森 慧太郎/青山学院大学地球社会共生学部3年生
齊藤 龍星/早稲田大学政治経済学部2年生
安田 愛麻/慶應義塾大学総合政策学部2年生
鈴木 星良(仮名)/桜美林大学ビジネスマネジメント学群2年生
坂本 あかり(仮名)/上智大学総合グローバル学部1年生
田中 亮介(仮名)/早稲田大学社会学部2年生
末石 エレン(仮名)/立教大学文学部3年生
山田 花子(仮名)/慶應義塾大学総合政策学部2年生
※敬称略
若者たちが男女不平等を感じるとき
【原田】最近、森喜朗元会長の発言や、報道ステーションのCM動画が炎上しました。今、日本ではジェンダー問題への関心がかなり高まっているように思うけれど、若者の間ではどうなんでしょう。皆さんは女性差別や男女不平等を感じたことはありますか?
【末石】バイト先で感じたことがあります。居酒屋で酔っ払ったおじさんにセクハラされたり、コンビニでお客さんから容姿のことを言われたり、彼氏がいるかどうか聞かれたり……。私が男性だったらこんなこと起こらないだろうなって。あと、男友達と何人かで遊んでいた時、女性が私だけだったからか「やっぱ女の子がいると華があるわ」って言われて違和感を覚えました。「何で私が場を華やかにする役を期待されてんだろ」って。
【原田】セクハラや容姿のことは一般認識としても問題外だとして、「華がある」は、きっとその男友達は褒めようとして良かれと思って言っている。そして、多分華やかにする役を押し付けようという意図はないであろうことが難しいところですね。一方で、男性の友達に対して「君がいると華がある」は言わないであろうことも事実。男性には言わないことを女性に言っているという時点で良くないという考えの人も時代的に増えているだろうし、人を褒めようという善意だからこれはいいのでは、と思う人も女性の中にもいるかもしれない。急激にジェンダー意識が高まって変化が起こっている時代だから、どこで線引きをするかを共通認識として皆が持つことは難しいタイミングかもしれないですね。
【鈴木】私は女性が軽く見られてるなと思うことはあります。私の周りには夜職(よるしょく=水商売)をしている子が多いんですが、おじさん客の態度を聞くと女性をモノとして見ているように感じます。問題を抱えていて夜職をせざるを得ない子も多いのに、上から目線でお説教するおじさんもいるみたいで。パパ活でも、会った女の子のことを容姿何点とかSNSで採点している男性がいるんですよ。そんなことする人いまだにいるんだなってがっかりします。
「日本は男社会」と聞くたびに驚く男子
【斎藤】僕には夜職をしている女友達が6人ぐらいいます。その子たちと話していると、一般の女性と本人たちとでは夜職のイメージがかなり違うなって感じますね。僕の友達には、夜職を天職だと思って自信を持って楽しく働いている子も多い。だから一概に「夜職で稼がなきゃいけない事情があるなんてかわいそう」「男性から軽く見られてかわいそう」って目で見るのはどうかなと。夜職をジェンダーの論点で語るのはちょっと違う気がします。
【原田】コロナで日本全体が経済的に厳しくなっているので夜職をやりたくないのにせざるを得ない人が増えている可能性はあります。実際、首都圏の9つの私立大学で、2020年4月に入学した新入生を対象にした仕送り額についての調査の結果が過去最低となったようです。ひと月の仕送り額の平均は8万2400円で、仕送り額から家賃を除いた一日当たりの生活費が607円となったそうですが、東京で一日607円で生活するのは本当に大変です。
一方、天職だと思って楽しくすごしている人もきっといっぱいいるでしょう。だから確かに夜職の人全てをジェンダー論で語るのに違和感を感じる人もいるんでしょうね。
ただ、働かざるをえない人相手であろうが、働きたくて働いている人相手であろうが、もし人をモノとして扱うような態度をとるお客がいるなら、それは絶対に良くないね。これは対夜職に限った話ではなく、全てのサービス業の人たちに対して言えることでしょう。対男性相手の場合も同じ。これはジェンダー論以前の問題だから、ジェンダー論として取り上げるのには違和感がある、と思う人もいるのかもしれませんね。
【森】僕は男女を区別して考えたことがあまりないので、メディアで「日本は男社会」「男性が優遇されている」といった声が上がるたびにびっくりします。そんなの感じたことないのになって。男女の区別って、それこそ恋愛面とかトイレが別とか、服にレディースとメンズがあるとか、そんなところでしか意識したことがないですね。
男性の無自覚は大いに問題
【末石】その無自覚なところに怖さを感じます。怖さって言うよりむかつきかな(笑)。女性差別や男女不平等は確かにあって、それは社会人になったらきっとわかると思うんですよ。森くんの言う通り、私たちの世代は男だから女だからっていう考え方はしないけど、上の世代ではまだまだ根強い。だから私たちの中でも、社会人になってから毒される人が出てくるかもしれないですね。
【原田】確かにZ世代の若者同士の間では、上の世代と比べると、男女の垣根が相当少なくなってきているように感じます。「隠れメイク男子」も増えているし、レディースの服を男性が着るのも普通になってきている。専業主婦になりたいという女性も一定量いるけど、減ってきてはいる。なので、あなたたちが社会で主役になる10年後、20年後はきっと今よりジェンダーに関するさまざまな問題が少ない社会になっていると想像しています。けれども、確かに今は問題がたくさんあって、それに無自覚な大学生男性がいるのは、まだ社会に出ていないから、という点も大きいかもしれませんね。
何を差別と感じるのか、すり合わせが必要
【田中】僕は、人によって差別を感じる基準が違うなって感じています。例えば「華がある」っていう言葉、僕も悪気なく言っちゃうと思う。逆の立場だったら、「やっぱり男子がいると頼もしいね」って言われても僕は全然気にならないです。男性のほうは悪気がないのに「それはフェミニズム的にアウト」って言われると……。何を差別と感じるのか、そこをすり合わせるような教育が必要なのかもしれません。
【原田】「頼もしいね」と言われて、男性だから責任を押し付けられたように感じて嫌だと感じる男性もいるかもしれません。君は違うけれど、今時はそう感じる若年男性は増えている気もします。でも、だとしたらジェンダー論として取り上げるべき事例ではない、という話になってしまうのかもしれませんね。男性の中でも女性の中でも、人によって感じ方が違う点がとても難しい問題で、確かに時間をかけてのすり合わせの作業が必要なのかもしれないですね。
【田中】報道ステーションのCMの炎上も、似たところがあるなと思っています。個人的な価値観と、「差別や不平等はいけない」っていう基本的な基準を、ごっちゃにしている人がいるんじゃないかと。それが過剰なフェミニズムにつながっているような気がします。もちろん男女不平等は事実としてあって、学生でも例えばサークルの幹部のほとんどが男子とか、よくありますよね。
【原田】基準がまだ明確でないから、個人的な感情や、やや過剰に感じる批判もあるということなんでしょうかね。時代の過渡期だから難しい面もあるのだろうけど、確かに前回議論したように、基準や線引きが明確でないので、「怖くてジェンダー論に触れられない」という若年層が現状では多くなってしまっており、未来のジェンダー論の観点から言ってあまり宜しくない状況にある、ということなのかもしれませんね。 しかし、Z世代の間でも未だに大学のサークルの幹部のほとんどが男性って状況なのは少しビックリですね。
同じ大学でも、キャンパスによって温度差
【安田】私がいる環境では逆で、女性リーダーのほうが多いです。慶應SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)のサークル代表だけ見ても、男女同数ぐらいですね。私が男女不平等を感じていないのも、それが理由かもしれないです。それに、自分の今の環境だと女性でよかったと思うことのほうが多い。例えば原田さんのさまざまな企業に対するマーケティング業務でも、女性限定のワークショップが結構ありますよね。企業のために生理用品やヘアケア製品のリサーチをしたいからって。男子には声がかからないわけだから、自分はすごく有利だなって。
【原田】確かに世の中には化粧品や生理用品など、メイン顧客を女性とする商材がとても多いのです。マーケティングを行っている僕自身も僕の研究所にいる学生さんには男女ともに平等に経験を積むチャンスがあれば良いと思っているのだけど、どうしても女性限定のワークショップになってしまうケースが実際に多いですね。でも、一般的に就活においては男性のほうが有利だと言われていたりするし、医学部で男性を優遇して合格させていた問題もあるし、学生時代でも問題は存在していると思いますけどね。
【山田】同じ慶應でも、三田キャンパスや日吉キャンパスの国際交流系サークルでは、男子が上に立っていることが多いですよ。私もSFCですが、ここは割と特殊で、男性女性じゃなくて「一人の人間として実力があるかないか」っていう考え方の人が多い。加えて、私は中学の時は男女比が1:2で女子のほうが強かったし、高校は女子高だったから……。差別や不平等は社会に出たら感じるかもしれませんが、今は全然です。
【原田】僕は三田出身ですが、三田はちょっとクラシカルで保守的なんでしょうかね。ジェンダー論に関心のある末石さんは、この問題について周りの子と話す時ギャップを感じることはある?
問題意識がない同世代からは冷ややかな目線
【末石】あります。ジェンダーに関心のない子と話していると、こっちが勝手に騒いで盛り上がってる感じになっちゃいますね。「何ヒートアップしてんの」って冷ややかな目を感じるというか……。私からしたら、自分が生きている社会のことなのに、自分ごと化して考えられない人のほうが不思議。これからこの社会で、みんな一市民として生きていくのに。ただ、私もこの分野について勉強していなかったら差別も気にならなかったし、こんなことも感じなかったと思います。
【原田】同世代でも、関心がある子とない子でかなり温度差があるわけだ。末石さんと鈴木さん以外は、差別や不平等を感じたことはあまりないわけだよね?
【坂本】私が「ない」って答えたのは、同世代からはされたことがないからです。でも差別って、上の世代の人はしますよね。私には弟がいて、私自身は私立文系の大学に通っているんですが、お母さんから「弟はそれじゃ足りない、男の子は学歴がもっとあったほうがいい」って言われたことがあって。その考え方ヤバイなと思って「何言ってんの」って言い返したことがあります。塾の先生からも「女性は大学を出てもすぐ仕事辞めちゃうから」って言われたことがあります。
同世代にも差別はある
【原田】そうすると、社会や職場ももちろん問題なのだけど、親という身近な大人の価値観の問題も根深い、ということですね。親の意識改革も重要なポイントかもしれません。また、その親に影響を受けた若者自身の中にも、その価値観を引き継いでいる人たちが結構いる、ということなんでしょうかね。坂本さんはそうはならなかったけれども。
【坂本】そうですね。同年代の友達でも専業主婦になりたいとか、親の志向にもろに影響を受けている子はいます。あと田中さんの話で思い出したんですが、サークルの代表に「代表」と「女代表」っていう呼び方があるんですよね。なぜ男子には「男代表」ってつけないのかな。そう考えると、同世代には差別はないって言い切れない気がしてきました。
【原田】Z世代の間でも、薄れてきてはいるものの、こうして皆で議論してみると、まだ問題はあるってことですね。
【田中】早稲田のとあるサークルは、去年の幹事長が女性だったんです。やっぱり「女性幹事長だ!」っていう騒がれ方はしましたね。ただ、本人もSNSで「男は分かってない」「男は仕事が雑」みたいなフェミ寄りの発言をすることが多くて。リーダーだったら、スタッフを男女じゃなくて一人の人間として見るべきじゃないかなと思ったりしました。女子たちも応援するよりちょっと引いちゃってて、そうした発言には、男子だけじゃなくて女子も抵抗感があるのかなって思いました。
【原田】Z世代の間でさえ「女性幹事長だ」って騒がれるんだね。その人もそんな言われ方をするから、つい強気な発言をしちゃって、周りから反感を買われたのかもしれない。女性が幹事長になっても騒がれない時代が、もうそろそろきても良いと思っていたのだけど、まだ先は長そうですね。
オープンに、冷静に話せる環境が必要
【末石】ジェンダー問題に関しては、私も発言する場は選びますね。講演会で会った子とか、関心が似ている相手とだけ話す感じです。そうでない子はやっぱりちょっと冷ややかだったり、過激じゃないのに過激って言われたりするから。もちろん、女性蔑視発言をされたら「それ違うんじゃない」って遠慮なく言いますが、自分から進んで議論を持ちかけたりはしないです。SNSでも、コミュニティーや話題によってアカウントを使い分けています。
【原田】ジェンダー論に限らず、日本の若者の間では社会テーマについて熱く語る人を「意識高い系」と揶揄する傾向がありますね。言うとたたかれ、だから言わない。聞くほうもただ怖がって距離を置く。こういう風潮はSNS依存度の高い日本の若者特有の本当に良くない点かもしれませんね。
【鈴木】私はジェンダー問題についてはあまり知識がないんですが、そういう人でも、もっと身近でわかりやすい話題だったらオープンに話しやすいのかも。以前、海外の女性が「一人で夜道を歩く時は鍵を指に挟んで、襲われたらそれで刺せるようにしている」ってツイートしていたんです。その不安な気持ち、私もすごくわかるし友達も共感してくれたんですが、男の人はどう思うのかなって気になって。女性は日頃からちっちゃな不安を感じながら行動しているんだよってこと、知っているのかな。そんな身近な話題から入れたら、ジェンダー問題も話しやすいのかもと思いました。
【原田】確かに、小さなテーマからでもオープンに話し合える環境は大事だね。末石さんのように現状を問題だと感じる人がいる限り、改善は続けていかなきゃいけない。男女平等の実現に足りない部分を冷静に見つめて、冷静に改善に取り組んでいくべきだろうね。