空き家の半数以上が、相続・贈与で取得した家
親が亡くなった後の実家をどうすればいいか――。そんな悩みを抱えている人は多いだろう。
「たとえば、都市部で生活している子ども世代は、すでにマイホームを取得しているケースが多く、親の家を相続しても移り住むことはできません。かといって、実家を処分する決心もつかず、問題を先送りして空き家として放置しているケースがよくあります」
こう話すのは、明治大学教授で空き家研究の第一人者である野澤千絵さん。総務省統計局が5年ごとに調査している「住宅・土地統計調査」によると、2018年のデータでは全国の空き家は846万戸で空き家率は13.6%と過去最高を記録。また、貸家用・売却用・別荘等以外の用途の世帯所有の空き家の半数以上は相続・贈与で取得した家であることもわかった。今後は世帯数の減少も予測されており、空き家がさらに増加する可能性がある。相続の際に、きょうだい間で実家を押し付けあうトラブルも起きそうだ。
「空き家を放置すると、さまざまなリスクが発生します」と野澤さん。主なリスクをまとめると、図のようになる。
多くの人が誤解しているのは「相続放棄すれば、実家を受け継ぐ必要はない」という考え方だ。
「相続放棄しても空家等対策の推進に関する特別措置法第3条の『管理者』に該当するので、管理義務を問われる可能性があります」
空き家が荒廃して近隣に迷惑をかけるような事態になった場合、相続放棄した人に管理責任が生じる可能性があるというのだ。具体的にどんな管理責任が生じるかは、まだ事例がなく最終的には裁判で判断されることになるが、相続放棄では解決しないことは理解しておきたい。
さまざまなコストもかかる。固定資産税や維持費・修繕費が定期的にかかるほか、最近は台風などの被害も多くなっており、豪雨や暴風で屋根や外壁が壊れてしまえば、まとまった修繕費も必要になる。
「固定資産税に庭木の剪定などの費用、偶発的な修繕費まで合わせると年間10万~30万円のコストがかかるのを覚悟したほうがいいですね」
空き家になってから一定期間が過ぎてしまうと、建物が傷んでそのままでは貸すことも売却することも難しくなってしまうという。その場合には、解体してから売却をしなければならない。それでも放置を続けると、自治体が強制撤去に踏み切り、解体費用を請求されることもある。
5年を超えて放置すると、空き家の活用は難しい
親から引き継いだ実家がお荷物にならないようにするには、住まいにも終活が必要。いつからどんな準備をしておけばいいのか。
「空き家問題をフェーズに分けると、遅くともフェーズ2までに方針を固めておく必要があります」
フェーズ2とは、リフォームをすれば活用できる段階で、空き家になってから長くても5年まで。それを過ぎると、解体が必要になる可能性が高いという。理想は親が元気なうちに、実家の処分に必要な前提条件を整えておくこと。祖父母の家が空き家になっている場合は、その話から始めるのもいいだろう。まず確認したいのは土地や建物の「名義」と「土地の境界」。過去の相続で登記簿の名義を変更していない場合や、隣家との境界がはっきりしていない場合は売却が難しい。
また、民間市場で売却や賃貸の需要がない可能性が高い場合に、信頼できる相談先を探しておくことが大事。実家のある自治体に空き家バンクがあるかも確認するとよい。
「最近は移住したい人が増えて、空き家の需要は増えていますから、活用できる可能性は十分にあると思いますよ」
空き家の活用に積極的な業者を地元の幼なじみに聞いてみるのもいい。
そのほか、マンションであれば、リースバック(普通借家契約など借り手が保護される契約タイプ)を利用する方法もある。自宅をいったん事業者に売却した後も、賃貸料を支払って自宅に住み続けることができる仕組み。親が亡くなれば、実家を業者に引き渡して契約が終了する。
専門業者が買い取ってリノベするケースも増加
一方、民間市場で需要のある一戸建て住宅の場合は、図のような選択肢や相談先が考えられる。リフォームなどで建物を活かせる場合には、「中古住宅として売る」「事業用として貸す」「地域貢献として貸す」などの選択肢があり、売却する場合には不動産会社や買い取り専門業者が相談先になる。最近は、空き家を買い取りリノベーションして売却する専門業者が増えているという。
貸す場合には、賃貸住宅のほか、シェアハウスや民泊にする方法なども。自治体が空き家を地域の交流サロンに活用するケースもあるので、自治体の空き家担当などに相談してみるのもいいだろう。建物の解体が必要な場合も、相談先はあまり変わらないが、解体費用を補助してくれる自治体もあるので情報収集が必要だ。