が頭をもたげます。

そして、この男たちの不安が、女性を家に縛り付けています。

政府がまずやるべきは、「男性を家庭に返す」こと

ここで重要になってくるのが、政治です。こういう職場の空気に個人で対抗するというのは、本当に勇気がいることですし、ある程度の力がないと困難です(できる人は率先してガンガンやるべきです)。だからこそ、政治に後押しをしてほしいのです。

東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授は、家庭だけでなく社会の視点からも、こういった「男性を家庭に返す」施策の重要性を指摘されています。

例えば、男性育休の推進です。上記の記事にある通り、ほんの1、2カ月の育休であっても、その後の家事育児時間が有意に増えることが報告されています。

ちなみに、日本の育休制度は世界一です。ユニセフ(国際連合児童基金)が2019年に発表した報告書「家族にやさしい政策」で、名だたる先進国を抑えて堂々の1位を獲得しています。にもかかわらず、その取得率は2019年度実績でたった7.48%。まさに「猫に小判」なのです。

現在、この状況をどうにかせねばと、「男性育休の義務化」や「男性の産休」制度が検討されています。これらの議論を、加速させるべきです。

日本企業の悪習を徹底的に取り締まるべき

そして、もはや(かつての私も含めて)感覚がまひしているかもしれませんが、「サービス残業」なんて、冷静に考えると意味不明な言葉です。「いったい、誰に対するサービスやねん!」って話です。もちろん、時期によって繁閑はあります。残業だってやらねばならない時があるでしょう。だとすると、その残業代はきっちり支払ってもらわねばなりません。なのに、今の日本社会はこの残業代の不払いもひどい。これが、企業の「従業員定額働かせ放題」につながっています。おれたちゃ、スマホじゃないんだぞ‼ 政府は、こういう日本企業の悪習を徹底的に取り締まるべきです。

これをいうと「破産する中小企業が出る!」というご意見が必ず出るのですが、労働者の生活、家族を犠牲にして成り立つ事業は整理されてしかるべきだと思うのです。それが、より競争力のある産業構造の転換にもつながます。

ただ、これを自己責任論で放置してしまうと、雇用が失われるだけです。経営者も含めた、失業者の生活補償と職業教育への徹底した投資は必須です。スウェーデンなどは、そうした形で雇用の流動性を高め、国際的に高い競争力を保っています。

「家にいても使えない夫」をつくり出すもの

しかし、仮にこういった政府の策が功を奏して、男性の労働時間が減少したとして、「男性の家庭進出」は実現するのでしょうか? 女性たちからは「家にいても使えない。自分でやった方が早い」という手厳しいお言葉がたくさん……。

でも、それってなぜでしょうか。心身ともに健康な成人なら、家事でも育児でも、何でもやれるはず。男性にはできないことといえば、乳幼児期の授乳くらいのもの。

誤解を恐れず、勇気を出していいますが、男性ができないのは「家事育児」ではなく、「パートナーが既に作り上げた家事育児」だと思うのです(単に家事育児をサボっている人も、もちろんいると思いますけど)。

これは、身に覚えがあります。例えば、妻に洗濯物の「干し方」が違うと指摘されたり、衣類の「しまう場所」が違うと言われたり、娘のご飯の塩分が「濃い」と言われたり……。

私からすると、私のやり方だって、家事も育児も問題なく回るわけであって、何でそんなことをいちいち言われないといけないんだ‼ ってなります。

夫の家事に腹が立つ妻の心理

しかし、妻の視点では事情が違います。妻は、家事育児に関して自身の中で緻密にPDCAを回し、効率的な一連の流れを確立しています。そこから外れてしまうと、妻にとって、余計な負担が増えてしまうのです。それを考えなしにやる夫に、腹が立ちます(だ、そうです)。

なぜ、こんな差が夫婦で生まれてしまうのか? 原因は、育休期間にさかのぼります。私は育休を2カ月取得しましたが、妻は9カ月でした。私が育休を終えて仕事に戻って以降、妻はせっせと合理的な家事育児のシステムを作り上げていたのです。私は、妻が確立してくれたこのシステムに、ありがたく乗っかりました。何も、考えずに……。これが、よくなかった!

完成したシステムを、後からやってきた人が使いこなすのは、大変です。私は仕事でシステム開発や業務プロセスの設計をしています。自分でゼロから何かを作り出すのは、キツイですが、その作り出したものに対する理解は誰よりも深いし、快適に使いこなせます。でも、他人にとっては違うのです。

「なぜここはこんな仕様にしたの?」「あの機能はないの?」等々、いろいろな質問が山のように出てきます。特に最初は、本当に使いづらそうです(ごめんなさい)。

家事育児も、同じではないでしょうか。妻が自身にとって、家族のみんなにとって、これがベストと判断して作ってくれた家事育児のやり方。そこに考えなしに乗っかってしまった私は、その背景にある理由を理解しておらず、妻と同じようにはできなかったのです。

男の家事に主体性を!

私は、男性には(私自身も含めて)、主体的に家事育児にコミットしよう! と言いたいです。パートナーが頑張って作ってくれた家事育児のシステムにただ乗りしてないで、一緒に知恵を絞り、どうやったらより良いものになるか、ガンガン提案していく必要があるはずです。だって、私たちは、文字通り「パートナー」なのだから。

そして女性には、もっとパートナーに歩み寄ってほしいと(僭越ながら!)思います。元はといえば、私たち日本男児に家事育児に対する主体性が欠けていたせいで、大変な思いをして、頑張ってひとりで作り上げていった家事育児の仕組みだと思います。

前田晃平『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』(光文社)
前田晃平『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』(光文社)

しかしながら、本稿で述べた通り、男たちも変わろうとしています。多くの人は、今のままではいけないと自覚しています。だからこそ、今うまくやれなくても、諦めないでほしい。一緒に、どうやったらもっといい仕組みになるか、考えてほしいです。

短期的に考えれば、ご自身で何もかもやった方が効率的に回ります。でも、それだと家事育児の苦労をずっと背負い込み続けてしまうことになります。それでは、現在の男女格差は変わりません。

「男性の家庭進出」は、男たちだけが頑張れば成し遂げられるものではありません。夫婦で力を合わせて、実現するものだと思うんです。