近年、働く女性たちの間で注目されているのが家事のアウトソースや男性育休。こうした新たな動きを、大学生たちはどう見ているのでしょうか。結婚後の家事育児についてどんな意識を持っているのか、原田曜平さんが探ります。
2人の女子大学生がキャンパス内でおしゃべり
※写真はイメージです(写真=iStock.com/recep-bg)
【座談会参加者】
鈴木 詩音莉さん/慶応義塾大学法学部3年生。結婚もキャリアも手に入れたい共働き派。女性
原田 梨々香さん/慶応義塾大学文学部1年生。家庭を持たず自由に働き続けたい独身派。女性
落合 聖仁くん/明治大学経営学部4年生。奥さんには家事育児に比重を置いてほしい派。男性
曽我 大晴くん/慶応義塾大学商学部2年生。仕事も家事も夫婦対等でいたい共働き派。男性

「ナギサさん」みたいな旦那さんが欲しい

【原田】今回の参加者は皆、将来は働き続けたいということだけど、家事と仕事の両立は大変だよね。特に、家事が苦手だったり嫌いだったりする人は、その分、負担も大きく感じると思うんだ。最近は家政婦さんを頼むとか、家事をアウトソースしてはどうかっていう議論もあるんだけど、それについてはどう思う?

【鈴木さん】私は仕事を頑張りたいし家事も苦手だから、結婚後に家事を全部自分一人でやるのは無理だと思っています。だから結婚相手は家事ができる人、私が仕事から帰ったら話を聞いてくれるような人がいい。周りの友達も同じで、ドラマ「私の家政夫ナギサさん」のナギサさんみたいな旦那さんがいいよねって話してます。または、ナギサさんみたいな家政婦さんを頼みたいです。

【原田】そのドラマ、若者の間でもすごい視聴率なんだってね。ナギサさん役の大森南朋さんが、若い女子の間で「おじキュンする」って話題らしいよ。

【鈴木さん】私はおじキュンじゃなくて(笑)、家事って誰もがやらなきゃいけないものっていう認識があったんですけど、あのドラマで「人に任せる」っていう選択肢もあるんだって初めて知ったんです。性別に関係なく家事にも得手不得手がある、それが許される時代なんだなって。

【原田】家事が苦手な女性も肯定される、包み込んでくれる人がいるっていうところが魅力なんだね。じゃあ鈴木さんは、家事のアウトソースにも大賛成ってことかな。

【鈴木さん】そうですね。前は、家政婦さんってすごく忙しい人が雇うものというイメージがあったんですが、これからは雇う人の層が広がっていくのかも。誰が家政婦さんを頼んでも責められることはない時代になっていくと思います。そう考えたら、私は絶対頼みたいですね。

他人が家に入るのは嫌な若者も

【落合くん】僕は、家政婦さんを雇うのは最終手段にしたいです。正直、他人がつくった料理とかあまり食べたくないし、それこそナギサさんみたいなおじさんの手料理とかはちょっと……(笑)。夫婦2人ともどうしても家事ができない時だけ、仕方なく頼むって感じかな。

【原田(梨)さん】私も家政婦さんは頼まないと思います。割と潔癖気味なので、他人に家に入ってほしくない。でも、そうじゃない人や十分な収入がある人は、抵抗なく頼む時代になっていくのかなと思います。

【曽我くん】僕も潔癖気味なので、他人が家に入ること自体が受け入れがたいです。家政婦さんを頼むぐらいなら、無理してでも自分でやりたいです。

【原田】日本では、他人が家に入るのが嫌っていう人は結構多いみたいなんだ。欧米に比べて家事のアウトソースがあまり広がっていないのは、それも原因だと言われているよ。それと、他人がつくった手料理を食べたくないという落合くんの意見は意外と昭和的だね。家で食べるなら奥さんか自分の手料理がいいってことかな。

【落合くん】自分は料理はしないので、料理は奥さんに頼ることになるのかな……。手料理が無理でも、今はUber Eatsも食材宅配サービスもあるから、家政婦さんよりはそっちを使っていきたいですね。

「手料理は特別なときだけ」になる日は来るか

【原田】なるほど。欧米や中国では、家族で食べるだけならデリバリーやテイクアウトで済ませる人も少なくないんだ。料理するのは記念日とか友達を呼んだ時などで、手料理はむしろスペシャルなイメージになりつつある。でも、日本ではまだ「普段は手料理」が主流だよね。君たちが結婚する頃には、これも変わっていくのかな。

【鈴木さん】私だったら、デリバリーより冷凍食品や時短グッズに頼るかな。そうすれば手間をかけずに“手間をかけた風”の料理をつくれるから。デリバリーはスペシャルな日には使うかもしれないけど、普段の食事には選ばないと思います。

【原田】随分前から共働きが根付いているフランスで冷凍食品専門店のピカールが普及したのだけど、特に日本は世間体が大切な国だから、テイクアウトやデリバリーより冷凍食品の方がもっと普及していくかもしれないね。確かに日本に進出しているピカールを見ると、こんなものまで冷凍食品に! なんて驚いたりするもんね。全てが冷凍食品化されていく可能性は大いにあるね。

【落合くん】実家は生協の食材宅配サービスを使っています。80%ぐらいできているものを家で完成させるので、これも手料理といえば手料理ですよね。見栄えや世間体では、デリバリーよりそっちのほうがいいような気がします。

【原田】その世間体も、今後は変わっていくんじゃないのかな。日本では、今はまだ奥さんの手料理がベストみたいな風潮があるけど、君たちの世代では専業主婦志向の女子が減っている。家事に時間を割ける人が減るわけだから、今の風潮が変わっていく可能性は大いにあるよね。

母親世代はいったんキャリアを中断したケースが多い

【原田】女性は出産を機に退職する人も多くて、キャリアが中断してしまいがちなんだ。皆のご両親はどうしていたのかな。

【落合くん】両親は職場結婚なんですが、母は出産を機に退職しました。その後、育児が落ち着いてから別の職場でパートで働き始めて、それからはずっと共働きです。

【曽我くん】うちも同じです。母は出産・育児でいったん退職して、僕が小学校高学年になった頃からパートを始めました。

【鈴木さん】母は、私が小さい時は夕方に帰れる事務の仕事をしていて、中学生になった頃からフルタイムの仕事に戻りました。

【原田(梨)さん】私の母はずっと専業主婦です。

【原田】なるほど。原田さんのお母さん以外は皆、いったんキャリアを中断しているんだね。で、パートとして仕事に復帰した人もいる、と。この状況はまさに今の時代を表していて、2019年、女性の就業者数が初めて3000万人を超えたと言われました(総務省「労働力調査」6月)。2012年の安倍政権誕生以来、約300万人増加。2018年の15~64歳の女性の就業率は69.6%に達し、先進国でも高い水準に。ところが、実際は女性の就業者が300万人増えたといっても、そのうち週35時間未満のパート労働者が全体の8割以上を占めており、「男女参画社会」をキーワードの一つにしていた安倍政権下で進んだのは実は女性の「パート化」だったという説があります。ところで、鈴木さんはそんなお母さんの姿を見て、自分はどうしたいと思っているのかな。

【鈴木さん】私も母と同じように、時期によっていったんキャリアを止めて、その後フルタイムに復帰したいです。でも周りには、ずっとフルタイムで働き続けたいという子が多いですね。「なぜ私だけ仕事を辞めなきゃいけないの、2人の子なんだから夫が働くなら私だって働きたい」って。

男性育休「ぜひとりたい」のは男子のほう

【原田】そうすると夫にも育休をとってもらって、2人で育児の時間を調整しながら働いていく必要があるよね。次に、男性の育休について意見を聞いてみたい。男性が育休をとって協力すれば女性がキャリアを中断せずに済む、あるいは早く職場に復帰できるのではと言われているよ。それについて男子はどう思う?

【曽我くん】僕は、男性も育休をとれる企業に就職したいと思っています。仕事も家事も夫婦で対等にやっていきたいので、それは育児でも同じですね。

【原田】すごい。男性の育休取得が男子の就職先を選ぶ一つの選択肢になっているんだ。

【落合くん】育休はとれるならとると思います。でも3〜4年とか長期間は無理ですね。キャリアに影響が出るだろうし、職場に戻っても皆に追いつくのが大変だと思うから。3カ月ぐらいならぜひとりたいけど、それじゃ短すぎて奥さんが大変っていうことだったら、それこそ家政婦さんを頼むとか。

Z世代女子「家事育児センスがある人を選びたい」

【曽我くん】キャリアに影響が出ない範囲でっていうのは僕も同じです。ただ、今はリモートワークという方法もあるから、育休から仕事に復帰した後も家で育児しながら働くのは可能なんじゃないかな。そんな融通がきく会社を探したいです。

【鈴木さん】私は、家事育児のセンスがある旦那だったらぜひとってほしいけど、マストだとは思っていません。できないなら家にいられても邪魔なだけ(笑)。だったら、育児は私がやるから外で稼いできてって思っちゃう。できれば結婚相手にはセンスのある人を選びたいですけどね。

【原田】男子は育休に肯定的なんだね。その意見は、仕事との両立という意味では現実的だし、そういう若者は多そうな気がするよ。逆に鈴木さんはバリキャリ志向だけど、相手によっては休む必要なしかぁ……(笑)。それも現実的な考え方かもしれないな。

男子に肯定的な意見が多いということは、今後は男性育休が普及していきそうだね。男性が休んでも陰口を言われない、キャリアに影響の出ない社会になっていくように思ったよ。

家事のアウトソースについては、否定的な意見が多勢を占めました。仕事と家事の両立は大変とわかってはいても、やはり他人には家に入ってほしくないという思いがかなり強いようです。ただ、バリバリ働きたいと考えている女子は、ドラマの影響もあってアウトソース派に転じつつある様子。Z世代女子の間では今後、専業主婦希望者が減るにつれてアウトソース志向が強まっていく可能性もありそうです。

手料理についてもさまざまな意見が出ました。例えば北欧では、物価が高いため毎日の食事は手料理という家庭が少なくありません。これは、ワークライフバランスがしっかりしていて、夕方には帰宅できる働き方が根付いているためでもあります。日本はこうした北欧型か、前述の欧米・中国型か、どちらに向かうのでしょうか。Z世代が目指す働き方や価値観の変化に、今後も注目していきたいと思います。