若者研究の第一人者であり、マーケティングアナリストの原田曜平さんが、2019年上半期から20年上半期にかけて、Z世代の間で話題となったモノ・コトを紹介。その背景にある新しくて意外なニーズとは——。

※本稿は、原田曜平『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

日本人の学生
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Z世代の新しいニーズ①「新切り口」

一つ目のニーズは「新切り口」です。

これは新しい切り口や新しいフック、新しい付加価値が加わることで、既存のモノやサービスが、全く新しく魅力的なものに見えるようになる現象のことを指します。

日本はいつの間にか豊かになり、全てのモノの質の平均値が高くなりました。昔はイマイチなものも多かったコンビニのPB(プライベートブランド)商品も今ではどれも美味しくなったし、コンビニスイーツもそこら辺のケーキ屋さんに負けないくらいのレベルです。

モノ自体では、あるいはモノの機能や性能では競合商品とほぼ差別化できなくなった時代を生きてきたZ世代にとって、モノそのものやモノの機能より、新しい切り口が刺さるようになっているようです。

「美味しさ」だけでなく、様々な食べ物の「見た目」もどんどん美しくなっています。これは「インスタ映え」が全世代に徐々に広がっていることを示していますが、こうした中、Z世代の心をつかむ新しい切り口として注目を集めているのが、食べ物の「短い時間制限」を前面に打ち出す手法です。

タイムリミットのある「時限爆弾」のように、美味しく食べることができる賞味期限を極端に短く設定し、それを敢えて前面に打ち出すことで、消費者に「そんな短い賞味期限が設定されているなら、その賞味期限内に食べたらきっとすごく美味しいに違いない」と想起させ、このオンラインショッピング全盛時代に、わざわざそのお店まで行って食べてみたい、と思わせる効果があります。

「時限フード」「時限コンテンツ」は今後も使われ続ける

この切り口は、食べ物だけに当てはまる話ではありません。2019年12月からツイッター上に投稿されて話題になった「100日後に死ぬワニ」も「時限」という新しい切り口で大ヒットした、いわば「時限コンテンツ」です。100日後に死ぬ、ということをタイトルで言うことで、その結末(死に方)を知りたいという気持ちが喚起され、結末をツイッターで予想し合って遊ぶことが流行りました。

「100日後に死ぬワニ」にインスパイアーされ、似たコンテンツもたくさん作られました。

カレンダーと砂時計
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この「時限」という切り口は、食べ物とコンテンツ以外にも応用できるでしょう。もちろん、食べ物に関しても、もっと色々なものに応用できるはずです。

例えば、「3日化粧水」と言われたら、3日の間に使えば、肌がとても綺麗になりそうなイメージが湧きます。このように、今後、もっと様々なジャンルでこの切り口は使われていくようになると思います。

ネーミングに異変あり

私は長らく広告業界にいるので、新商品のネーミングが生まれるシーンを数多く目撃してきました。いくら機能が良くても、ネーミングがイマイチだったことが理由の一つで、その商品が売れなかったケースはいくらでもあり、商品にとってネーミングは大変重要な要素です。

もちろん、多くの人にとって、レストランの一番の評価ポイントは料理で、次いで接客や店の雰囲気などでしょうが、店名や料理名などのネーミングも重要だと私は思います。

会食などで人を誘う場合、店名から想起されるイメージで相手がワクワクするケースもあるし、人にお店を紹介する時も、発音が難しいフランス語の長い店名だったりすると、ちょっとだけ紹介しにくくなります。

このように、全ての売り物にとってネーミングは大変重要な要素の一つです。ここで、過去の日本の商品で、良いネーミングと言われているものをいくつか挙げてみましょう。

これまでのネーミング代表格3つ

ウォークマン
それまでではあり得なかった、外を歩きながら音楽を聴くことができる、というイノベーションを起こす目新しい機能を、とっつきやすい親近感のある言葉で表現。
ごはんですよ!
1950年当時に発売された「江戸むらさき」という海苔佃煮を、子供にも食べてもらえるようにと甘くて柔らく仕上げて73年に発売。子供にも食べてほしい、ということが直感的に分かる表現。
無印良品
読んで字の如く、ノーブランドという名のブランドであることをシンプルに示しています。ブランド名に頼らず、高品質な商品を提供します、ということをたったの4文字で表現。

まだまだ優れたネーミングの商品例はたくさんありますが、前述の例を見ると、「機能をうまく表現したネーミング」(ウォークマン)、「企業姿勢をうまく表現したネーミング」(無印良品)、「誰がターゲットかを想起しやすいネーミング」(ごはんですよ!)などが良いネーミングのポイントであることが分かります。

新しい切り口「情緒ネーミング」

ところが最近は、その商品を使うとどんな気分になるか、あるいは、その商品はどんな気分の時に使うものかということを感じさせるネーミング、いわば「情緒ネーミング」が新しい切り口として、Z世代から注目を集めています。

LEBECCA boutique
「静かなロマンのワンピース」「力を借りるオックスフォードシューズ」など、情緒的なネーミングの商品を販売するオンラインファッションストア。
SHISEIDO PICO STORY
ミニサイズコスメブランド、「SHISEIDOPICO」の新作リップとネイル。各色は東京の1日を表現した「甘い余韻」「路地裏に猫」「皇居ラン」などのネーミングがつけられている。

このように、情報過多で何を買ったらよいか悩みやすい時代に、直感的・感覚的に商品を選択できるのが利点のようです。

若者の心をつかむ過剰ネーミングも

もう一つ流行っている新しいネーミングの手法があります。それが「過剰ネーミング」です。

やりすぎアイスバー
セブン-イレブン限定で売られている「やりすぎアイスバー」。「おおすぎ~。」「すっぱすぎ~。」「さわやかすぎ~。」がある。
つぶつぶつぶつぶコーンポタージュまん
セブン-イレブンが2019年10月に発売した新作中華まん。「つぶ」が多いネーミングに惹かれ、手を伸ばす人が多く見られた。
あと5分待ってて。中のアイスがとろっとしてくるから。パイン味のアイスバー。
とにかく名前が長く、どんな味か気になる、と話題に。

こういった一風変わったネーミングでZ世代は、実際にどの程度そうなのかを試したくなり、つい購入してしまうようです。

Z世代の新しいニーズ②「新タブー」

今回ご紹介するもう一つのニーズは「新タブー」です。これまでの日本社会でタブー(禁忌)とされてきた価値観や事柄の中で、最近、Z世代の間でタブーではなくなってきたモノやコトを指します。

ツイッターでちょっと不適切な発言をしただけで、一般人でさえ容易に炎上する時代になり、世の中が不寛容になっているように見えます。しかし、実はタブー自体は、Z世代の間では徐々に減ってきています。ただし、まだタブーとして残っている事柄に触れてしまった人には制裁が下され、徹底的に叩かれる、という構造になっています。

①「無性限」

小学生のお子さんのいる親御さんはご存知だと思いますが、この数年、「うんこ」がブームになっています。『うんこドリル』シリーズの大ヒット、お台場には「うんこミュージアム」がオープンして大人気です。

原田曜平「Z世代」
原田曜平『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)

私もこのミュージアムに行きましたが、便座に座って写真を撮ってもらったり、カラフルなウンチがもらえたり、でっかい声で「うんこー」と叫ぶアトラクションがあったり、すごい時代になったものだと驚きました。

どんな客層が来ているかを観察してみると、意外にZ世代の若者が多く、さすがにデートでは少し来にくいのか、女子同士の姿を多く目撃しました。

インスタグラム上にはカラフルなうんこを持ったZ世代女子の写真がたくさん投稿されており、日本のタブーが大きく変化したことを強く実感します。

この「うんこ」のように、それまでタブーだった価値観やモノが、むしろ「消費の対象」になるという現象が、今、Z世代の間で広がってきています。

②「死考」

これまで「死」は、日本社会では大きなタブーの一つでした。しかし、「うんこ」同様、Z世代の間では、「死」をテーマにした展覧会がヒットしたり、「死」をテーマにしたコンテンツが大きな話題を呼んだりしています。

こうした「死」に関するモノやイベントをSNSに投稿することで、自分の哲学的な一面、あるいは普段と異なる自分の二面性を周りにアピールすることができる点が、Z世代にウケている理由のようです。

このように「死」がファッション化された現象を「死考」と命名しました。

「新切り口」と「新タブー」、Z世代特有のニーズを2つご理解いただけたのではないでしょうか。