3年前にiPhoneのゲームアプリ「hinadan(ひな壇)」を公開して以来、「世界最高齢プログラマー」として国内外のメディアから注目を集めてきた85歳の若宮正子さんが、プログラミングを学び始めたのは80歳を過ぎてから。新型コロナによる外出自粛期間中も、「自分のしたい勉強をする時間ができた」と語る若宮さんの、学び続ける原動力とは——。
ニューヨークの国連本部で講演する若宮さん(写真=本人提供)
ニューヨークの国連本部で講演する若宮さん(写真=本人提供)

「ステイホーム」のおかげで勉強する時間ができた

高齢者も楽しめるiPhoneのゲームアプリ「hinadan」を2017年に開発してから、「にわか有名人」になりました。国内外の会議に招かれたり、全国各地の講演会に呼ばれたり、勉強会の講師をしたりと、忙しい日々を過ごしていました。

若宮さんが開発したiPhoneのアプリ「hinadan」。現在、英語や中国語、韓国語にも対応し、11万ダウンロードを超えている
若宮さんが開発したiPhoneのアプリ「hinadan」。現在、英語や中国語、韓国語にも対応し、11万ダウンロードを超えている

ですから、新型コロナによる外出自粛で、自分のしたい勉強をする時間ができたのは、個人的にはありがたかったです。

ステイホーム期間中は、中高生向けの情報科講座やプログラミング講座などをテレビで見ましたが、専門家の方がわかりやすく解説されていて、大人が見てもすごく勉強になるんです。こんなに質の高い授業を、家にいながらにして無料で見られるなんて、本当に感謝です。

また、3年前にプログラミングを学んでアプリを開発してから、プログラミングの世界もずいぶん進んできて変化しているので、新しい技術を勉強したいと思い、本を読みながら学んでいます。

途中でやめたってかまわない

音楽も楽しんでいます。75歳からピアノを習い始め、最近まで続けていたのですが、85歳になると指が思うように動かなくなって……。パソコンは指1本でも打てますが、ピアノはそういうわけにはいきませんからね。でも今は楽譜を読み取って演奏してくれるような音楽ソフトがありますから、そういったものを使って楽しんでいるんです。

●年ごろの若宮さん(写真=本人提供)
30代初めごろの若宮さん(写真=本人提供)

「学び続けるにはどうしたらいいのでしょうか?」

若い人たちからよく聞かれる質問です。私が学び続けている理由は、「楽しいから」ということもありますが、「若い頃に向学心が満たされなかったから」というのも大きいかもしれません。

私が小学生の頃は戦争中でしたから、外国の歌は歌えなかったり、本も思うように手に入らなかったりと、できないことがたくさんあったんです。中学生くらいになってようやく児童向けの本が手に入るようになったので、むさぼるように読みました。おなかも満たされていなかったけれど、向学心も満たされていなかった。飢餓感があったから、今も「勉強ができてうれしい」「本が読めてうれしい」という感じなんです。

でも、何か勉強を始めたからといって、「とことんモノになるまで続けないといけない」とは思いません。そこは無理をしなくてもいいと思うんです。途中でいやになったらやめてもいいんです。

私は若い頃に日本舞踊を習っていましたが、からっきしダメで、モノにならずやめてしまいました。でも、日本舞踏で使われる楽曲がわかるようになったので、歌舞伎を楽しめるようになったんです。何かを学ぶと、始める前より確実に知識が増えている。途中でやめても、知識はちゃんと残るのです。だから全くのムダにはなりません。

ですから、ちょっとでも興味を持ったならば、やってみたらいかがでしょうか。

私は80歳を過ぎてからプログラミングを学び始めましたが、「よくそんな決断をする勇気がありましたね」と言われることがあります。でも、私がプログラミングをしたからといって誰が困るわけでもないし、ソフトも無料でダウンロードできるからお金もかからない。仕事として引き受けているなら、途中でやめられませんが、趣味なんですからいつでもやめられます。

逆に「どうして決断や勇気がいるんですか」と聞いたら、「挫折をするのがこわいんです」と答えた方がいらっしゃいました。でも私は、失敗はたくさんしたほうがいいと思うんです。失敗の積み重ねこそが、何かを作り出す力のもとになりますから。

失敗や間違いこそが“3Dの人生”をつくる

私は子ども向けのパソコン教室のお手伝いをすることもあるんですが、ほかの子が作ったロボットは前に進むのに、自分のロボットは前に進まないというお子さんもいます。親としては、スムーズに動いてほしいかもしれませんが、それだと学びが少ないし、頭にも残りません。

うまくいかなければ、どうして進まないのか調べるでしょう。プログラミングがおかしいのか、ロボットを形作っている段ボールに不具合があったのか考え、いろいろ試して試行錯誤します。子どもにとっては、学ぶ機会がたくさん与えられるわけです。

私は40代の頃、英語学校に通っていたことがあるんですが、1年間通った最後の授業で、なんと私が「素晴らしい生徒」として表彰されたんです。なぜかというと、私が1番多く間違えたから(笑)。

先生はこんなふうにおっしゃったんです。

「たくさん間違えたことで、若宮さん自身もたくさん学ぶことができたと思います。それだけでなく、一緒に勉強した仲間も、若宮さんが間違えているのを見て『あれは間違っているんだな』と勉強になったはずです。さらに教える側の私も『こう教えるとわからないんだな』と勉強になりました。ですから、クラスに一番貢献したのは若宮さんなんです」

もし一生を振り返ったとき、第一志望の学校に受かり、自分の希望した会社に入ることができ、結婚もしたいときにすぐにできて、何の失敗や挫折もなかった人生だと、“3D”にはならないと思うんです。いろいろな失敗や間違いがあって、でもみんなに助けてもらって、山あり谷ありの“3Dの人生”をおくったほうが面白いんじゃないの? そう思うんですよ。

人生100年時代は「ハッシュタグ型」で行こう

withコロナの時代は、経済やビジネス以外の知識が重要になってくると思うんです。すごく難しい計算式を使って経済予測をしても、コロナや大水害でガラっと変わって外れてしまいますよね。これからは、いろいろな知識やアイデアを持つ人が集まることが大事なんじゃないかと思います。

そこで目指したいのが「ハッシュタグ型」人間です。#ガンダム、#オヤジバンド、#プログラミング、など、いろんな趣味や関心、興味などのハッシュタグを持つ人のことです。共通のハッシュタグを持つ人同士が交流したり、自分にはないハッシュタグを持つ人に関心を持って、また交流が生まれたり。

その対極にあるのが、狭い箱に入って暮らしている「フォルダ型」人間です。パソコンの中のフォルダのように、「日本」というフォルダの中の「○○」という会社のフォルダに入っている人というイメージです。

いわゆる「不機嫌老人」といわれる、いつも不機嫌でイライラした高齢者というのは、おそらくフォルダ型人間なんでしょうね。ずっと入っていたフォルダの中から、いきなり裸で外の世界につまみだされて、どうしていいのかわからなくなって不機嫌になっているんです。

ハッシュタグで誰かとつながると、またいろいろな情報が入ってきます。ハッシュタグがたくさんついている方が、人生が豊かになるでしょう。

興味のあることにはどんどんトライして、ハッシュタグ型人間になりましょう。一生懸命働く女性は、つい実益ばかりを考えてしまいますが、実益を考えずに飛び込んだところから思いがけず実益を生むこともあります。どんどん飛び込んで、自分のハッシュタグを増やしていくと、人生もっと楽しくなるんじゃないかと思います!