新型コロナウイルスの感染が広がり、離れて暮らす高齢の親にも簡単に会いに行くことができなくなっています。しかし「電話で話すと元気がない」「ちょっと様子がおかしい気がする」と不安をもらす人も。まだまだ予断を許さないコロナ禍ですが、離れて暮らす親のためにどんなケアができるのでしょうか? 親に何かあったらどうすればいいのでしょうか? 「遠距離介護」に詳しい太田差惠子さんに聞きました。

離れていても、できることがたくさんある

太田差惠子さん
太田差惠子さん(写真=本人提供)

「遠距離介護」とは文字通り、離れて暮らす親をケアすることです。ただでさえ、遠距離介護と聞くと、時間的にも経済的にも負担がかかるという、デメリットばかりが思い浮かびます。たとえば、行き帰りに時間がかかる、何か手続きが必要なときは、平日に仕事を休んで行かなければいけない、体力的にもしんどい、交通費がかかる……。しかもコロナ禍では、気になることがあっても、簡単に親元に駆け付けることができません。

しかし、「親の様子がおかしい」「心配だ」といって、すぐに同居を考えないでほしいと思います。離れていてもできることはたくさんありますし、実はメリットもあるのです。

デメリットだけじゃない! 離れて介護をすることのメリット

メリット1:介護で行き詰まりにくい

何といっても離れて暮らしているので、介護で行き詰まったりすることがありません。やはり実の親子であっても、価値観は違いますので、四六時中一緒にいると、腹立たしいことも起こります。そういった気持ちが起こったときに、同居していると、その気持ちをずっと引きずってしまいます。

しかし遠距離介護なら、一度自宅に戻れば気持ちがリセットできて、また次に笑顔で会いにいくことができます。お互いにやさしくなれるわけですね。

メリット2:生活を変えなくていい

離れて暮らしながら介護をするわけですから、仕事をやめる必要もなく、今の生活をそのまま続けられます。介護が長引けばお金がかかるかもしれませんし、自分の老後にも備える必要があります。これまで自分が築いてきたキャリアをあきらめることなく、これまでとほぼ変わらない生活を続けられるのは大きなメリットです。

「様子がおかしい」「認知症の症状が出てきた」からといって、即、同居や施設入居が必要なわけではありません。自治体の制度やさまざまなサービスを上手に使えば、自分の生活をできるだけ変えず、親と離れて住みながら介護をすることは可能です。

また、これは「メリット」とは言い難いかもしれませんが、同居していないと、行政サービスが使いやすい面もあります。掃除や食事などの家事援助サービスは、子どもが同居していると利用できないことがあるのです。

ちなみに、身体の自由が利かなくなるなどして介護度が高くなった場合に入居する、特別養護老人ホームは人気が高く、入居の順番待ちがあることが多いのですが、子どもが近くに住んでいない場合は入居の優先度が高くなり、入りやすいという傾向もあるようです。

「おかしい」と思ったら、まずここに連絡を

親に異変を感じたら、まずすべきことは親の暮らす自治体の「地域包括支援センター」に連絡してみること。地域包括支援センターとは、介護や医療などから高齢者を支える相談窓口。対象地域に住む65歳以上の高齢者やその家族・支援者が利用できます。加齢に伴って心身の変化が生じた場合は、65歳未満でも相談が可能です。

これまで全くサービスを受けたことがなくても、今回のコロナ禍のように、すぐに親元に行けない事情を伝えれば、センターの職員が親の様子を見に行ってくれます。

センターには、現地の介護サービスに関する情報が集まっています。介護保険で使えるサービスはもちろん、介護保険を使わなくても利用できるものもあるので、相談してみるとよいでしょう。多くの自治体で、急病の際に通報装置のボタンを押すとコールセンターに連絡が行く「緊急通報システム」を無料または安価で利用できますし、ゴミ出しのサポート、安否確認や食事の宅配などもあります。

また、介護保険の申請は、通常は本人か家族が行いますが、申請代行をお願いすることもできます。コロナ禍で親元に駆け付けられなくても、できることはたくさんあるのです。

介護をマネジメントする「司令塔」になる

もし、認知症が進んだり、身体の自由が利かなくなって介護度が進んだとしても、自分が介護をするのではなく、司令塔になって介護をすすめていくことを考えましょう。直接の介護はプロに任せて、司令塔として情報を集め、親や介護の関係者とコミュニケーションを取り、介護を「マネジメント」することに集中するのです。

「マネジメント」という言葉は、ビジネスパーソンにとっては、なじみのあるもののはず。もし夫が、親の介護に関わることに消極的だった場合も、「マネジメントならあなたにもできるのでは」と説明すれば、理解してもらいやすいと思います。

仕事のマネジメント同様、介護のマネジメントでも、予算の管理が重要になります。

介護サービスを使うときは予算ありきですから、親がどれぐらいお金を持っているのか、介護にどれぐらい使えるのか、早めに把握しておく必要があるでしょう。義父母とお金の話はしにくいという人も多いでしょうから、その場合は実子が担当する方がよいかもしれませんね。

最初は在宅でサービスを受けながら生活していても、介護度が上がっていくと、介護施設への入居が選択肢に入ってくるかもしれません。するとますます、予算によって選択肢が変わってくるので、やはり早い段階で確認しておくことをお勧めします。

今のうちにやっておくべき3つの対策

これまでならば、何かあれば顔を見に行けばよかったかもしれませんが、withコロナ時代はそうもいきません。親と離れて住んでいる場合に、今のうちからやっておくべき対策は次の通りです。

対策1:地域包括センターに相談しておく

親が住む地域の地域包括センターに「親が一人暮らしをしていて心配だが、現時点で何か利用できるサービスはないか?」と連絡してみましょう。もちろん、直接足を運んで相談できるとよいですが、難しい場合は電話の相談でも十分です。緊急通報システムや安否確認、家事支援などのサービスが利用できないか、その自治体ではほかにどんなサービスがあるのか、調べておくと安心です(図表1)。

「最近足腰が弱っている」「物忘れが気になる」など、心配ごとがあれば、それもあわせて伝えておくとよいでしょう。場合によっては様子を見に行ってもらえるかもしれません。

さまざまな安否確認サービスの例
対策2:コミュニケーションの頻度を上げ、スマホ導入の検討も

コロナ禍では、様子がおかしいときにすぐに親元に駆け付けられないかもしれませんから、できるだけ早く予兆がつかめるよう、コミュニケーションの頻度を上げましょう。電話をかける頻度を増やすだけでもかまいません。

今年4月から5月に全国で出された緊急事態宣言中、私のところには、「離れて暮らす親に会いに行けず、顔が見られないのが不安」という声がたくさん寄せられました。せめてお互いが顔を見て話ができると、安心感が違います。

高齢者に、新しいツールを使ってもらうのは大変かもしれませんが、これを機に、ガラケーからスマホに変えてもらうのも手でしょう。LINEアプリだけでも使えるようにしておけば、ビデオ通話で顔を見ながらコミュニケーションをとることができます。子どもや甥、姪を巻き込めば、こうしたツールの使い方を覚えるモチベーションになるでしょう。

対策3:いざというときに頼れる隣近所の連絡先を把握しておく

親に何かあったときに様子を見に行ってもらえるように、親の家の隣近所や親せきなどにお願いしておきましょう。自分が生まれ育ったところに親が住んでいる場合は、小中学校の同級生が近所に住んでいるかもしれませんから、連絡を取ってみるのも手です。いざというときに誰に電話すればいいのか、その心づもりがあるだけで、気持ちは楽になるはずです。

「遠距離介護のノウハウ」は、「仕事と介護の両立のノウハウ」

長く遠距離介護の支援に携わってきましたが、最近では「『仕事と介護の両立』というテーマで講演をしてほしい」という依頼が増えてきました。遠距離介護のノウハウは、「仕事と介護の両立のノウハウ」でもあります。同居や近居であっても、仕事をしながら介護をするなら、「自分が司令塔となって介護をマネジメントする」というところは同じです。

介護で悩んでいらっしゃる方は、「できないこと」を数えてしまう傾向があるように思いますが、できることを数えると結構たくさんあるものなのです。

ただ、コロナ禍は、重症化リスクの高い高齢者が対象となる介護には大きな試練であることは確かです。離れて住む親のケアについて、考える機会としていただければと思います。