世界的投資家として知られるジム・ロジャーズ氏は、今の市場は過熱しすぎていると指摘。多くの個人投資家が注目するオンランツール関連銘柄には手を出さなかったと言う。いつの時代も変わることのないバブル破裂の“ある兆し”とは――。

※本稿は、ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

Zoom株は買わなかった

常に海外を飛び回っていた私にとって、コロナ禍で移動制限されたことは本当に不愉快だ。家族との時間が増えて体重が減ったのはよかったけれど、実際、世界中の人が自粛疲れをしているし、私も早く自由に海外に行きたくてたまらない。

Zoomなど、オンラインツール関連銘柄は買わなかったと話すジム・ロジャーズ氏。
撮影=原隆夫
Zoomなど、オンラインツール関連銘柄は買わなかったと話すジム・ロジャーズ氏。

日本語と中国語には「危機」という言葉があることを知っているが、これは「危険な状態の中に素晴らしい機会」が生まれるという意味だと私は理解している。だからコロナ危機であっても、私たちはさまざまな機会を積極的に探さなければならない。

運輸や航空セクターなどコロナショックの直撃で、一気に割安になった銘柄がある一方、一気に需要が伸びたビジネスもある。私は大打撃を受けたセクターとしてロシアの運送会社の株やシンガポール航空の株を買ったが、Zoomなどのオンラインツール関連銘柄はあまりに短期間に急騰したので手を出さなかった。

GAFAに手を出さない理由

コロナでも注目されている新しいテクノロジー分野であるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に投資すべきか、といった質問を以前からよく受けていた。私はGAFAなどには、どれだけもてはやされていても一切手を出さない。世界にはモメンタム株を短期的に売買できる投資家は多数いるが、私は長期投資が得意でモメンタム株では儲けることができないタイプなので、トライしたいとも思わない。

とはいえ、こうした株は明らかに誰かがたくさん買っているから上昇しているわけだ。

スイスの中央銀行ですら、グーグル、アマゾン、そしてマイクロソフトなど大量のハイテク系のアメリカ株を購入している。アマゾンはよい企業だし、私もそのサービスを使っているが、株を保有するリスクはきわめて高いと考える。

誰もが買っているのだから、株式市場に大きな危機が訪れたときには誰もが売って、大暴落を起こすだろう。もしあなたがバブル株の売買に自信があるなら、ぜひとも勧めたいが、私にはどうも向いていないようだ。

ユニコーンたちが市場に現れるとき起こること

注目されているユニコーン企業こそはまさにバブルの象徴でもある。本来、利益を生まない会社には誰も興味を示さない。しかし、バブルになった瞬間、皆が「その会社は希少で唯一無二」と思いこみ、こぞって投資をし始める。

金融危機
写真=iStock.com/juliannafunk
※写真はイメージです

だからといって、その会社に本当の価値が生まれる訳ではない。しかし、魔法がかかったかのようにお金だけが集まってユニコーンたちの株価は非常に高い評価額になる。それこそが悪夢の始まりなのだ。ユニコーンなど存在しない状況こそ、バブルではないときで冷静に投資ができる。

今のようにあちらこちらに魅力的に見えるユニコーンが存在する時代は、相場が過剰になり過ぎる。5年前には、ユニコーンという言葉すらあまり聞くことはなかったが、今はありとあらゆるタイプのユニコーンがたくさん存在する。これはまさに文字通り現実とかけはなれたファンタジーの世界である。しかし現実はいつかしっぺ返しをしてくる。本当のおとぎ話と違って、最後にハッピーエンドが待っているはずがないのだ。

いつの時代も変わらないバブル破裂の兆し

過去の過熱相場を振り返ると、1960年代には会社の名前に「Computing」が入っていれば、毎日のように株価が上昇した。89~90年には日本と何らかの関係を持っている会社の株価は絶好調だった。さらに90年代には「Internet」に少しでも関係している会社の株価は急騰していた。

そしてこんなときこそ皆がおかしなことを信じる。89~90年には、アメリカでも「日本人は普通の人ではない」と言われていた。

私は「日本人はパンツを片足ずつ履くのか? そうであれば彼らは普通の人たちだ」と言ったが、誰も信じてくれなかった。バブル時には、毎回「今回は違う、今回こそ本物だ、君はわかっていない」と皆が口を揃えて言う。現実世界では何も新しいことなど起こっていないのに、だ。

バブルの時はいつも同じなのだ。それまで投資などほとんどしたことがなかったような人たちがいきなり今の仕事を辞めて株のブローカーになりたがったり、歯医者の受付の人が株投資について話したがる。それがバブル破裂の兆しなのだ。

そして、そんなときにこそ、ユニコーンは危機のサインとしておとぎの国から現実の世界にふらりと姿を現す。

ブロックチェーンについてしっかり勉強すべし

すでにバブルになっているハイテク企業に投資する気はしないけれど、新しいテクノロジーはいつだって世界を変化させる可能性に満ちている。例えば固定電話。今でこそ誰も見向きもしないが、100年ほど前は、最先端の技術だと思われており、人々のあこがれの的だった。

そんな意味で、最近新しく生まれた技術の中で、私は「ブロックチェーン」について、非常にポジティブに考えている。ビットコインの根幹の技術には素晴らしい未来があり、今後、最も面白い分野だと思っている。

ブロックチェーンは参加者全員がすべての取引記録を共有し、改ざんなどができないようにする「分散型の取引台帳技術」だ。金融はいうまでもないが、不動産や医療などあらゆる業界で既存システムがブロックチェーンに置き換わる時代が来るかもしれない。

多くの人を熱狂させているブロックチェーンの技術は、私たちの常識を覆し、いま存在するさまざまな仕事を破壊するだろう。電気が発明されたときもさまざまな仕事がなくなったが、その後は違う職種も出てきた。今後また同じことが起こるだろう。

各国政府はブロックチェーンに対して、すでに積極的な姿勢を示している。たとえば、デジタル人民元の発行が近いと言われている中国では、国を挙げて産業育成に舵を切り始めている。

まだ模索している段階ではあるが、日本をはじめとする6カ国の中央銀行と国際決済銀行(BIS)も中央銀行デジタル通貨(CBDC)の議論を進めている。今後は金融業界だけではなく、非金融業界にも応用が進んでいくだろう。

ブロックチェーンの本質は、情報の不正や改ざんができない信頼性にある。戸籍などもブロックチェーンを使ってオンライン・システム上で管理することによって、さまざまな認証ができるようになる。今後はブロックチェーンや人工知能(AI)の知識を持つ人が成功することになるだろう。この分野については興味があればしっかり勉強することをお勧めしたい。

誰も銀行に行かなくなる

これから紙はどんどん消えていく。昔は株式を売買するときは、紙にオーダーを書いて、ベルトコンベアーに乗せて誰かに渡されてから証券取引所に届けられていた。株だけではなくほとんどの取引や仕事に紙が必要だった。

しかし今はパソコンやスマートフォンを操作すれば、すべてのことができるようになった。一件のオーダー執行に必要な人数は、当時の何十人からすでに数名程度に減った。今後一人もいらなくなるかもしれないし、AIやブロックチェーンは紙幣や紙絡みの職業をどんどん破壊する。

今後、何百万人もの銀行員たちが仕事を失うことになるだろう。多くの銀行は、統廃合をされる可能性があり、今後はどうなるのかわからない。私たちの子どもは、大人になったときに銀行に行くことはないだろう。ブロックチェーン等の技術革新は、多くの人を豊かにすると同時に多くの人から仕事を奪うことになるだろう。

でも、過度に悲観することはない。電気やコンピューターの発明も同じようにさまざまな職種をこの世からなくした。しかし、同時に新しい機会と新しい仕事を生み出した。プログラマーという職業やソフトウェアという巨大な産業が過去の仕事に取って代わったのだから。

仮想通貨は政府がコントロールする

ビットコインをはじめとする仮想通貨の未来については、ブロックチェーンとはまったく別物だ。将来的にすべての通貨はデジタル化され、コンピューター上で取引されるだろう。そうなると今取引されている仮想通貨はどうなるだろうか?

ここ数年、中国に行くと、もはや現金でタクシーの支払いはできない。少し前に北京でアイスクリームを買ったときも現金は受け取ってもらえず、中国の電子マネーであるWeChat Payは、まさに生活に必須となっている。これによって国民の消費動向を細かくモニターできるため、中国政府はキャッシュレス化に大賛成なのだ。

そもそも、国が紙幣を印刷し、流通させるだけでも膨大なコストがかかる。紙幣の管理には非常に手間がかかり、政府はそれが何に使われるのか監視をすることができない。しかし、デジタル通貨はコストを削減できる上、監視できるので政府としては非常に便利なのだ。

私は監視されることは個人的に嫌いだが、すでにいくつかの国では起きていることで仕方ないことだ。

デジタル通貨は、政府がコントロールすることになる。歴史を見ても大半の場合は、政府が通貨を独占しており、政府は通貨を制御できないことを嫌うものだ。

仮想通貨の参加者は「私たちは政府より頭がいい」と言い張る。私はそれを疑わないが、政府は銃と法律を持っているので彼らは逆らえない。

ビットコインの価値はいつかゼロになる

100年前には、誰もが好きな物を通貨代わりに使えた。しかし80年前にイギリスの中央銀行が「私たちが発行する紙幣以外のものを使えば反逆罪で処刑する」と宣言した。誰も処刑されたくないから、皆が他の通貨を使うのをやめた。

仮想通貨も同じだ。通貨として価値が認識され、成功し始めたら、各国の政府がすべての仮想通貨を独占するだろう。現在はさまざまな人が仮想通貨を売買しており、価格が急騰している。彼らから見れば投資かもしれないが、私にとってはバブルの予兆であり、ただの投機のように感じる。

今はただバブルの時期である。誰かに「ビットコインの価値は?」と聞いても、大半は具体的に答えられないだろう。しかしながら彼らはビットコインを持っている。私自身、今家にある銀の盃がいくらするかははっきりとはわからないが、ビットコインよりは材料の価値がわかっているつもりだ。

今、ビットコインに投資したい人へのアドバイスとしては前述のGAFAと同じだ。自分がすごい短期トレーダーであると思うなら、売買してみればいいだろう。

私がウォール街で働いていた頃の元同僚にも素晴らしいモメンタム・トレーダーがいた。彼はしょっちゅう何を取引していたかもわからずに売買を行っていた。それできちんと成功していたのだ。彼は何十年も取引をしているうちに、詳しいことを調べなくても株がいくら出回っているのかなどの具体的な情報を感じ取ることができるようになったのだろう。

ビットコインをまともに取引するにはこれくらいのトレーディングができる人でないといけないだろうと思う。実際は、普通の個人投資家が売買しているようだが、私はそういう人にはビットコインの取引は勧めない。いつか上がるだろうと持ち続けていても、やがて仮想通貨は政府に独占されてしまうからだ。

その結果、価値はいつかはゼロになると私は見ている。反逆者たちは結局、政府には勝てないのが世の常なのだから。

国の給付金やベーシックインカムは負の記録

コロナショックで世界中の経済が打撃を受け、それにより国が国民に給付金を支給する動きが加速している。日本でも全国民に一律10万円が支給されたと聞いている。しかし、ただで支給する給付金やこれまでも議論されてきたベーシックインカムなどは、世界の未来に甚大な問題を与えるだろう。私たちのかわいそうな子どもたちがこのツケを払わされるのは間違いない。

ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)
ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)

時間が経てば「2020年に給付金をもらった」ことなど誰も覚えていないが、膨大な負債だけは記録に残るだろう。負債は私たちの記憶のようには簡単には消えず、国に大きな負の痕跡を残す。

すでに一部の国で導入が始まっているベーシックインカムなども人間の本性を変えようとするような発想であり、馬鹿げていると思う。何千年もの歴史で、人類は互いに競争をするためのゲームを考え出し、一方が他方に勝つようにすることでどんどん進歩し、豊かになり生きながらえてきたのだから。

人々が競争して働くインセンティブを持たないなら、私たちはもはや進歩しないだろう。何百年もの間、政治家、哲学者、神学者などさまざまな人が貧困問題を解決する方法を議論してきた。

しかし、これまでのところ、資本主義だけが人々が頑張って働こうとするインセンティブを与えられるシステムだ。

誰もが勝てないゲームは存在しないし、ゲームに参加した全員が同じ結果になるなら、そもそもゲーム自体が成立しない。勝ち負けをつけずにサッカーなどの試合をした場合、非常に退屈だろう。競争はなくなり、ゲーム参加者もなくなってしまう。よって、ベーシックインカムという発想は愚策だと考える。

子どもがどうしても自分の車がほしくて、お金があれば所有できることがわかれば、将来大人になったら一生懸命働いて車を得ようと頑張るだろう。

しかしどんなに頑張っても車を所有できないことがわかっているなら、必死になって働くだろうか。いくら頑張っても努力が報われないようなら、人間は働く喜びなど誰もわからないまま皆寝そべって怠けるようになるだろう。かつての社会主義の世界では例外なくそのような問題が起きた。

5歳の時、働く喜びを知った

私自身が働いて報酬を得る喜びを知ったのは5歳のときだった。子どもが働いてお金を得るということは、私が育ったアラバマ州の小さな町では当時ごくごく当たり前のことだった。野球場でコカコーラを売っている女性がいたが、観客が飲んだあとの空き瓶を集める仕事を手伝うことになったのだ。彼女はきちんと給料を払ってくれた。

そして、翌年から私は弟と一緒に野球場でピーナッツとコカコーラを売ることになった。これが資本家として商売の基礎を学ぶのによい機会になったのだ。その後、私は父親からお金を借りてピーナッツを炒る機械を買うことにした。炒ったピーナッツの方がよく売れることがわかったから自分で決めたのだ。そして5年間売り続けて、父に借りた100ドルを完済した。

その時点で100ドルの利益も出ていた。友達と遊ぶより商売をする方が楽しかったが、それは頑張れば頑張るほど利益を得られるというインセンティブがあったからだ。私は子どものときにそれを肌で感じ、学ぶことができた。今でも私は投資対象の企業を見るとき、最初に競争状況をチェックする。競争がなければ、そのビジネスや業界自体が長期的に成功する確率は低いのだ。