IRの貴重なスペシャリストとして50歳を前に「収入アップ転職」に成功
新卒で入社したオムロンに26年もいましたから、転職が決まって退職届を出したとき、体が震えました。骨をうずめる覚悟でしたし、愛着がある会社なので。そんな私がなぜ転職しようと思ったかというと……。10年経験したIRの部署から、新規事業の部門にマーケティング担当として異動になったのがきっかけ。これまで培ったキャリアが生かせないし、違う会社に行くのと変わらないので、IRをもっとやらせてくれる会社に転職したほうがいいのではないかと悩みました。
そこまでIRにこだわったのは、それぐらい好きな仕事だったからです。投資家と面談して会社の業績を説明するだけでなく、経営者と経営の課題を討議して、会社の未来を考えていくのがこの仕事の魅力です。財務、経営戦略、事業戦略など、会社のすべての重要な情報が頭に入っていないと、投資家と会社の仲立ちができません。会社を動かし、変革するぐらいの影響力を持つことができます。
オムロンにいたとき、会社の1年間の報告書である「統合レポート」は、決して大げさではなく毎年魂を込めて作成。経営層のメッセージを研ぎ澄まされた印象にするため、何度も推敲して膨大な時間をかけて作りました。
初めての転職だったので情報収集は周到に
IRを専門職として極めている人が意外に少ないこともあって、この領域に携わって5年目ぐらいから、ちらほらヘッドハントの話があったのです。でもオムロンから離れようと思うほどの強い動機はなかった。自分の市場価値を確認するために、ヘッドハンターに会ってはいましたが、2019年の夏に異動の話が出たので、本気で転職したいと伝えました。参天製薬でIRの部長職を探していた経緯もあって、どんどん話が進みました。
50歳近くで初めての転職ですから、口コミや社風など、情報収集も周到に。製薬会社は業界全体で景気変動に左右されにくい。しかも参天は眼科に特化していることで、参入障壁がある程度高くて優位なポジションを確保しています。
オムロンでは相応に高い年収をもらっていたので、良くて現状維持、下がるのも覚悟していましたが、少し上乗せで年収が決定。そのとき同時並行で転職活動をしていた数社の大手メーカーではポジションが空いていなかったり、仕事は魅力的だけど条件が合わないなど、お互いに希望が合致しなかった。オムロンでも以前ヘルスケアの仕事をしていたこともあり、もはや運命だと思い、参天に行くことを決めました。
IRをまだまだ極めていきたいのですが、“いっちょかみ”(何にでも口を挟む人)なんて言われてしまうほど(苦笑)、他の領域の仕事が気になる性質。参天はとても風通しがいい会社なので、今はCSRの領域にもかかわらせてもらっています。積極的な学びや働き方をして常に成長していかないと、優秀な人にどんどん追い抜かれてしまいますから。
お金がすべてではないけれど、大事なものであるのは確か。わが家は2馬力なので、子どもの教育費に十分なお金をかけられます。夫の両親との二世帯住宅のローンも早めに完済できたのもダブルインカムだからこそ。リーマンショックのころ、夫が勤める会社が倒産の危機にあったのですが、そのとき仕事を続けていることをいつにも増して家族に感謝されました。
小さい子どもを抱えて仕事をするのは、辛いことも多かったけれど、辞めないで本当に良かった。特に上の子を出産した当時は育休期間が今より短く、子どもが保育園になかなか入れなかったし、復帰後に会社に自分の居場所がなくなってしまいそうで不安に。でも、会社を辞めるのはいつでもできる、今やれることを粛々とやるべきだと自分を励まして。育休時に通信教育で、中小企業診断士の勉強をやりました。“心の強さ”は人生のいろんな局面で武器になるはずです。
下の娘がまだ小さかったころ、学校の授業参観に誰も行けなかったので、彼女が泣きだしたことがありました。不憫に思って、仕事を辞めてあなたのそばにいようかと慰めたら「違う! おじいちゃんが来なかったから悲しかったの。お母さんはお仕事をちゃんと続けてください。そうしないと私は海外旅行に行けないでしょ」って(苦笑)。息子も娘も「将来しっかり稼げる人になりたい」と言っていますし、そうあってほしいと私も強く願っています。