大統領選はトランプ氏の独り相撲だった?
まずは、記憶に新しい今回の大統領選、この選挙結果を“予想外”ととらえたのは、まず今回の選挙が「トランプvs.バイデン」ではなく、「トランプvs.反トランプ」の構図になっていたからです。
実際にアメリカから届く声の多くは「トランプが好きか嫌いか」であり、映像にはいつも熱狂的なトランプ支持者やアンチばかりが映し出されていました。対してバイデン候補は存在感が薄く、熱烈な支持者もアンチも見た記憶がありません。失礼ながら、私も「トランプじゃないほう」程度の認識でした。
つまり私たちは「トランプvs.バイデン」ではなく、いつの間にか対立候補のいない「トランプの独り相撲」を見せられているような気分になっていたわけです。
そんな中、行司がいきなり「トランプじゃないほう」に軍配を上げたのだから、そりゃあみんな驚きます。「え、トランプって誰かと戦っていたの?」という驚きです。ということは、どうやら2020年の大統領選は、バイデンが人気者だったというよりも、トランプが独り相撲で勝手に勇み足をしてしまったということなのでしょう。
今回は、アメリカの保守・リベラルとトランプ大統領誕生のお話をさせていただきます。
自由へのアプローチが異なるアメリカの保革
アメリカは、共和党と民主党による二大政党制の国です。二大政党といえば多くの国では「保守vs.革新」、つまり資本主義系vs.社会主義系の構図になりがちですが、アメリカの場合は「保守vs.リベラル」と呼ばれます。これは保革の対立関係に、とても似ていますが少し違いがあります。
アメリカは「自由の国」ですから、どちらも自由をめざす点では同じなのですが、実はそのためのアプローチが全然違うのです。
共和党は「自由を求める保守層」です。彼らは「自由の国では、がんばれば誰もがアメリカンドリームをつかめる」という伝統的価値観を信じ、とにかくフェアな自由競争を好みます。そのため彼らは、社会保障などの政府の介入を「自助努力以外のアンフェアな要素」として嫌います。なぜなら弱者は「フェアな自由競争に敗れた結果」であり、それを救うのは、かえってアンフェアだからです。
特に高額納税している富裕層は弱者救済には冷淡で、彼らのスタンスは、トランプの娘婿・クシュナー氏の言葉に集約されます。「頑張らない人のために、僕らは頑張れない」。
これに対して民主党は「自由を求める革新層」です。彼らは、誰もが自由の国でアメリカンドリームをめざすには、まず「万人に平等な機会」を与えなければいけないと考えます。そのために彼らは、貧者もマイノリティも同じスタートラインに立てる環境整備を重視し、福祉や教育、不況対策などに積極的に介入します。
経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイスは「アメリカではリベラルという言葉が、本来と逆の意味で使われている」と言いましたが、私はそんなことはないと思います。確かに行っている政策は「不平等の是正」、つまり社会主義的ですが、それが自由のための環境整備と考えれば、彼らをリベラル(自由主義者)と呼ぶことに矛盾はないと思います。
オバマ政権の政策から漏れたプアホワイトたち
トランプ政権の前、アメリカは民主党のオバマ政権でした。それ以前から世界はグローバル化とIT化が進み、格差が拡大していましたが、そこにアメリカ初の黒人大統領バラク・オバマがあらわれ、マイノリティや多文化主義に肩入れした政策を実施しました。
すると、どうなったか……アメリカ社会で格差に苦しみながら、政策的に救われない人々が生まれてしまいました。それが「プアホワイト」、つまり「貧困にあえぐ白人労働者層」です。
彼らの多くは、近代化から取り残された工業地帯、いわゆる「ラストベルト」(錆びついた工業地帯)の工場労働者です。場所はアメリカ中西部の五大湖周辺。都市部から離れた地域が多いため、考え方が保守的です。しかも彼らは、グローバリズムと多文化主義によって増加した移民により、雇用が圧迫されています。
本来であれば、こういう人たちは、リベラルにより救われるべき人々です。しかし、彼らはオバマ政権が示した「“進歩的な”救済プログラム」から漏れてしまった。いくら救いを求めても、その声は遠く離れたワシントンにいる民主党のエリートたちには届きません。
そこに救いの手を差し伸べたのが、トランプだったのです。彼はオバマ政権下で「声なき声」にされてしまっていたプアホワイトを味方につけ、大方の予想に反し、2016年の大統領選に勝利しました。
今言っておきたいことは、アメリカには都市部とは全然違った「地方の声」があり、都市部を拠点とする政府や大手メディアは、ともすればその大きさとエネルギーを読み違えてしまうこともあるということです。
2016年のヒラリー・クリントンは、それに足元をすくわれたのです。勝利したトランプ大統領については、次回くわしくお話させていただきます。