コロナショックによる一斉休校や夏休みの短縮などは、子どもたちにどんな影響を与えているのでしょうか。行き渋りや不登校の増加も予想される中、親が気をつけるべきこととは──。不登校専門カウンセラーの伊藤みゆきさんに聞きました。
母親に励まされた子供
※写真はイメージです(写真=iStock.com/takasuu)

一斉休校の後、不登校の相談が急増

私は不登校で悩むお子さんやそのご家族をサポートする、一般社団法人「不登校支援センター」で、お子さんや親御さんのカウンセリングを行っています。

今回のコロナショックでは学校が一斉休校になりましたが、その影響が最近になって徐々に表れ始めてきました。

私が所属する名古屋支部では、休校明けの2週間後ぐらいから明らかに相談件数が増えています。例年、7月の新規相談は10件程度なのですが、今年は30件を超えるご相談がありました。また、以前は中高生のお子さんの相談が中心だったのに、今は小学校低学年から大学生までと世代が広がっています。

私たちカウンセラーも「今年はいつもと違うな」と強く実感しています。これには、コロナショック特有のストレス要因が関係しているようです。

続く「見慣れない風景」に緊張

「長い休校期間が明けて登校してみたら、以前の日常風景がすっかり変わってしまっていた」──。そう感じるお子さんが増えているのではないでしょうか。

今は教室でも、マスクをつける、昼食はおしゃべりせずに食べるなどさまざまな感染対策がとられています。お子さんたちにとっては、通常であれば新しいクラスに慣れてくる時期のはずなのに、「見慣れない風景」が続くということになります。しかも、これがいつまで続くのかわからない。私たち大人にとっても初めての経験ですし、気疲れしてしまう時もありますよね。それはお子さんにとっても同じかもしれません。

「学校に行きたくない理由」を探すのは後回しに

多くの小中学校では、8月から夏休みが始まりました。夏休みは、お子さんにとって心を休める時間でもあり、2学期に向けて気持ちを整える時間でもあるのですが、今年はコロナの影響によって多くの学校で夏休みが短くなっています。

そのため、落ち着いた心を取り戻すための時間がほとんどありません。このままで行くと、2学期に向けた心の準備ができないまま夏休みを終えてしまうお子さんが増えるのではと心配しています。

こうしたストレスは、多くの場合、行き渋りや不登校という形で現れてきます。ある日突然「今日は学校に行きたくない」と言われたら、親御さんとしては「どうして?」と聞きたくなるもの。でも、理由探しをするのは後にして、まずはお子さんの気持ちに寄り添っていただきたいのです。

「行きたくない」という言葉が出てくる時、本人はすでにいっぱいいっぱいになっていることがほとんどです。コップで例えると、水があふれる限界ギリギリの状態と言えるでしょう。ここで理由探しをしたり「頑張って学校に行きなさい」と命じたりすると、「わかってもらえなかった」という思いでストレスが高まり、水があふれてしまうような結果につながりかねません。

まずは「そうなの、行きたくないんだね」「今どんな気持ちなの?」というように、お子さんの気持ちを共有する姿勢が大事だと思います。「行きたくない」と言われると親御さんはドキッとするでしょうが、コップの水があふれる前に、気持ちに寄り添うことは、お子さんの気持ちの余裕につながります。

親がわかってくれたということで、お子さんの心がスッと楽になることも多くありますので、「話してくれてありがとう」という気持ちで、ぜひ寄り添ってあげてください。

本当は、ギリギリになる前に予兆のようなものが見えるといいのですが、これに気づくのは難しく、親御さんはもちろん、私たちカウンセラーでも気づけないことがあります。

予兆の例としては、いつもはよく話しかけてくるのにそれがない、友達の話をする時にネガティブな言葉が混じる、などが挙げられます。ただ、これはお子さんによって本当に千差万別なので、たとえ気づかなくても決してご自分を責めないでください。

時には休む親の姿を見せる

もし、普段とはちょっと違うなと感じたら、「最近元気ないね」というような声かけができるといいですね。そのためには、普段の様子をよく知っておくことが大事になってきます。また、普段から気軽に声をかけ合える関係をつくっておくと、お子さんもギリギリになる前に気持ちを伝えやすくなるでしょう。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で在宅勤務になり、お子さんと過ごす時間が増えたという人も多いのではないでしょうか。一緒に過ごす時間がある今のうちに、普段の様子の把握や関係づくりに努めていただけたらと思います。

ただ、コロナウイルスの影響で日常が変わってしまったのは親御さんのほうも同じです。家で仕事をしながら「子どもの様子もしっかり見なきゃ」と気を張っていると、気づかないうちにストレスがたまってしまうこともあるでしょう。ですから、親御さんも少し気を抜くことを意識してみてはいかがでしょうか。

そして、気を抜いている様子をお子さんにも見せてあげてほしいのです。多くの子どもは、大人が思う以上に親を完璧な人間だと思っています。だからこそ、学校に行きたくないとは言いづらいのです。

誰だって時には心や体が弱るもの。時々「お母さん疲れたからちょっと休憩するね」と言って休む姿を見せていれば、お子さんも自分の不調を安心して伝えられるようになると思います。

では、「行きたくない」と言われたら、そのまま休ませていいのでしょうか。私たちは、まずは「行きたくない」という言葉の裏にある気持ちや背景を聞いてあげてほしいと思っています。気持ちがいっぱいいっぱいの時に無理やり登校させようとすると、逆効果になってしまうことが少なくないからです。

この時に気をつけたいのは、“罰”を与えないことです。親はつい「学校に行かないのなら家で●●しなさい」と言ってしまいがちですが、そうするとお子さんによっては罰を受けたと感じることがあります。せっかく休むのなら、自己肯定感が上がる過ごし方をさせたいもの。できれば、どんな過ごし方をしたいか本人と話し合って決めていけるといいですね。

不登校は、早い段階でのサポートが大切

とはいえ、朝の忙しい時間帯、仕事に出かける直前に「行きたくない」と言われたら、話し合う時間もないでしょう。でもそんな時も、1分でいいので足を止め、手を止めて話を聞いてあげてください。共感を示した上で、火元など留守番中に最低限気をつけるべきことを話し、「帰ってきたらちゃんと聞くね」という言葉を伝えてあげれば、それだけでお子さんの気持ちは軽くなることも多いです。

時間をとって話を聞くと、お子さんは、「昨日、好きな番組が録画できなかったから」とか、大人からすると学校とはまったく関係ないような、稚拙な理由を挙げてくることもあります。でも、本人としてはあの手この手で自分の心を鎮めようとしているのです。稚拙な言い訳は、ワラにもすがりたいという切ない気持ちの表れ。そうした視点を持って最後までしっかり話を聞くと、きっと本当の気持ちが見えてくると思います。

不登校には、①予備期 ②初期 ③本格期、④安定期 ⑤登校刺激時期 ⑥経過観察期の6段階があると言われています。①はコップの水があふれる前の「予兆」が出ている段階、②はコップの水があふれて腹痛などの身体症状を訴え始める段階です(図表1)。

不登校の6段階
一般社団法人不登校支援センター提供

③の「本格期」と④の「安定期」は、学校を休んでいるという点では同じですが、前者は本人に、学校を休むことに対する罪悪感がある、後者は、罪悪感にふたをして考えないようにしている点が大きく違います。そして⑤は学校に気持ちが向き始めるリハビリ段階、⑥は登校を始めて再発防止が重要になる段階です。

できれば、学校を休まざるを得ないほど、お子さんにストレスがかかる前に、①の予備期や②の初期の段階で、しっかりサポートしてあげたいですね。そのためには、親御さんとお子さんの間に遠慮なく話し合える関係ができているかどうかが大切になります。この土台を、ぜひ今のうちにつくっておきましょう。

親も、悩みを抱え込まないで

お子さんが苦しい時は親御さんも苦しいもの。特に働く女性には、仕事、母、妻、ひとりの人間としての自分、とたくさんの役割を持っている人が多いでしょう。これらをしっかり演じ分けようと思うとストレスも大きくなりますから、時にはお子さんの前でも「一人の人間としての自分」を出してみてはいかがでしょうか。

加えて、お子さんに関する悩みもひとりで抱え込まないようにしていただきたいのです。ご主人やお友達に話をしたり、それが難しければ私たちのような第三者に相談するという手もあります。行き渋りや不登校への対応は、お子さんによって、また家庭状況によって千差万別。誰かと一緒に考えていくことで、少しでも肩の荷を降ろしていただけたらと思います。