※本稿は、ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
日本は増税しても借金は減らない
日本では、「債務が膨大になったからもっと増税すべき」との報道もあるようだ。とりあえず日本政府は自国の借金について足し算ができるようで安心したが、肝心な対処法が間違っている。
日本だけではなく、アメリカや他の国も対処を間違えていると思うが、増税は経済にいいことはあまりない。税収を増やすのは簡単なので政治家たちはいつもこのやり方を好む。借金を増やして、増税を繰り返していくことは、さらに簡単なのでもっと好まれる。
増税すれば国民の使える現金が減る。しかし、日本政府は「国民よりお金の使い方が上手だ」と考えているので、増税することになるだろう。私は国より自分自身の方がお金の使い方は上手だと思うし、私の妻だって政府よりはお金の使い方を知っている。多分本書の読者諸氏や、日本国民のほとんどがそう思っているはずだ。
どこにも行けない高速道路や新しい新幹線など作らない方がいいだろう。しかし、政府が使いもしない高速道路を作るために、新しい組織を作って人を採用すれば、採用された人やその関係者だけは政府に感謝するだろう。
しかしこれは国の未来にとってよくない。債務を減らすには歳出と税金を減らさなければいけない。私が国のトップであれば、国民が使えるお金を増やして、ポジティブに消費をしてもらいたい。でも私の案が採用されることは絶対にないだろう。
GoToキャンペーンは逆効果
コロナで移動を制限された後に、誰でも安く旅をしたいと思っているから、日本のGoToキャンペーンを使う人はたくさんいるはずだ。目先のことだけを考えれば、今年の消費にとってはいいかもしれない。しかし、将来返済すべき借金はまたこれで増える。歳出を減らして、税金を減らさないといけないときに、Go Toキャンペーンなどは逆効果で政治家たちの票集めにしか過ぎない。
コロナで瀕死になった観光業にチャンスはあるか
2020年はコロナのパンデミックで世界各国が入国を制限したことで、航空業界や観光業界は最大級の打撃を受け、大きく業績が落ち込むことは避けられなかった。
小さな航空会社の何社かはすでに倒産してしまったほどだ。しかし、私は中国をはじめとするアジアの観光業の未来について長期的にはポジティブに考えている。
21世紀はアジアの世紀だと何度も述べているが、それは数字にも表れている。2018年の世界全体の国際観光収入は対前年比約5%増だったが、アジア・太平洋は世界平均を上回る9%増と著しく伸びている。
コロナ禍の前までは日本を訪れる旅行者も増えていたが、その大半は中国人だ。そして38度線が開いたときの朝鮮半島の観光についても明るいと考える。
日本人はずいぶん昔から海外旅行をしてきたが、中国人は何十年も自由な海外渡航が許されなかった。しかし最近になってパスポートや観光ビザの取得が容易になった。何と言っても中国の人口は14億人もいて、彼らは世界を、そして自分の国の他の都市を見に行きたくてたまらないのだ。
人は海外旅行を一度でも経験すると、「もっと違う国を見てみたい」と思う欲求を抑えられなくなる。私は二度世界一周をして、その後も年間何十回も海外に行き続けてきたが、まったく飽きることはない。77歳になった今でも、シンガポールのチャンギ空港に向かうときはいつもワクワクする。
朝鮮半島は世界的に有名な観光地になる
韓国はこれまで「外国人が行ってみたい場所」として注目を集めたことはなかった。しかし近い将来38度線が開くと、「北朝鮮に自由旅行で最初に行った」と言い張りたい冒険心の強い観光客が集まるだろう。そして、韓国に着いてみると素晴らしい建造物や自然を目の当たりにすることになる。朝鮮半島の豊かな食文化に感動する人もたくさん出てくるだろう(私は個人的には朝鮮料理があまり好きな方ではないのだが、好きな人はたくさんいると思う)。そうなると、朝鮮半島は向こう20年間、世界的に有名な観光地となるはずだ。
この半島はあまり面積が大きくないので、観光客は一度の旅行で北朝鮮にも韓国にも両方行くだろう。そうなると朝鮮半島と周辺の航空会社、ホテル業などは大成功を収めると予想する。私は大韓航空株を多少持っている。実はいつも乗ると不愉快な思いをするから、個人的には大嫌いなのだが、未来を考えると投資先としては有望だと考えている。
ちなみに普段であれば年間何十回も飛行機を利用する私が今大好きな航空会社は、日本の全日空や、エミレーツ航空など中東系の航空会社だ。特に中東系の航空会社は昨今大量の資金を投じており、サービスが格段によくなった。機内スタッフたちも仕事を楽しんでいるのがうかがえるので有望だと感じている。いつも仕事をしていて惨めそうなアメリカの航空会社のスタッフたちとも大違いだ。
最近は航空会社が人ではなく貨物を運んでいると聞く。しかし少しずつ人を乗せた飛行機は飛ぶようになっているし、コロナの治療薬やワクチンができて世界に安心感が広がれば、観光業はこれまで続いてきた長期成長トレンドに戻るはずだ。2018年から2038年で世界の航空旅客需要は2.3倍になると予測されていた。世界全体の人口が増える中で旅行者が減ることはなく、観光業界の成長が続くことを確信している。
日本の観光業は復活するのか
私は日本政府のGo Toキャンペーンなどにはまったく賛成しないが、日本の観光業そのものについては朝鮮半島と同じくとてもポジティブに見ている。経済成長が著しい中国やベトナムなどの東南アジアに地理的に近いというアドバンテージもあって、日本は訪日外国人(インバウンド)を年間3000万人超まで急増させてきた。
コロナの影響で2020年の日本のインバウンドの伸び率は大きく落ち込むことは免れない。しかし、これは世界中の問題であり、日本だけの問題ではないので仕方がないと思うしかない。
各国政府の今後の対応を見守る必要があるが、いずれ問題は沈静化するだろう。そのときに、治安がよく魅力的な観光資源を持っている日本は勝ち組の一つとなるだろう。
私も私の家族も日本が大好きで、個人的には世界一とも思える食文化を持つ日本を訪れたいと考える外国人は今後も増えるだろう。私は日本食が全般的に好きなのだが、中でも特に鰻が大好物だ。韓国産の鰻に中国産の米を使った鰻重ではだめで、日本産の鰻に日本の米を使ったものは格別である。一度食べたら虜になる外国人は多いはずだ。
コロナショックで買った銘柄
加えて、歴史ある神社仏閣や町並み、豊かな自然などの観光資源があるから、21年にオリンピックが開催されたとして、その後も日本への世界の関心は続くだろう。観光産業は日本にとって長期トレンドで成長が見込める数少ない分野だと言える。
私は日銀に便乗して購入している日本株のETFのほかに、個別銘柄として20年3月に日本の船舶関連銘柄を少し買っている。ホテルなどの観光関連株を買い戻すことも検討しており、古民家再生事業に投資をすることにも興味を持っている。日本の伝統的な古民家を宿泊できるように再生すれば、外国人観光客にとっては東京の高級ホテルよりもずっと魅力的な場所に映るだろう。これらをうまくチェーン事業にできた企業は、莫大な利益を上げられることが予想される。
農業の未来はさらに明るくなる
コロナによって、私は元々有望視していた農業についてさらにポジティブになった。多くの先進国ですでにそうなのだが、たとえばアメリカではアメリカ人の農業従事者の後継者が少ないため移民たちが畑を耕している。そして、ヨーロッパの多くの国も同じような状況である。しかしコロナの影響で国が閉ざされていき、移民の出入りが限られる中、農業の規模はさらに限定されてしまい、今後、農作物価格は上がると予想する。
現在、砂糖の価格は最高値から80%も下がっている。高値からここまで下がっている資産は他にあるだろうか。
そして金融市場を見る限り、大半の資産は一度下がっても高値に戻る傾向がある。それが100年後になるかもしれないが、いずれ上がるだろう。たとえば綿の価格は一度、0.5セントから1ドル20セントまで高騰した。その100年後には綿は再び高値を更新したが、相当な時間がかかった。
農業で大儲けしたければまずは自分が農家になるべきだ。特に日本では地方にたくさんの土地があると聞いている。人口は大都市に一極集中しており、地方の土地価格は下落している。コロナで少しは地方に移動する人が増えるかもしれないが、とにかく田舎で畑を耕す人が必要なのだ。思い切って農場を買えばいい。そして、そこで働いてくれる人材は外国人労働者がいいのだが、コロナで外国人の出入りはしばらく制限されるだろうから、まずは元気な壮年期の日本人に来てもらうのもいいかもしれない。最近の60代以上は、昔に比べると若く、元気も気力も有り余っているのだから、定年後に第二の人生を農業で見出してもらえばいいと思う。
農家は世界的に不足状態
私の本の読者で農家になった日本人がいるようだが、彼は私の著書を読んで、将来インフレがやってくると考え、脱サラをして農家になることを決心したようだ。日本の農業従事者の平均年齢は67歳(2019年時点)と非常に高い。日本だけでなく、欧米でも同じような状況が見られる。
世界的に見ても農業に関心を持つ人は少ない。アメリカでは農業より広報やPRの勉強をする人たちの方がはるかに多く、誰も農家にはなりたがらない。問題は、世界の人口ピラミッドが高齢化しているために、将来的にもっと農業従事者が足りなくなることだ。
日本は農業分野で技能実習生の外国人を受け入れるようになっているが、その数はまだ限定的だ。人手不足を解消するような量とは言えない。日本が得意なロボット技術をもっと活用すればよいだろう。
ロボット、ドローン、AIなどの最新テクノロジーを活用して、農業にイノベーションを起こせば、日本にとってのビジネスチャンスは大きくなる。将来、農家で働く者がランボルギーニに乗り始めたら、若者も農業に関心を持つようになるだろう。
それでも農家になりたくなければ、前述の砂糖など農業銘柄の先物やトラクター会社、肥料会社の株を買えばいいだろう。あるいは農産物関連の商品ETFも購入可能だ。
ニュージーランドなどは、農業が盛んなので長期的には投資対象として魅力的だと思っている。