幸せと不幸せは反対の概念ではない
パーソル総合研究所との共同研究「はたらく人の幸せに関する調査」では、現在、国内で働く人たちの「幸せ」について調査研究し、その実態を明らかにすることができました。
働く人の幸せについて、今回の研究で注目したのは、幸せと不幸せは反対の概念ではないのではないか、という点です。従来の研究における主観的幸福感は、幸福度の高低を測定し、表すことが多く見られました。幸福尺度点数の高い人は「幸せ」であり、低い人は「幸せでない」と。つまり、幸せと不幸せが両極に位置していました。けれども、人は、幸せと不幸せを同時に感じることもあり、また、そのどちらも感じないこともあります。つまり、幸せと不幸せは反意語ではないのではないのか、というのが本研究の着眼点の面白いところです。
「はたらく幸せ」につながる7つの要因とは
ではなぜ、「幸せ」であることが良いのでしょう。世界中の研究者から、幸せな人は創造性や生産性が高く、欠勤率や離職率が低く、健康で長寿であるという研究結果が報告されています。つまり幸せであることが、あなたのライフとワークに素晴らしい影響を与えるのです。
今回の調査では、まず働く人たちが「幸せ・不幸せ」を感じる場面の洗い出しを実施。その結果を基に質問項目を作成し、「はたらく人の幸せ/不幸せ診断」を開発しました。
はたらく人の幸せの7因子と不幸せの7因子は、図表2の通りです。
例えば、仕事を通じて新たな学びを得たり、成長したいという欲求を持っていたり、仕事や自身の活動を通じて社会や人の役に立ちたいという意識を持つ人は、幸せな状態であることが見受けられます。
反対に、慢性的な超過勤務で心身ともにストレスを感じていたり、正当な評価を得られていないという感情を抱いている人は、不幸せを感じています。
そして、はたらく幸せを感じながらも、超過勤務に陥っているために同時に不幸せを感じている人もいるのです。
私は何タイプ? 幸せ/不幸せの4タイプ
先にご紹介した、幸せ・不幸せの7因子とは別に、私たちは「はたらく幸せ/不幸せ実感」も聴取しました。
この5つの問いに対する回答結果から、はたらく幸せ実感の約68%が「はたらく人の幸せの7因子」によって、はたらく不幸せ実感の約46%が「はたらく人の不幸せの7因子」によって説明できることがわかりました。また、「はたらく人の幸せ/不幸せ診断」の得点の高い人ほど、はたらく幸せ/不幸せ実感が高いということもわかりました。
はたらく幸せ/不幸せ実感を分布図にまとめたころ、幸せ実感が高いほど、不幸せ実感が低い傾向にはありましたが、どちらも高い、どちらも低いという人も一定数いることが明らかになりました。そこで、はたらく幸せ/不幸せ実感の得点をもとに、5つの群に分類。特徴的な4つのタイプを分析してみました(図表4)。
ただし、これは今回の調査全体を通して言えることですが、この結果はあくまでも今回の調査を基にしたデータです。
全体の43%を占めたのは、「幸せ×不幸でない」群。この群の特徴は、成長志向が非常に高く、人間関係も重視するタイプの人が多いことです。業種としては教育や学術研究などに携わる人、経歴・役職としては大学院博士課程修了、部長以上の人が多く見られました。4タイプ中、年収が最も高かったのもこの群です。もちろん、年収は地位財といって、長続きする幸せではありませんから、自己成長や他者貢献などが幸せ実感を押し上げているという点が、この群の大きな特徴と言えるでしょう。
次に多かったのが「幸せでない×不幸せ」群です。成長志向、独立志向が低く、人間関係も希薄であることが特徴です。3番目は「幸せでない×不幸せでない」群。この群も、成長志向、独立志向、ステータス志向が低いことが分かりました。最後が「幸せ×不幸せ」群。一見、矛盾しているように感じられますが、この群の特徴は、独立志向が非常に高く、ステータスや地元志向も高い点です。公務員や金融関係の仕事に従事する人、20代の男性に多く見られました。
繰り返しになりますが、これはあくまでも今回の調査の範囲での結果です。今は幸せを実感できなくても、個人として幸せ/不幸せの各7因子を意識し、幸せの条件を満たせるような毎日を過ごしていけば、自然とはたらく幸せは高められます。
なぜ管理職は幸福度が高いのか
読者のなかには、マネジメントする立場の方も多くいらっしゃると思います。一般的に管理職というと、上司と部下の板挟みとか、重圧に耐えているといったイメージを抱きがちですが、実は先ほどご紹介した4つのタイプのうち、「幸せ×不幸せでない」群には、部長以上の役職に就く人が多く見られました。これはなぜでしょう。
冒頭でお伝えした「はたらく人の幸せ」7因子には、自己成長・自己裁量・役割認識・他者貢献といった因子が含まれています。管理職の幸福度が高い理由は、人を育てるということに加え、上記因子が影響していることがわかります。加えて、成長実感を持ちながら仕事をしている人は、当然、周りからも認められ、さらに責任のある役職を手に入れて昇進していくという要因も大きいでしょう。
成長実感をもてるマネジメントを
逆にいうと、上司は、メンバーに対して、ただやらせるのではなく、成長実感を持てるようにマネジメントすべきだといえるでしょう。また管理職でない人も、「私は管理職ではないから、幸福度は低いのか」ではなく、常に主体性をもって、創造性を発揮しながら、自分ごととして仕事に取り組んでいれば、自ずと、はたらく幸せを実感できるようになるのです。
何度もお伝えしていますが、私の研究する幸福学では、幸せの順位づけをするために研究をしているわけではありません。今回の研究報告をご覧になった人たちが、それぞれ携わる仕事において、自分たちの特徴を知り、良い部分は伸ばし、良くないと思う部分については改善するきっかけになればと思います。チームメンバー全員で創造性を発揮しながら、より良い職場、より良いチームを作るための手がかりになっていれば嬉しく思います。