鈴木 詩音莉さん/慶応義塾大学法学部3年生。結婚もキャリアも手に入れたい共働き派。女性
原田 梨々香さん/慶応義塾大学文学部1年生。家庭を持たず自由に働き続けたい独身派。女性
落合 聖仁くん/明治大学経営学部4年生。奥さんには家事育児に比重を置いてほしい派。男性
曽我 大晴くん/慶応義塾大学商学部2年生。仕事も家事も夫婦対等でいたい共働き派。男性
共働き派「職場で自分の世界を広げたい」
【原田】日本では昔から若い女性の専業主婦希望率が高くて、特に平成の間はずっと増え続けてきたんだ。でも君たちの世代では、一時的かもしれないけど逆に減ってきている。今回参加している女子は、専業主婦という選択肢をどう思っているのかな?
【鈴木さん】私自身もそうですが、周りにも専業主婦希望の人はほとんどいないです。私の場合は共働きの親の姿を見て育ってきたし、子どもにも今の自分と同じか、それ以上の生活レベルを与えてあげたいから。あと、家庭の中という限られたコミュニティで過ごすことにも抵抗があります。外に出て働いて、職場で新しい人間関係をつくっていきたいです。
【原田】昭和の理論で言えば、自分で働かなくても、稼げる男性と結婚すれば生活レベルは維持・向上させられるよね。もちろん、昭和の時代と比べると、一家の家計を一人で背負う程の収入がある男性が減ってきているのだろうけれども。それに今はSNSがあるから、専業主婦も気軽に新しいコミュニティをつくっていける。家庭以外にも世界を持つ「開かれた主婦」もたくさんいると思うんだけど。
【鈴木さん】人に頼るより、自分の生活レベルは自分であげたいかな。それに、私の周りでは、SNSで新しいコミュティを開拓している人はあまりいなくて、SNSの使い方って今いる友人を維持するためのものという感覚です。だから、やっぱり働いていたほうが開かれているイメージがありますね。あと、将来自分が専業主婦になって学生時代の友達と会ったら、働いていないことを負い目に感じそう。
家庭を持たずに働き続ける独身派女子も
【原田】どうして負い目になるんだろう。酒井順子さんが『負け犬の遠吠え』ってベストセラーを2003年に書いて、あの本は内実では未婚女性の応援歌の面もあったけれど、少なくとも表面的には、働かなくても食べていける女性を「勝ち組」と呼んでいた。
【鈴木さん】私たちの世代は親が共働きの人も多いからかな。祖父母の時代は「男は仕事、女は家庭」が普通だったと思うんですけど、今は、夫婦は対等で支え合って生きるのが普通という感覚ですね。だから自分も働いていないと「対等」が崩れちゃう気がします。
【原田(梨)さん】私の場合はちょっと違って、母は専業主婦ですが、私は結婚願望も子育て願望もありません。だから専業主婦っていう選択肢もないですね。家庭があると、例えば海外に住みたいと思っても気軽に行動できないでしょう。自分のやりたいことを優先したいから、家庭は持たずにずっと働いていくつもりです。
【原田】自分のやりたいことを優先してきて、結果、家庭を持たなかった、というパターンは過去にいくらでもあり、それが日本の生涯未婚率の上昇と関係していそうだけど、今後は、最初から家庭という選択肢を想定しない、という人たちも増えていくかもしれないね。周りにもそういう人は多いの?
【原田(梨)さん】友達には、結婚したくないという人はいないです。就職はするけど早く結婚して、それで早く仕事を辞めて専業主婦になりたいという子もいます。友達の間では、結婚したくないのは私だけです。
我が強い「欲張り女子」が多い
【鈴木さん】結婚したくないという人は、私の周りにもあまりいないです。私も含めて、将来もずっと働き続けたいっていうバリキャリ志向の子がほとんどだけど、それでも結婚はしたい。私たちの世代は我が強い女子が多いのかも(笑)。だからこそ欲張りで、手に入るものは全部ほしいと思っちゃう。
【原田】なるほど。原田さんが結婚したくない理由も「自分のやりたいことを優先したい」だったから、我が強いうちに入るのかもしれないね。でも、原田さんの周りの子たちは専業主婦志望なわけだから、同世代の特徴とは逆のように感じるな。どうして専業主婦になりたいんだろう。
【原田(梨)さん】仕事を選ぶ基準がお給料だったりして、仕事そのものにはあまり意欲がないから早く辞めたいのかも。そもそも自分がお給料をそんなにたくさんもらえると思っていなくて、だから男性に頼りたいという人が多いです。でも、玉の輿に乗りたいとか高望みしているわけじゃなくて、つつましい生活でいいって。無理して努力するより、ただほのぼのと暮らしていたいのかな。大学に進学せずに高校を卒業して働き始めている友人にこのタイプが多いです。
「専業主婦になりたい理由」も大きく変化している
【原田】あくまで仮説だけど、君たちの話を総合すると、高学歴女子の間で昔以上にバリキャリ志向が高まっていて、そうでない女子たちの間では専業主婦志向が根強い、ということかな。平成の途中までは、高学歴女子でも専業主婦になるのが当たり前の時代があったけど、さすがにそれは少なくなっているんだね。
で、高学歴女子の対極にあるマイルドヤンキー女子は、そもそも金銭欲も物欲もそれほどないし、仕事を頑張ったところでそれほどお金ももらえないから頑張りたくない──。それもまた、イマドキの若者っぽい層と言えそうだね。夫が稼げるように支えたいわけでもなく、つつましい収入で「まったり専業主婦」を目指しているところが特徴的だな。
【落合くん】そうだと思います。この前バイト先で、女性が働き続けたいか専業主婦になりたいかには、学歴が関係しているんじゃないかという話が出ました。勉強で努力してきた女性は、給料うんぬんより働くこと自体にプライドを持っているんじゃないかと。そうでない人は、お金がないから働く、お金があれば働かない、というふうになりやすいのかなと思いました。
【原田(梨)さん】そうですね。先ほども言いましたが、私の周りの専業主婦になりたい子には、高校を卒業してすぐ働き始めた人が多いです。
【落合くん】僕の内定先では、同期の女子で専業主婦になりたいという子はゼロです。結婚も、自分より収入や地位が高い人としかしないって言い切っています。でも正直、僕はそういう女性とは合わないかも。気が強い人は得意じゃないので……。
【原田】その同期の女子の意見もわかるけど、今は男性の収入も減ってきているから、稼げる人となると対象がかなり限られそうだよね。そう考えると、原田さんの友達のほうが現実的なのかもしれない。ところで男子は、結婚したら奥さんには働いてほしいのかな。それとも専業主婦になってほしい?
互いに依存する夫婦にはなりたくない
【落合くん】自分の給料だけで2人生活できるってわかったら、働くかどうかは奥さんの意思に任せます。生活できるなら「絶対に働いてくれ」とは思わない。「働きたくないからあなたと結婚しました」という考え方でも全然OKです。
【曽我くん】僕は、2人とも同じぐらい働いて同じぐらい家事をする、対等な関係がいいです。ちょっと前、政治家の岸田文雄さんが奥さんとの写真をツイッターに上げて、それが主と家政婦みたいだって話題になったじゃないですか。あれをきっかけに、サークルの女子と「互いに依存する夫婦にはなりたくないね」っていう話になって。収入は夫に、家事は妻に100%依存するような生活は嫌だよねって、周りも皆同じ意見でした。
【原田】まあ、政治家の奥様は恐らく普通の専業主婦では全くないと思いますが(笑)、あの写真は随分若者たちには不評だったみたいだね。平成の間、若年女子の専業主婦志向は高まり、逆に若年男子の奥さんに働いてほしいという願望はいろいろな調査で高まっていて、このギャップが若年層の未婚化につながっていた、と言われていたけど、どうやらこのギャップは薄まりつつあるようだね。
僕の女性観が変化した瞬間
【原田】落合くんは、収入さえ確保できれば奥さんは専業主婦でも共働きでもいいわけだね。逆に曽我くんは、奥さんも自分も同じぐらい働く生活がしたいと。岸田さんの写真を見る前からそう思っていたの?
【曽我くん】以前は、奥さんには家で子育てしてほしいと思っていました。でも大学でサークルに入ったら、頭がよくてリーダーシップもある女性がたくさんいて、考え方が変わったんです。性別に関係なく人として憧れるし、こんなにかっこいい人たちが社会で活躍しないのはもったいないなと思うようになりました。
【原田】女性観が変わったんだね。今はそういうかっこいい女性も増えているから、曽我くんと同じように考える男子も増えていくのかもしれないね。逆に落合くんのように、稼ぐ自分と専業主婦という形をアリと考えている男子も依然として存在する。そう考えると、「男は仕事、女は家庭」の時代に比べて、女性の選択肢はより広がったと言えそうだね。
今回参加してくれた女子2人は、専業主婦になりたくないという点では同じでも、その中身は「共働き派」と「そもそも結婚しない派」に分かれました。ただ、彼女たちの周りでは結婚しない派は少なく、結婚後の形としては、大学生では共働き志望が多く、高校を出てすでに働いている若者では専業主婦を希望する人も多いように見受けられました。
さらには、Z世代では専業主婦像にも変化が起こっているようです。玉の輿に乗ってぜいたくに暮らす、あるいは夫の収入が上がるよう支えるといった主婦像は姿を消し、頑張らなくても手に入る範囲の収入で「ほのぼの、まったり」暮らす生活をイメージしている様子。これは、日本人全体の給与が下がりつつある今、ある意味現実的な考え方とも言えるかもしれません。
では、若い女性の共働き志向やまったり主婦志向は、結婚後の生活にどんな影響を与えるのでしょうか。次回からは、家事分担のありかたなどについて若者の意識を探っていきたいと思います。