世界的投資家として知られるジム・ロジャーズ氏が、コロナ相場でどのように投資ポートフォリオを変えたのか、そしてしばらく続くだろう過熱相場で、私たちがとるべき一手とは――。

※本稿は、ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

アフターコロナに大都市は衰退するのか

コロナでリモートワークが増えて、都市部から郊外へ移住する人が多くなると言われている。歴史的に見ても、都市から郊外への移住が増えることはあった。たとえば、戦争などが起きると、大打撃を受けた都市を脱出する人々が多かった。

コロナ相場で変えた自身のポートフォリオについて語ってくれたジム・ロジャーズ氏。(撮影=原 隆夫)
コロナ相場で変えた自身のポートフォリオについて語ってくれたジム・ロジャーズ氏。(撮影=原 隆夫)

第二次世界大戦中には日本でも都市から地方へのいわゆる「疎開」があった。戦争で負けた国では、食べ物を探しに郊外へ移住する動きが出てくる。あるいは、ゴールド・ラッシュなどで多くの人が都市を離れる動きもあった。

過去、これらはいずれも短期的な動きだった。永久的な移住は過去には見られない。コロナでその動きがみられるのは、前述のように遠隔のコミュニケーション手段が発達したからだ。100年前は、郊外に移住したら誰にも連絡がとれず不都合だった。しかし、今は遠方からでも十分連絡が取れる時代になったため、距離によるデメリットはなくなりつつあるといえる。

今回の移住傾向が長期的なものになるかどうかは、私にも予想できない。しかし、私がシンガポールにいながら、世界中の誰とでも連絡を取り合えるのだから、都市部に住む理由は減ってきているかもしれない。

人間は、協力し合うことで素晴らしいことを成し遂げられるが、Zoomを通してそれができない理由はない。しかし都市から郊外に人が移ったからといって、東京やロンドンなどの大都市が消えるかといえば、それはないだろう。

ただ、ニューヨークなどは税金が高く、都市の運営状況がひどいため、衰退するかもしれない。同様に運営がひどい大都市は低迷するだろう。どうしてもニューヨークに住む必要がなくなった今、マイアミやヒューストンなどに移住する人が増える可能性がある。

「都市から郊外への移住」にまつわる投資では、Zoom株はすでに高値を更新している。今後は学校の教育や医療もオンラインでできるようになるが、オンライン関連の銘柄の多くは、コロナ禍の中であっという間に急騰し、すでにバブルになっている可能性があるので、私は投資を見合わせている。

コロナショックで変わった私のポートフォリオ

移動が制限されてずっと在宅になっても、私の投資に対する考え方は一切変わっていない。実際に投資するときは、「自分が知っている分野を対象にすべき」と私はいつも言っているが、在宅中によく運動をしているからオンライン・エクササイズの株を買うという訳ではない。もっとしっかり調べる必要がある。

機会は危機の中でこそ訪れる。こういった状況下における投資のポイントは、どのセクターや会社が回復して、大きく上昇するかを見極めることだ。私の投資手法は「割安なこと」と「変化」に尽きる。安くてプラスの変化が起こっているものを見つけ出して買うことだ。

たとえば、移動制限で観光、航空セクターは大打撃を受けているから、投資機会が生まれるかもしれない。コロナによってシンガポールの空港が閉鎖されていたことは知っている。そして、そこに投資機会があるということもわかっている。だからシンガポール航空の株を買った。空港のサービス会社の株も買ってもいいだろう。十分に調査をして、確信が持てたら買う。これが正解かどうかは数年後にわかるだろう。

シンガポール航空のエアバスA380(スイス・チューリッヒにて)
写真=iStock.com/Jetlinerimages
※写真はイメージです

空港と同じく、レストランやホテルに誰も行けなくなったので、酒類や運送会社の株式は暴落していた。そこで、中国のワイン会社(香港市場で上場)の株も買った。長い間買っているロシアの海運会社の株も買い増しておいた。

日本、ロシア、中国に注目する理由

国として、私は今現在、日本、ロシア、中国に着目している。アメリカはすでに株価が過去最高値近辺なので、手を出していない。中国株は高値から50%、日本は前述した通り40%以上も下がっているので魅力的だ。日本株のETFを買ったが、理由は日銀の黒田総裁は私よりはるかにお金を持っており、日本株のETFをたくさん買っているからだ。ここは彼と争わずに素直に同じことをすればいいだろうと考えてついて行っている。

ロシアは今のところ世界中から嫌われているようだが、私はどちらかと言えばそういった国の株式を買いたい。多くの人から嫌われているということは、割安である可能性が高いからだ。だから、ロシアの短期債券も持っている。アメリカが制裁を加えたことで、ロシアの農業は実は開花している。そして、成長している農業が原油価格の下落を相殺してくれている。

少し前に買っていたポッドキャスト専門のアメリカ株については上昇したので、最近になって利益確定売りをしておいた。

日本を除くアジア諸国の不動産はすでにバブルである

不動産は買おうと思わない。近いうちに金利が上昇すれば、不動産にとってはネガティブだ。元々売りたいときにすぐに売れない流動性の低い資産は私好みではないし、基本は、今現在、自分と家族が住む家一軒だけ買って所有できれば十分だと思っている。もちろん抵抗できないほど魅力的な不動産があれば買うかもしれないが、日本を除くアジア諸国の不動産価格はおおむねバブルであり、特に香港などについては非常に高値圏にあるので投資したいとはまったく思わない。

ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)
ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)

ちなみにREIT(不動産投資信託)についても同じ考えだ。REITの魅力は分配金の高い利回りだが、金利が上がれば不動産価格とともに下がると考えるので、あまり手は出したくない。

ただし、まったく新しいテーマのREITが出たならば買ってもいいと思う。たとえば、ロシアや北朝鮮関連、または農地関連のREITなどが存在すれば投資してもいい。しかし現状で売買されているREITは流行りの香港やシンガポールのREITばかりで、すでに高値なのでそこには手を付けたくない。

日本のREIT(J-REIT)なども面白いが、しかし、金利上昇局面ではREITの配当が高くなければ、競争力を失ってしまう。そして住宅価格そのものも競争力が高くなければいけないため、やはり買う気が起きない。

ただ、日本の農業REITなどがあったとしたら非常に興味を持つ。ちなみに私よりリッチな日銀の黒田総裁はJ-REITも買っているらしいが、私はそこには乗らずに彼のETF買いだけに乗っかっている状況だ。

債券投資をしている人が注意すべきリスク

今、債券に投資している人は注意した方がいい。債券投資で最も気をつけなくてはいけないのは、予定通り「利子」が支払われ、「元本」が償還されるかだ。つまり、発行体の信頼性を見極める必要がある。

そして、二番目に大事なのは金利が上昇するかどうか。金利が上昇すれば、新たに発行される債券の利率は高くなるので、過去に低い利率で発行された債券の人気は下がる。そして、時価が急落するおそれもある。

債券投資では、このように発行体の信頼性と金利の二つが非常に重要といえる。現時点ではさまざまな発行体が債券を発行しているが、将来的に景気が減速する中で金利が上昇すれば、多くの債券の評価額が下がるだろう。

コロナショックの中で、債券は明らかにバブルになっているので、まったく割安ではない。もし債券バブルが弾けたら、これまでで最もひどいバブル崩壊になり、多くの人々が膨大な損失を被るだろう。前述したロシアの短期債券など特別なケースでない限り、20〜21年は債券より株に投資をしたいと思っている。

今後、もっとも割安な資産になるのは…

最後に残るのが商品(コモディティ)だ。これが今後、相対的に最も割安な資産クラスである。砂糖は最高値より約80%も下落している。貴金属については金、銀を2019年の夏から買っているが、どちらかと言えば銀を多く買っており、コロナショックでさらに買い増した。金、銀の価格の比率を見れば、徐々にギャップは縮まりつつあるものの、銀の方がまだ割安だからだ。

銀も今は上昇しているものの、最高値よりはるかに低い。MMT理論が導入されれば、資産価格の回復でこれらの商品が最も上昇するだろう。ワインは個人的にたくさん持っているが、投資目的ではなく、単に飲んで楽しむためだ。絵画やワイン、アンティーク・カーなどについては、しっかり調査できて自分が詳しければ買えばいいと思う。

ただ、私個人としては価値がよくわからない絵画よりは、きちんと市場と相場がある綿のような商品に投資したい。

過熱相場時にはどんな行動を取るべきか

現在、バブルが弾ける前の過熱相場の症状は見事に揃っている。2020年8月の相場などはまさに典型的なものだった。しかし、過熱相場はまだ序の口でこれから続くと思っている。

今のような過熱相場時に一つよい投資があるとしたら、コール・オプションの「売り」がいいだろう。なぜならソフトバンクの孫正義氏のような人たちが価格に関係なくコール・オプションを大量に買っているため、価格が上昇し過ぎるからだ。

割高なコール・オプションを売れば、大方は儲かるだろう。ある調査で「オプションを買う人の多くは損を被る」との結果が出た。オプションを買うには、プレミアムを支払う必要があるし、オプションが行使されるまでの時間が限られていることが原因だ。

ソフトバンクがアメリカ株のコール・オプションを買ったことについては、スキャンダルというより「ただ無能」と言った方がいい。報道されているトレードを実際に行っているのであれば、非常に馬鹿げた投資で、バブル時によく見られることだ。

バブルで価格が上昇する中で焦って買うと、大抵のケースで大損を被ることになり、孫氏も例外ではない。ソフトバンクは未上場・上場企業にかかわらず、至るところで無能な投資をしているように見える。

1999〜2000年には私もこのコール・オプションの売りで相当儲かった。いつも成功するという訳ではないことは考慮に入れてほしいが、ブル(強気)相場でコールを売れば、儲かる可能性があることは知ってほしい。何にせよ、私たちは、コロナによって加速した世界の過熱相場にもう少しつきあう必要がありそうだ。