スマートフォン向けゲームアプリや家庭用ゲームで人気タイトルをリリースし、コロナ禍の中でも堅調な業績のバンダイナムコエンターテインメント。その躍進の原動力となった宇田川南欧さんにキャリア初期からの道のりを聞いた。
バンダイナムコエンターテインメント 常務取締役 宇田川南欧さん
バンダイナムコエンターテインメント 常務取締役 宇田川南欧さん

20代で社内失業状態に。自分で仕事をつくり出す

「入社当初はショートパンツにサンダルという格好で仕事していたからか、周囲から『すぐ辞めるのでは』と思われていました。でも、私はこの会社で10年は仕事しようと思っていたので、あちこちで『しっかり働きますよ』と宣言しました」

1994年、20歳で玩具メーカーであるバンダイに就職した宇田川南欧さん。多くの商品を世に送り出す仕事をしたいと思い、同社を選んだ。95年にはウィンドウズ95が華々しく発売され、IT業界が急成長。宇田川さんも当時最先端の、ネットワーク接続が可能な携帯ゲーム機の新規開発に携わったが、その計画が撤回され、入社3年でクエスト(任務)がないという状態に。しかし、そこから自分で業務をつくり出す。会社の商品紹介サイトを作り、パソコン通信向けのコンテンツを開発した。まだFAXで文書を送っていた時代に、インターネットの将来性を説き、会社用のメールアドレスも社長の次に作ってもらったという。

「とにかく一生懸命でしたね。思えば、20代の頃はいろんなことでつまずいていた激動の時期でした」

サービス開発で公開3日前に一部の仕様が抜けていることがわかり公開延期。大騒ぎになり、発注元に謝罪し「これでキャリアは終わった」と思ったという手痛い体験も。また、考え方が合わない上司と仕事し、苦悩したこともある。

「もともと物事をはっきり言いすぎるタイプなので、周囲から『宇田川さん、グレーというのもあるんですよ』と言われた経験も(笑)。今は役員なので、はっきり意見を言うことが役割でもありますが、言い方には気を付けるようになりました」

99年にはNTTドコモがiモードのサービスを開始し、携帯電話用のコンテンツ事業が盛んになった。新会社バンダイネットワークスに転籍して、32歳のとき、マネジャーとなり仕事がぐんぐん面白くなった。10人ほどのチームを率い、コンテンツを開発。“自分の色”を出せる立場にやりがいを感じていたが、好事魔多し。キャリアで最大の後悔もこの時期に抱えることになった。

(左)99年に会社の商品ホームページを提案し作成(中)イギリスのオフィスで戦略についてミーティング(右)ジャイアンツファンとして東京ドームへ
(左)99年に会社の商品ホームページを提案し作成(中)イギリスのオフィスで戦略についてミーティング(右)ジャイアンツファンとして東京ドームへ

キャリア最大の失敗は、思い込みから招いた

携帯電話が進化し、現在のLINEスタンプのようにメールでキャラクターの画像を送れる仕様になったが、IP(知的財産)のルールから、購入していない人にも画像を渡せる仕組みは権利関係がクリアできないだろうと思い込み企画にしなかった。しかし、そこは競合の多いコンテンツ業界。他社が先駆けてそのサービスを開始し、業績を伸ばしていった。

「自分でもこれは面白いな、ヒットするだろうと思っていたのに、どうしてやろうとしなかったのか……。手掛けた会社が流行らせているのを見ると、自分で自分を説得できない。悔しさを感じました。“やった”失敗ではなく、“やらなかった”失敗って、強く印象に残りますよね」

趣味はプロ野球観戦で、読売ジャイアンツが好きと語る宇田川さんは、まるでたたき上げの強打者のようだ。チーム発足時、若くしていきなりレギュラー入りし、試合に出ながら主力選手に成長。そして、絶好のチャンスボールが来たときにバットを振らなかったことをずっと忘れない。

その苦い経験から次のチャンスは逃さなかった。2012年、基本料金無料、従量課金のソーシャルゲームが人気になったタイミングで、「機動戦士ガンダム」のオンライン専用ゲームをリリース。11年度に30億円だったコンテンツ事業の営業利益を、3年後の14年度には370億円超にまで成長させた。近年は、「ドラゴンボール」のゲームアプリがヒット。ネットワークコンテンツに黎明れいめい期から取り組み、デバイスやプラットフォームの変化に対応しながら実績をつくり、満を持して次々にホームランを飛ばしていった。

LIFE CHART

時代の流れに柔軟に対応し、挑戦していく

「新しいものを生み出すには、ルールに縛られず、時代の流れに柔軟に対応し、挑戦していくこと。社員にも、挑戦はしたほうがいいとアドバイスしています。やはり会社では挑戦した人が評価されますので」

40歳でバンダイナムコゲームス執行役員、41歳でバンダイナムコエンターテインメント取締役に。「最低10年は働く」と決めたバンダイ入社から20年、とんとん拍子に昇進してきたように見えるが、新会社設立やナムコグループとの経営統合など、組織がドラスティックに変化する中を生き抜いてきた。

「仕事の原動力は事業がしたいという気持ちなので、新しいコンテンツをリリースし、お客さまに喜んでもらえるのがうれしい。仕事という感覚があまりなく、まるでシミュレーションゲームをしているようで、楽しいですね。難しいクエストがあっても、悲壮感はなく、どう攻略しようかなと考えます(笑)」

今ではそのフィールドが海外にも広がった。役員としてフィールドを駆け回る時間はまだまだたっぷりある。

■役員の素顔に迫るQ&A
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Q 好きな言葉、座右の銘
「最速最善」

Q 趣味
プロ野球観戦

Q ストレス解消法
ハワイ旅行(滞在検討含む)

Q 愛読書
コリン・ウィルソン著『アウトサイダー

Q Favorite item
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