成績が下位25%の人は自分の能力を過大評価し、上位25%は過小評価する。この「できない人ほど自信家」現象は、なぜ起きるのでしょうか。脳科学が専門の細田千尋先生は「勉強だけではなく、運転や仕事などあらゆる分野でこの現象は認められており、学生より社会人に自信家が蔓延しやすい」と指摘。その理由とは――。
幸せなビジネスマンたちのシルエット
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

できない人ほど自信家

「愚か者は自身を賢者だと思い込むが、賢者は自身が愚か者であることを知っている」

これはシェイクスピアの一節ですが、事実、現代においても、「自分は有能だ、と自信に満ち溢れているのに、実際できない人っていますよね?」と聞かれれば、いるいる! と身の回りの誰かを思い浮かべながら答える人は多いでしょう。

この「できない人ほど自信がある」という現象を心理学では、ダニング・クルーガー効果、と言います。

心理学者のデヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーが、米コーネル大学の学生に対して、ユーモア、論理的推論、英文法についてのテストを実施しました。さらに自分の成績が全体の中でどの程度なのかを予想してもらう実験を行いました。

その結果、3つの実験(ユーモア、論理的推論、英文法)どれにおいても次のような結果を得ました。

上位25%の人は、自分の実力を過小評価する傾向

(1)成績が良い人たちは、自分の成績はよいと予想していた。(これは当たり前ですね)
(2)成績がとても良い人たちは(上位25%)、実際の成績よりも、予想した成績の方が悪かった。(「できなかった」と言いながら良い成績を取る人)
(3)成績の悪い人ほど自分の成績を高く予想した。実際の成績と予想の差がもっとも大きかったのは、実際の成績が下から25%の人たちだった。(実際の成績が最も低い人たちは、「できた」と言って、実際はできなかった)

赤ペンでA+と書かれたノート
写真=iStock.com/IcemanJ
※写真はイメージです

下位25%の人が自分を過大評価する原因3つ

成績下位25%以内の人は、平均して「自分は上位40%程度にいる」と自身を過大評価したのです。この現象は、次のように説明されています。

1.能力の低い人は、自分のレベルを正しく評価できない。
2.能力の低い人は、他人の能力も正しく評価できない。
3.1、2によって、能力の低い人は自分を過大評価してしまう。

つまり、この研究の中で、愚かな人は、能力が劣っているばかりでなく、自分の能力が劣っているということを知る能力がないうえ、他者の能力もわからない、と説明されています。

あらゆる分野に共通するメタ認知の欠如

この現象は、政治、運転への自信、金融知識などあらゆる分野で見られることがわかっています。実際、次のような調査結果もあります。

①運転をする人を対象に運転のうまさについて聞くと、約8割の人が自分は平均以上の運転センスを持っていると回答した。
②エンジニアの約4割が、自分の能力は、その企業のエンジニアのトップ5%に入ると考えていた。
③約7割の大学教員が、自分の教育能力をトップ25%に入ると考え、約9割が平均以上の教育能力を持っていると考えていた。

これらは、自分自信の思考や行動について第三者の視点から捉え、正しくみなす能力である「メタ認知力」の欠如が原因です。

“間違った自信”による負の影響

筆者の研究でもこの現象は再現ができており、大学生では、成績が悪い人ほど、自分の成績を、実際より良く予想していました。これらの人では前頭葉の一部の体積が、正しく予測できる人より小さいこともわかっています。

学習場面においては、成績が数値として見えてくることで、「自分の成績が予想より悪かった」ことをきっかけにメタ認知の修正ができる人もいます。

一方、社会人にとっては、本人の予想と実際の成績の差を目の当たりにする場面が少ないことが、メタ認知の修正につながらず、できない自信家を蔓延させるのでしょう。

特にダニング・クルーガー効果にとらわれている本人は、自分を優れていると思い込んでいるため、学ぶことや必要な努力をする意欲を持っておらず、さらに、自信過剰なため、他者の意見を聞かなかったり、自分の評価が低いという不満を持ったりすることが多くなります。これは社会集団の中では害になり得ます。

勘違いを減らす方法2つ

どのようにすれば、この勘違いが減っていくのでしょうか。ダニングとクルーガーは、論理的問題のできが悪い人に、その問題に関する教育をしました。その結果、教育を受ける前より、教育を受けた後の方が、実験の成績や、自分の成績の順位について、正しく予測することができるようになったのです。

これは、実際に自分のその分野に対する能力が上がることで、その能力に関するメタ認知力が上がることを示しています。実際、やる内容を理解できていない時の方が、「自分はなんとなくこれができるかも」などと安易に自信を持って考えてしまい、逆に知れば知るほど、「自分ではできないのでは……、ここはむずかしいのでは……」と、メタ認知的な理解も深められるのです。

つまり、知識を深く得る努力を怠らないこと、他者からのフィードバックを得るなど自分の客観的評価を知ること、それらを心がけることが、「勘違いした人」になるのを避ける方法なのです。

とくに、この、ダニング・クルーガー効果の話を聞いた時に、「こうゆう人ほんといるよね」と、他人の顔だけを思い浮かべ、自分のことを振り返らなかった人も要注意の可能性があるかもしれません。

<参考文献>
・ Dunning,David, 2011, The Dunning-Kruger Effect: On Being Ignorant of One's Own Ignorance, Advances in Experimental Social Psychology, vol.44, pp.248-296.
・ Kruger, Justin and Dunning, David, 1999, Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One's Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments, Journal of Personality and Social Psychology, vol.77, no.6, pp.1121-1134.
・ Gibbs, Shirleya, Kevin Moore, Gary Steel and Alan McKinnon, 2017, The Dunning-Kruger Effect in a Workplace Computing Setting, Computers in Human Behavior, vol.72, pp.589-595.
・ McIntosh RD, Fowler EA, Lyu T, Della Sala S. Wise up: Clarifying the role of metacognition in the Dunning-Kruger effect. J Exp Psychol Gen. 2019 Nov;148(11):1882-1897. doi: 10.1037/xge0000579. Epub 2019 Feb 25.