ロックダウンどころかイケイケ“GoTo”の日本
新型コロナの感染者数が急増し、「ついに第3波襲来」と人々が恐れおののく2020年冬、なぜか株価は上昇し続け、12月15日時点で日経平均株価は2万6687円84銭と、順調に上昇し続けています。
これはいったいどういうことでしょう。「株価は景気の良しあしを測るバロメーターである」、私はそう思っていたのですが、違うのでしょうか。それとも医療崩壊の危機が迫ったり、GoToトラベルキャンペーンが徐々に停止されたりする中に、何か私の気づかない好材料があるのでしょうか……。
私の仲間の予備校講師に、かつて外資系の証券会社に勤めていた男がいるので、彼に話を聞いてみると、考えもしなかった答えが返ってきました。「そりゃ菅さんが経済止めないからだよ」。
なるほど! 確かに欧米諸国の多くは、この冬の感染者数激増を受けて再びロックダウンを始めましたが、日本はロックダウンどころかGoTo推し。年末年始の12月28日~1月11日はGoToトラベルの全国一斉停止が決定しましたが、つい最近まで知事たちには「不要不急の外出は控えて!」と言わせながら、政府は旅行を推奨していました。
感染症流行時に、いちばんいけないことの一つが「人の移動」ですが、それを政府が後押しすることで“経済を回し続けている”点を、投資家たちは評価したというわけですね。
「平均」はボリュームゾーンじゃない
しかし、こうして見ると実体経済と株価は、思った以上に連動していないことがわかります。
よく考えたら、株価は「“個々の企業”の事業内容」への期待や評価で上下するものであり、GDPや経済成長率みたいな「“日本全体”を見通す指標」の良しあしと、必ずしもリンクするものではありません。だって物流やオンライン系など、コロナ不況下だからこそ輝いた業種もあるわけですから。
「いやいや、株価から日本全体の景気動向を見る手段もあるじゃないか。日経平均株価を見ればいい」――こう考える人もいるでしょう。しかし実は、その日経平均株価こそが、実体経済をきちんと反映していない可能性のある指標なのです。
そう、確かに私たちは、実体経済と株価の乖離を語る際、しばしば「日経平均株価」を引き合いに出します。しかしこの「平均」というやつが相当な食わせ物であることに、みんなあまり気づいていません。
私たちは平均と聞くと、「世の人々は、みんな大体これくらい」というボリュームゾーンをイメージしがちですが、実はそうではないことが、かなり多いのです。
たとえば「平均年収400万円」という数字があるとすると、その数字は、ひょっとすると年収200万円のグループと600万円のグループを足して2で割っているだけかもしれません。この場合の平均値は、ボリュームゾーンではない。単なる「格差の隠れみの」です。そして日経平均株価とは、まさにその格差の温床なのです。
日経平均はスーパー企業の成績表!?
日経平均株価は、日本の優良企業225社の株価から形成されます。しかしその実態は、ユニクロやソフトバンクなど上位10社の株価だけで、構成寄与度が36%にも達しています。これは言い換えると、「日本の景気がどうであれ、ユニクロとソフトバンクさえもうかっていれば、日経平均株価は上がっていきやすい」ということです。
つまり今の株高を牽引しているのは、日本全体の底力などではなく、ごくひと握りのスーパー企業にすぎないのです。日本の企業総数は360万社以上あり、その36%といえば約129万社ですが、たとえ日経平均の36%が堅調でも、それは決して129万社がめちゃくちゃもうかっているという意味ではないのです。
さらに株価は、政策的な理由から、皮肉にも「不況時に上がりやすい」という側面まで持ち合わせています。金融・財政緩和が行われるからです。
日本銀行などの金融当局は、不況時、特に今回の新型コロナウイルス禍のような先の読めない不況時には、大胆な金融緩和を実行して市場の資金量を増やし、不測の事態に備えます。また政府は政府で、国民には特別定額給付金、企業には持続化給付金を支給するなど、財政緩和を実行します。その結果、市中に資金があふれ返り、余剰資金が株式市場に流入し、株高が発生するという仕組みです。
どうやら私たちも、そろそろ「日経平均株価は、実体経済を表す指標」という幻想は捨てるべきかもしれませんね。元々そういうものではないのです。平均値のあり方次第で、日本全体の底力を表すこともあれば、単なるスーパー企業の成績表にすぎないこともあるのです。