2度目の文春砲
11月28日、土曜日の早朝。スマホでネットニュースを見ていた私は、文字通り苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「4年ぶり不倫報道……宮崎謙介氏『一線越え』に無言」。
またか……! いったい何をしてくれるんだ!!
だがその怒りは、宮崎謙介氏の方角になど一切向いていないのだった。謙介(以下、親愛の情を込めて敬称略)が2度目の不倫スキャンダルとかどうにも性欲が強いらしいとか脇が甘いとか、そんなん(もはや)どうでもいい。
私が怒っていたのは、1度目に続き2度目のケンスケ不倫をスッパ抜いた文春である。くっそう、文春オンラインめ(アタシも時々原稿書いてるけども)。「あの」金子恵美氏をこれ以上に面白くするなんて、何をしてくれるんだホントに、やめてよお願いだから……。
つまんない政治家カポーだったのに
そして、番組終了後には、同局前で待ち構える取材陣に「お騒がせしました」と何度も頭を下げてタクシーに乗り込んだ。取材陣の「一線を越えたのですか」との質問には答えなかった。
宮崎氏は16年、妻で元衆院議員の金子恵美氏(42)の第1子妊娠中に、女性タレントと不倫をしたと報じられて議員を辞職。“ゲス不倫”として大きな話題を呼び、19年には金子氏も議員を引退した。その後、宮崎氏と金子氏は、不倫を乗り越えた夫婦として、夫婦問題などについてメディアで語っていた。
金子氏は、10月に宮崎氏の最初の不倫と、そこからの出直しについてつづった著書『許すチカラ』(集英社)を出版したばかり。再度の不倫報道を受け、所属事務所を通じて「お騒がせしまして、申し訳ありません」とコメントした。
(2020年11月28日/日刊スポーツ)
この夫婦は、文春砲で人生を変えられた。いや、キャリアを根本から壊されたとか思い描いていた人生が瓦解したとか、ネガティブな意味ばかりじゃない。結果として、夫婦でその天災レベルの難局を乗り越え、めちゃくちゃ面白くなったのだ。それまではただのイケメンと美人の、仕事柄そういうものだから仕方ないにせよ、有権者に向けていい子ぶりっこした、つまんない政治家カポー(カップル)だった。
文春砲で面白くなった人たち
15年、当時衆議院議員だった金子恵美氏が妊娠中、同じく衆議院議員だった謙介は「国会議員初の男性育休を取る」とぶち上げ、一躍、当時ワークライフバランスや男性育休取得を熱心に推進していたリベラル系マスコミのスターとなった。記事にインタビューにトークショーやらシンポジウムやら、「これが新しい世代の国会議員の姿だ!」とリベラル系論客からも引っ張りだこ。イケメンだわ政治家だわ活力に満ち溢れているわ、しかも元ミス日本関東代表の超絶才女(金子恵美氏)との間に生まれる子どものために育休取るとかイカすこと言い出すわ、あの頃の謙介は「時代の正義」だった。
ところが、そんな絶好の機会を見計って笑顔で高々とぶっ放されるのが文春砲である。金子恵美氏の出産をブログで発表し「これから2人で大切に育てていきたいと思います」と殊勝に宣言した直後、その出産数日前に謙介がグラドルと不倫していたとのスクープがドッカーンと上がった。
「はぁあああ? 何してんの?」。世間みんな、お口あんぐり。誰も謙介を助けることなどできず(というか、ありていに言ってあの時リベラル界はいっせーのせで冷徹に謙介を見放したと思う)、謙介は議員を辞職した。
そしてここがポイントだ。妻の金子恵美氏は、出産直後の非常に心身がつらい時期であるにもかかわらず、謙介を許したのである。いやぁ、さすが政界でいろいろな舞台も修羅場も踏んできた女は違う、凄い胆だと思った。
その時の経緯は、当時の私の連載コラムにまとめてあるので、ご覧いただきたい。「男性育休議論に幕引き? “ゲス不倫”宮崎謙介議員の罪」
政治も子育ても語れる鉄板コメンテーター
もちろんそこで始まるのは、家庭内外の調整に、対外的なお詫び行脚にと、全方位の針のムシロ人生である。ところが、そこからがこの夫婦の凄いところだった。彼らは夫婦関係と家庭を維持構築し、謙介はイクメン業と並行して会社経営しつつ、ちゃっかりワイドショーのMCポストを手にする(!)。金子恵美氏は17年の総選挙で議席を失ったが19年に引退、タレントへ転向し、画面映えする絶対の美人でありながら元衆院議員として政治も子育ても語れるという、ワイドショーの鉄板コメンテーターとして引っ張りだこである。
彼らは、「誰もが知るゲス不倫で人生根本からポッキリ折れた、超絶イケてるルックスを備えた元衆院議員」という、他に類を見ない人材(他にいてたまるか)として、めちゃめちゃ面白くなったのだ。
金子恵美、強さの秘密
そして10月には、金子恵美氏が禊感たっぷりの白く清純な装束で著書『許すチカラ』(集英社)を出版、「ああ、この人は腹が決まっている。ここからやるな」と、私は文化人タレントとしての金子恵美氏の独り勝ちを予感した。その頃、あるギョーカイ人が言ったものだ。「金子恵美は、“痛い”から強いんだよね」。その通りである。
そこに、謙介2回目のゲス不倫。ああ、もう。この夫婦がそんなもので折れるわけがないのだ。むしろ燃料や栄養剤注入みたいなものである。一層面白くなるに決まっているじゃないか(ムダに縦横整然と書かれた謙介の担当弁護士からの回答書に何か仕掛けがあるのではないかと、思わず縦読みしたのはここだけの話である)。そしてやはり、この2人は面白かったのだ!
二人は即、同じテレビ番組に夫婦で出演。謙介は殊勝そうに謝罪の弁を口にし、だけど完全に「反省してないでしょ」といじられるキャラとして役割を果たした。金子恵美氏は「離婚はしません」「監督不行き届きだった私自身も悪かった」と気丈で賢い妻としての姿を貫き、しかも一度ならず二度のこの事態を招いた文春に対して「『文春』さんには引き続き、3度ないように監視し続けていただきたい」とコメントする、圧巻の余裕まで見せたのだ。
見事なスキャンダル返し芸
痛い。だから強い! 金子・宮崎夫婦はスキャンダル返し芸を確立したと思うのである。
私は、この先の二人の姿に、ジャンルは違えど故・樹木希林と内田裕也夫妻に似たかげろうを見た。悔しいけれど、もう二人でどこまでも面白くなっちゃえばいい。行くところまで行って、新しい時代の文化人夫婦の姿を見せてほしい。
金子恵美氏は、2度目の文春砲によって、ワイドショーやバラエティーのコメンテーターとしていまや最強の立場まで押し上げられてしまった。うぬぬ文春、余計なことをしてくれおって……。なぜ金子恵美氏にこれほど私がこだわるのか。本当の本当を言うと、金子氏と同じ朝の情報番組に時々ちょこっとだけ出してもらう立場の私、金子氏があまりに人気だわコンテンツとして強いわで、「ああ、どうせアタシが出ても『なんだ、今日は金子恵美じゃないじゃん』『三浦瑠麗じゃないじゃん』って視聴者にガッカリされるんだ……」と、見当違いにクヨクヨ(×2)心に病み、酒をあおる日々だからなのである。
編集さん「河崎さんの怨念が凄くて引きます……。大丈夫ですよ河崎さん、そことは競合してませんから」
河崎「えっ(心外)」
編集さん「ぶっちゃけ、競合させてもらえてません」
河崎「マジで(極めて遺憾)」