新しい形のボランティア活動「プロボノ」
プロボノとは、社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を生かして行うボランティア活動のことです。ラテン語で「公共善のために」を意味する「Pro Bono Publico」を語源としており、新しい形のボランティア活動と言われています。
私たち「サービスグラント」は、さまざまな社会問題に取り組むNPOや地域団体などを支援するために、このプロボノ活動をコーディネートする認定NPO法人です。いろいろな職業上の知識や経験を持ち、プロボノ活動をしようという方=「プロボノワーカー」を募り、5人前後のチームで、支援先となるNPOや地域団体などの課題解決につながるような具体的な成果物を作っていきます。期間は短いものだと1カ月くらい、長いもので半年間ぐらいに限定していて、1週間に5時間程度を目安に参加できます。
広報、マーケ、企画、総務、事務……役立つスキルは幅広い
「スキルや専門知識」というと、法律や会計などの資格を伴うものや、プログラミング、ライティングなどをイメージされるかもしれませんが、NPOなどが必要としているスキルはそれだけにはとどまりません。広報やマーケティング、企画、営業、総務、事務など、一般的な社会人が持つスキルで役立つものがたくさんあります。具体的に、どんな活動があるかご紹介しましょう。
サービスグラントでコーディネートするプロジェクトは、大きく3つに分けられます。1つ目は、団体の情報発信をお手伝いするものです。ウェブサイトのリニューアルやパンフレット、チラシの制作などコミュニケーション系の成果物を作るものです。
2つ目は、団体の運営改善につながるような支援活動です。限られた人数で運営している団体が多いので、非効率な部分があると活動に大きく影響しますから、業務や仕事の流れを整理してマニュアルを作ったり、組織作りを見直す提案をします。
3つ目は、事業戦略支援です。団体が現在の活動を進める中で、課題に感じていることは何かを探り、課題解決のためにはどんなことに取り組めばよいかを調査し、3年後、5年後などのスパンで目指すべき方向を定め、事業計画を立案します。
支援の対象となる団体は幅広く、子育て支援、教育支援、青少年の引きこもり支援、女性支援、女子学生のキャリア支援、DV被害者の支援などさまざま。児童虐待被害者支援、障がい者の就労支援、障がい者スポーツの支援、高齢者のサポート、高齢者の健康づくりなど、まさに「生老病死」ではないですが、人生のありとあらゆる場面に関わる課題に取り組む団体があります。プロボノワーカーは、自分が関心を持っている分野の団体を支援する人もいますし、あえてよく知らない活動をしている団体を選んで、これまで知らなかった社会課題について学ぼうという人もいます。
リーマンショックで関心、2010年が「プロボノ元年」に
サービスグラントが活動を開始したのは2005年1月ですが、活動が大きく広がったという実感を持ったのは、2009年から2010年にかけてです。毎年20~30人程度だったプロボノ活動の登録者が、2010年からは毎年200~300人ずつ増えていったのです。
ちょうどその頃はリーマンショックの後で、「お金で本当に幸せになれるんだろうか」という意識が強まり、社会起業家やソーシャルビジネスなど、社会貢献の魅力に人びとが気づき始めた時期だったと思います。「仕事を続けながら社会貢献に関わることができる新しいボランティア」ということで、プロボノに関心を持つ人が増えたのでしょう。ビジネス誌やテレビで、プロボノが続けて取り上げられたことも追い風になりました。私たちは、2010年を「プロボノ元年」と呼んでいます。
最近はさらに参加者が増えています。現在のサービスグラントのプロボノワーカー登録者は6000人ほどで、コロナ禍でさらに増えている印象です。今年の7月に行ったアンケートでは、プロボノ参加動機に関するコロナの影響の1つとして「社会課題全般に関わりたいと思った」ことを挙げた人が6割以上となりました。これ以外にも、在宅の時間が増え、自分の時間も増えたことが、プロボノに登録するきっかけになった方も多かったのではないかと感じます。
魅力は「スキルアップやネットワーク作り」
2005年に団体を立ち上げて、最初の数年間は、プロボノワーカーの男女比は女性6、男性4の比率で女性の方が多数でした。ところが、2010年の「プロボノ元年」あたりを境にこれが逆転し、以来男性6、女性4になりました。最近は女性の参加者が増えてきているので、今は男性5.5、女性4.5くらいの比率になっています。
また、当初は男女とも、20代後半から30代までが大半だったのですが、ここ4、5年、特に2018年以降は40代、50代の参加者が増えています。「ライフシフト」「人生100年時代」などと言われますが、仕事中心生活の後を考え始め「会社以外の世界に一歩踏み出したい」と思った方が、プロボノに注目するようになったのではないかと思います。
プロボノワーカーの本業は、IT企業、銀行、証券会社などの金融機関、広告会社、イベント会社、調査会社、流通関係、新聞社、行政機関の職員など、極めて幅広い業種、職種にわたっています。大企業から中小企業の会社員、フリーランスのマーケッターやデザイナー、ライターもいます。こうした幅の広さがプロボノ活動の一つの魅力となっていると思います。
意外にみなさん、それほど社会貢献に熱く燃えているという感じでもないんです。もちろん、そういう気持ちがゼロではこの活動はできませんが、それに加えて「自分のスキルや経験を社外で生かしたい」「自分の力が社外でどれくらい通用するか試したい」「社外の人たちと一緒に新しい取り組みにチャレンジしてみたい」という動機が参加にあたっての大きな後押しになっている人が多い。スキルアップや、普段知り合えないような業種・業界の人たちの人脈、ネットワークづくりに魅力を感じている人も多いですね。
プロボノでリーダーシップを磨くチャレンジを
実は今、女性のプロジェクトマネジャーを大募集しています。プロジェクトマネジャーは、スケジュールを管理しながらプロジェクトを円滑に進行させるチームリーダーです。先ほど、プロボノワーカーの男女比は6:4くらいだと言いましたが、プロジェクトマネジャーや、プロジェクトを統括するアカウントディレクターといったマネジメント系の職種になると、この比率が8:2くらいになり、圧倒的に男性が多くなってしまうんです。
会社のプロジェクトと異なり、プロボノのプロジェクトは、異なるバックグランドを持つ人たちが集まる、とてもフラットな関係性の中で進んでいきます。「黙ってオレに付いてこい」的なトップダウン型のリーダーには、誰も付いてきてくれないことが多い。参加しているメンバーのモチベーションのちょっとした変化に気付いたり、対話しながら一つひとつ言葉で説明しながら進めるなど、丁寧なコミュニケーションがとれるリーダーシップが求められています。これらは比較的得意とされる女性も多いですし、今の職場でも求められることが増えているスキルなので、仕事にも役立つ経験になるはずです。
肩書に「マネジャー」と付いていなくても、普段の業務でチームリーダー的な仕事を任された経験がある人ならば、十分できると思います。サービスグラントのプロジェクトは1カ月から半年と期間が明確です。「ちょっと自信がない」と遠慮している人こそ、プロボノでぜひチャレンジしてほしいと思います。
「おじさまマネジメント」の練習、復職前のウオーミングアップにも
少し前のことですが、敢えて年配の男性が多いチームを選んでプロジェクトマネジャーにチャレンジした30代後半の女性がいました。彼女は、比較的年配の男性が多い職場にいて、いずれチームのマネジメントをしなければいけなくなるので、プロボノで「おじさまマネジメント」を学びたいとのことでした。なかなかおもしろいプロボノの活用法ですよね(笑)。本業ではないから、評価に関わるプレッシャーもないですし、少しの失敗は、勉強だと思えばいいのです。「失うものはない」くらいな気持で挑戦してほしいと思います。
「ママボノ」というプロジェクトもあるのですが、これは、育休中や、出産で一度離職したけれど復職を目指している女性を対象としたプロボノプロジェクトです。復職へのウオーミングアップの場として設けています。2013年から実施しているのですが、毎年驚くほどたくさんの女性が集まり、昨年は東京、関西、青森で100人が参加しました。10チーム以上を編成し、プロジェクトに取り組んでもらいました。
復職へのウオーミングアップに使うもよし、自分の既存スキルを磨くもよし、新しいスキルを得るための練習に使うもよし。転職を考えている人には、自分が持っているスキルの棚卸しにも役立つでしょう。しかも、社会貢献にもなります。仕事でもプライベートでもない「サードプレイス(第3の場所)」として、プロボノをうまく活用してもらえるとよいと思います。
秋からは、「ふるさとプロボノ」というプロジェクトに取り組んでいます。これまでも行っていたのですが、今年は募集・支援地域を広げて大きく展開しています。これまでのプロボノは、どうしても都市部が中心でしたが、プロボノの力を地域とつなげ、農山漁村の活性化を図りたいと思っています。
まもなくサービスグラントでの累積の支援件数は1000件に、参加者実数も4400人となろうとしています。ただ、日本の社会人の数に比べれば、プロボノワーカーとして活動している方はごくわずかです。まだまだ潜在層はたくさんいますし、プロボノの力を求めている団体もたくさんあります。もっと多くの人に、プロボノに参加してほしいと思っています。