昨年(2020年)の就活は、コロナの影響で売り手市場から買い手市場に一転。今年も厳しい状況が続くと予測されている中、大学生はどんな実感を持って就活に取り組んでいるのでしょうか。現在の内定状況からオンライン就活ならではの工夫まで、4年生5人の本音を公開。『Z世代』(光文社新書)の著者で原田曜平さんが聞き出した「コロナ就活」の実態とは──。
屋外のカフェでコンピュータに取り組むビジネスアジアの女性
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【座談会参加者】
佐藤 由佳(仮名)/慶應義塾大学法学部4年生
田中 駿介(仮名)/慶應義塾大学法学部4年生
西川 拓也(仮名)/明治大学政治経済学部4年生
池谷 淳平(仮名)/立教大学社会学部4年生
山岸 綾香(仮名)/津田塾大学学芸学部4年生

コロナ禍の就活でも「内定済み」が多数派

【原田】この春に卒業した大学生の就職内定率は、コロナ禍の影響もあって10年ぶりに大きく低下しました。共同通信社がまとめたアンケートでは、21年度の実績より採用数を減らすとした企業が22%、前年度並みが34%、増やすと回答した企業は17%でした。半数近くの企業が採用を絞った昨年より増やす企業が見られるものの、コロナの影響が強い業界を中心に採用の抑制傾向が見て取れます。いま就活中の新4年生の皆さんの実感はどうですか? 就活の進み具合もあわせて教えてください。

【佐藤】私は広告系のメガベンチャー1社から内定をもらっていますが、今も引き続き就活中です。広告業界やコンサルティング会社のほか、金融業界と、商社の一般職にも応募していくつもりです。今のところ、就活に厳しさはあまり感じていません。コロナの影響があるのはわかっていたので、皆早めに就活を始めていて、周りの友達も半分ぐらいの人はもう内定をもらっています。

【原田】慶應生で頑張り屋さんの佐藤さんが、もう既にいい企業から内定をとっているのに一般職を受けるなんて、今のZ世代は色々な選択肢を考えるようになっているんだね。

【山岸】私は2月に就活を終えました。早い時期に第一志望の広告代理店から内定をもらったので、その後はもう他社には応募しませんでした。もともと就職したかった会社にインターンとして入って、そのまま内定したので、あまり厳しさも感じませんでした。

【西川】僕は広告・エンタメ業界を目指しています。第一志望には落ちましたが、ほかの1社から内定をもらうことができました。その社も志望通りの業界ではあるんですが、本命は大手の一流企業なので、そこを目指して就活を続けています。

さらに就職活動を続ける

【田中】僕は広告業界やIT企画職を目指していて、大手通信会社から希望職種で内定をもらうことができました。でも就活はもう少し続けようと思っていて、今は広告代理店やコンサルティング会社などを検討しているところです。

【池谷】僕も通信会社から内定をもらっています。でも、本当の志望先は金融業界。そちらの面接を受けつつ商社にもチャレンジしてみたい気持ちもあり、6月ぐらいまでは就活を続けるつもりです。

【原田】皆さん、すでに内定をもらっているようで、僕もうれしいです。コロナ禍で業績が下がり、採用を絞っている企業も多いのに、あまり厳しさを感じずに済んでいるようですね。今は少子化で、若者の数より企業の数のほうが多いから、コロナ禍でも優遇されやすい世代と言えそうです。でも、全国的には内定率は下落傾向にあって、近いうちに就職氷河期が再来するんじゃないかとも言われています。高学歴な皆さんとは違って、他の大学の学生は厳しい状況なのかもしれないですね。

就職浪人をする他大学の先輩も

【佐藤】バイト先の1個上の先輩は、内定した会社から、入社の4日前になって「希望退職を募ります」って言われて、いま再就活しているそうです。そんなこともあるんだってびっくりしました。

【山岸】私の先輩の中には、去年内定がもらえなくて就職浪人している人が4~5人います。でも、逆に同じ大学の同学年の人がどういう状況かはよく知らなくて。完全にオンライン就活だったので、周りの人の進捗状況がまったくわからないんですよ。

仕事の面接
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【原田】厳しいと感じるかどうかは、大学によって、また目指す業界によっても違うのかもしれないですね。それと、今年はオンライン就活という点も今までとは大きく違うところ。やりづらいと感じた点はありますか?

面接中にWi-Fiが切れるアクシデント

【池谷】グループ面接中にWi-Fiが切れたのはつらかったです。オンライン授業などで使い方には慣れていたんですが、その時に限って天候不良で接続が切れてしまって。ミスったなと思ったけど、どうしようもないですよね。結局、その企業には受かりませんでした。でもその点を除けば、オンラインだと時間をかけずにたくさんの会社を受けることができてやりやすかったですね。

【原田】Wi-Fiが切れたことが理由で落ちたんだとしたら、そんな企業には行かなくてよかったという考え方もできますよ。不可抗力から起きたことなのに、そこを理解してくれないのはあまりいい企業とは言えない気がします。

オンラインのおかげで対話のハードルが低くなった

【田中】僕はオンラインでやりづらかったことはほとんどありませんでした。説明会も面接もOB訪問も、全部家でできるのでむしろ楽でしたね。画面越しに部屋の背景を見せることでつかみにもなったし。本棚が置いてある場所を背景にしたので、それをきっかけに話が盛り上がることも多かったです。でも、インターンはやりづらかったかな。1日パソコンの前に座っていなきゃいけないので疲れました。社員さんの雰囲気もつかめず、その社を理解し切れないまま終わってしまった気がします。

【西川】僕も就活はオンラインのほうが楽でした。移動時間もかからないし、対面だとどうしても緊張して変に気を遣ってしまうタイプなので、オンラインのおかげで対話のハードルが低くなった気がしました。一方で、インターンや企業説明会はオンラインだと会社の雰囲気をつかみにくいので、そこはデメリットだと思います。オフィス見学ができないのも残念です。

1日4社…選考を詰め込める

【佐藤】私も大変だったことは特になくて、楽だったことのほうが多いです。上半身はきちんとした服装にしなきゃいけないけど、下はパジャマでOKだし(笑)。1日に4社とか、選考を詰め込めるのも効率的でした。でも、そのぶん頭の切り替えは大変になった気がします。企業側もオンラインだからあまり日程の選択肢をくれなくて、調整が大変だった日もありました。もう一つ、自分をアピールする時に、五感に訴えられないのもデメリットかもしれません。オンラインだと、話しかたや表情で何とかするしかない気がします。

【山岸】私は去年の4月頃にはもう面接を受けていたので、周りの皆はまだ就活を始めていなくて、相談相手がいないのがつらかったです。コロナ禍で友達と気軽に会うこともできなかったし、一人暮らしで親とも離れているので、一人で悩みを抱え込んでしまっていました。

【西川】僕も一人暮らしですが、友達が近くに住んでいるので就活の相談もよくしています。おかげで抱え込まずに済んでいるけど、そうじゃなかったらつらかったかもしれないです。

【山岸】今の社から内定をもらうまでは他社にも応募していたんですが、不採用のメールが来ると「私は社会に必要とされていないんじゃないか」って。私の名前を間違えてメールしてきた社もあって、傷つきましたね。でも、オンラインでたくさんOB・OG訪問をして、相談するうちに少しずつネガティブな気持ちが解消されていきました。それが気軽にできるのはオンライン就活のメリットかもしれないですね。あと、地方に住んでいる友達は、オンラインのおかげで就活しやすくなったって言っていました。交通費がかからないからって。

Zoom面接では背景が「つかみ」に

【原田】それはオンラインの大きなメリットですね。OBやOGに時間をとってもらいやすいのもいいところ。一方で、孤独感があるのは確かにつらいだろうと思います。特に一人暮らしの人は、積極的に誰かに相談してほしいですね。それから先程の田中くんの話で、背景で会話のきっかけをつかむという点はイマドキで面白いと思いました。これはオンライン面接ならではのテクニックかもしれません。ほかには、皆さんはどんな工夫をしていますか?

【西川】僕はサッカーとアイドルが好きなので、面接の際には背景に応援ユニフォームやグッズを飾っています。会話が盛り上がるし相手との仲も深まる気がして、これは大きなアドバンテージになるなと実感しています。面接では必ず「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を聞かれるんですが、僕はサッカーをやっていたのでそのアピールにもなる。言葉だけで伝えるより、モノを飾ったほうが興味を持ってもらいやすい気がします。

【佐藤】私は常に自分にライトを当てるようにしています。そうしたほうが印象よく見えるって先輩に聞いたので。そのほかは特に工夫していなくて、メイクもいつもと同じ感じです。

男子もライト&メイクで印象アップ

【池谷】僕もライトは当てていますね。あと、男子では珍しいかもしれないけど、簡単なメイクもします。Zoom面接だし、少しでも自分をよく見せた方がいいと思って、志望度が高い企業の時は必ず眉を描いて赤いリップをつけています。実際、面接官から「第一印象が明るいね」って言われたので、ウケはいいみたいです。

【山岸】私は野球場でビールの売り子のバイトをしていたので、その時にもらった賞状を後ろに飾っていました。オンライン面接って30分ぐらいと短いんですが、その中で少しでも自分の持ちネタを見せてアピールしたいから。面接官の中には、「私も野球好きなんですよ」って乗ってきてくれる方もいました。あとガクチカも、「力を入れた→挫折した→這い上がった」の点を語ったほうがアピールできるかなと思って、1分以内で話せるように事前にエピソードを整理しておきました。

【原田】背景や第一印象、話す内容など、それぞれ工夫しているようですね。背景は、その人の素顔やプライベートを感じることができるから、人柄を見極めたい面接官にとってもプラスになりそうだなと思いました。池谷くんの「メイクZoom面接」も、普段はバリバリの体育会系なのに、意外なところに気を配っているのが面白かった。山岸さん以外はこれからも就活を続けるということなので、オンライン就活ならではのメリットを生かしながら、納得のいく企業選びをしてほしいと思います。