急落相場で投資信託を全額解約した人
新型コロナウイルスの感染拡大は世界規模で続いていて、未だ収束への目途は立たぬままですが、株式市場はまだ見えぬアフターコロナの経済回復を先取りして、大方コロナ前の水準へとリバウンドし、足元は安定を取り戻しています。リーマン危機以降、米国景気が息の長い拡大を維持していたことで、世界の株式市場は総じて右肩上がりの上昇基調を実現してきました。しかし、新型コロナウイルスの世界的感染が顕在化し始めた2月最終週から、マーケットは一斉に大きく下落に転じ、世界の株価はリーマン危機時にも経験し得なかった短期間での3割超もの急落へと及んだのでした。この間のマーケット心理は、未知のウイルス感染がもたらす実体経済へのインパクトの不確実性に怯えてのパニック状態で、急落の最中はどこまで下落するかわからぬ恐怖が相場全体を支配していたと言えましょう。
将来の為の資産形成へと行動を始めていた読者の皆さんの中にも、このタイミングで投資をやめてしまった人がいるのではないでしょうか。実際僕が経営するセゾン投信のお客さまの中にも、この時期に投資信託の全額解約へと動いた人が少なからずおられましたが、この方々の特徴として次の2つのパターンが多かったのです。
長い投資経験がある人も耐えられず……
ひとつは株式市場の右肩上がりトレンドを前提に最近長期投資を始めたばかりという人たちが、想定外の急激な下落相場で底なしの恐怖に襲われ、瞬発的に投資をやめて全額売却へと動いてしまったケース。
もうひとつは結構長い期間にわたって長期投資を続けてこられた方々で、相場が下落するたび毎日それまでの含み益が減っていくのを見て、何とか損失になってしまう前にと慌てて手放してしまったケースです。
いずれもその瞬間にはもっと下落すると判断して、投資家で居ることを放棄してしまったわけです。
この当時は更に下落が続くというムードが相場を覆っていましたが、急落が起こってから1カ月後には世界のマーケットが底打ちに転じました。先進主要国の迅速かつ大胆な金融緩和と巨額の財政投入が好感されたのです。こうした相場の潮目の変化はプロにとっても想定外に早く転換点が訪れました。このリバウンドは一時的なもので、再び下落に転じると考えていた投資家も多かったと思いますが、それからは総じて右肩上がりの回復です。
マーケットの見据える先はアフターコロナの新たな社会構造を前提にした経済成長の期待に向き始め、米ナスダック市場ではGAFAに代表されるIT大型銘柄が主導して再び史上最高値を更新しました。米欧日先進国に加え新興国の株式市場も連鎖して、コロナショック前の水準へ向けて上昇基調が続いています。
投資をやめてしまった人を待ち受けるもの
急落局面で投資をやめてしまった人たちの中で、始めて間もなかった人は短期間で損した体験だけが残り、これまで長期間投資を続けてきたのに降りてしまった人は、それまでの投資期間がすっかり無駄になってしまい、下落のあとにやってきた急回復相場の恩恵を受けることが出来なかったのです。
長期積立投資で資産形成を始めた人は、ゴールをずっと先の将来に置いていたはずなのに、目先の相場環境変化に耐えられず、目的を逸脱した行動をとってしまった。長期投資で将来の成果を実現するための肝は、途中で投資行動を変えないことです。ずっと投資家で居続けることによって下落相場にも遭遇しますが、必ず上昇相場にも乗っていられるのです。
常に同じ投資行動をとり続ける
当然のことながら、長期投資でお金が育つ時期は上昇相場です。長期的な経済の成長軌道に乗って経済活動の中でお金を育てていくのが、真っ当な長期資産形成のコンセプトなのです。
相場は短期的にはデタラメに上下動を繰り返します。コロナという短期的な相場の下落要因は、コロナが収束する前提でやがて在るべき水準に回帰し収斂するのですが、今回は特にマーケットがそれを先取りして早々に回復したわけです。将来にわたって経済成長が持続しているならば、やがて成長に相応な水準へと価格は上向いていくはずです。
繰り返しお伝えしますが、長期的な経済成長の果実をしっかり享受するには、下落を忍耐強く乗り越えて、上昇相場でお金をしっかり育てていくことが肝要です。つまりはいつも同じ投資行動をとる。即ち投資を継続することで、総体的に成長の養分を相応に取り込んでお金は育つのです。
やめた人と続けた人、数カ月で大きな差
セゾン投信の2つのファンドを実例に振り返ってみましょう。コロナショック相場直前だった2020年2月21日時点での両ファンドの基準価額はセゾン・バンガード・グローバルバランスファンド(SVGBF)が1万6232円、セゾン資産形成の達人ファンド(達人F)は2万4506円でした。
それから約1カ月後に両ファンド共に安値を付け、この間の下落率はSVGBFがマイナス約17%、達人Fは約30%のマイナスでした。そしてその後の両ファンドの基準価額は7月22日付でSVGBF1万5794円、達人F2万3273円と下落相場直前からそれぞれ約3%マイナス、約5%マイナスの水準までしっかり回復しています。
底値圏で投資をやめてしまった人と、下落局面をどっしり乗り越えた人とでは、たった数カ月の間にこれだけ大きな差がついてしまっているのです。今回の下落相場に耐えきれなかった人は、この残念な体験をこれからの経験知として、改めてコツコツと長期積立投資で再出発してみてください。ここまでの運用果実は得られずとも、「継続は力なり」を肝に銘じていれば、これから先の果実はしっかり取り込むことが出来ることでしょう。