在宅勤務シフトが続くなか、1日の勤務時間を分割して働く「分断勤務」を取り入れる企業も増えてきました。「分断勤務はコアなしフレックスと在宅勤務のかけ合わせ」と言うのは、大手法人1100社の人事部門とネットワークを持つWorks Human Intelligenceの伊藤秀也さん。働く人はもちろん、経営層や人事部も知っておきたい、分断勤務でパフォーマンスを上げる方法をお伝えします。
自宅で働くカップル
※写真はイメージです(写真=iStock.com/imtmphoto)

1日の働く時間を自分で配分できる「分断勤務」

そもそも「分断勤務」とは、一日あたりの所定勤務時間を働く人が配分して働くこと。制度上では「コアなしフレックス」という形で組まれていることが多く、たとえば1日8時間勤務の人が、午前中に3時間働き、その後は私用で中断して、また夕方から5時間働くといった働き方が可能になります。仕事と仕事の間は休憩時間となり、その時間帯は基本的には会社の指揮命令系統から離れますから、何をやっても自由。もちろん家事をしてもかまいません。

実際に分断勤務を取り入れている会社からは、ビジネス上のメリットとパーソナルな事情のメリットの両方があると聞きます。

ビジネス上のメリットでいうと、たとえば海外の取引先のある会社なら、早朝や深夜にミーティングが入ることがありますが、その代わり日中は休めます。分断勤務なら時間のずれを吸収できるので、海外とのやりとりには有効なのです。

パーソナルな事情でのメリットは、仕事と家庭の両立が挙げられます。緊急事態宣言下で保育園が閉鎖したときは、早朝に仕事をして、昼間は子どもの面倒を見て、夜は寝かしつけてから仕事をするということができてよかったという声が多く聞かれました。

また緊急事態宣言を受けて、いっせいに在宅勤務になったことで、会社に接続する回線や集合住宅のネットワークが混んでしまい、インターネットが使えない時間が発生したときには、回線がつながるときに勤務して、つながらないときはしないというふうに分断勤務を利用する例もあったようです。

分断勤務によって柔軟な働き方ができて助かっている、業務が取り回しやすくなっているという声は各社から聞かれました。生産性も確実に上がっているようです。

分断勤務が向かない職種、企業カルチャーとは

では、どの企業も分断勤務を認めているかというと、必ずしもそうではありません。

そもそも業種、業態、職種によっては、分断勤務ができないものもあります。たとえば店舗勤務や製造ラインのある小売業や建築業、物を動かさなくていけない物流業、そういった直接部門は難しいでしょう。

これ以外の間接部門、つまり研究職や一部の営業職や管理職については可能ですから、今回のコロナ禍でも取り入れる会社が増えてきたと言えます。

また、そういった働き方が、企業文化として許容されているかどうかも関係してきます。たとえば統制のとれたラインマネジメントを重視し、それによってクオリティを保つ伝統的な会社なら、「柔軟すぎる制度」が自社の競争力を奪ってしまう場合もあります。そういった企業だと、分断勤務はあまり向いていないでしょうね。

今の時代、柔軟な働き方ができない会社は批判されがちですが、統制型の企業がうまくいく場合もあります。たとえば緊急事態宣言が出たら、生産計画を変更し、工場を止めて従業員の安全を確保したうえで、徐々に再稼働していくといった対応は、管理がしっかりしているからこそできます。分断勤務など自主性を優先した柔軟な働き方を許容することだけが正義ではないことも合わせて知ってほしいと思います。

制度設計とシステムが間に合っているか

そういった前提を踏まえて、大きなハードルになるのが「制度設計」です。つまり分断勤務を実現するには、就業規則を変えたり、労働組合の承諾を得たりといった準備が必要になるということ。

またテレワークや分断勤務といった新しい働き方に合わせたシステムも用意しなければいけません。在宅勤務の時間や、間の勤務外の時間を入力できるようにしたうえで、勤務時間の管理をしていくということですね。

分断勤務を認めるかどうかは、その働き方ができるか、それを許容する文化か、といった前提があって、この二つの対応が間に合っていることが必要条件となるのです。

「拍手機能」を使いこなせているか

実際に分断勤務を始めると、自分の立場に合わせて仕事を調整していく分、上司やチーム内でのコミュニケーションがより重要になってきます。自身の状況を伝えて理解を得る、事前にどういう状況が発生するか報告する、そういったことを1on1の中で行う必要があるでしょう。

上司としては時間の管理が難しくなりますので、そこは留意が必要です。分断勤務というのは結局、コアなしフレックスと在宅勤務のかけ合わせ。業務を時間で管理するよりは、共通の目標に向けて、どういうアウトプットを出していくのかという管理が重要になってきます。当然ながらチームで集まってミーティングを行う機会も減りますので、上司としてチームのモチベーションをキープするためには、工夫が必要になります。

その工夫のひとつが「コミュニケーションツールを効果的に使うリテラシーを上げる」ことです。

みなさんはすでに実行しておられるでしょうが、Microsoft TeamsやZoomといったウェブ会議やSlackなどのチャットツールなど、いわゆるコミュニケーションツールをうまく使っていく。

たとえばウェブ会議のツールにはどんなものがあって、それを使うとどういう反応が得られるか、チャットツールであれば、一人ひとりのコメントに対して、スタンプをどう使うか、上司がそういったツールの中身を知って使うと、部下の心持ちが全く違ってきます。またZoomの“拍手”などの機能を組織的に促すことがコミュニケーションを活性化させることもあります。

上司としては、もはやこういったコミュニケーションツールが苦手とは言っていられないのです。

一時期に比べると、仕事と家庭の両立での厳しい状況はおさまりましたが、これをきっかけに企業が分断勤務を取り入れて、働きやすい制度設計をつくる、というエネルギーが生まれたのは、非常にポジティブなことだと思います。そういった変化は、今後もますます加速していくはずです。