若者のSDGsへの意識を探る座談会、第3回目はジェンダー平等についての意見を聞いてみました。日本企業で女性活躍が遅れている現状には、女子だけでなく男子も疑問を感じている様子。就活で彼らが経験した「男女平等の現実」とは──。司会と解説は原田曜平さんです。
ミーティング
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Yagi-Studio)
【座談会メンバー】
鈴木 詩音莉さん/慶応義塾大学法学部政治学科3年生。女性
島本 沙耶香さん(仮名)/早稲田大学社会学部4年生。女性
加藤 耀くん/東京理科大学理工学部2年生。男性
富山 連太郎くん/上智大学経済学部2年生。男性
寺田聡志くん(仮名)/慶応義塾大学経済学部4年生。男性
遠山淳(仮名)くん/明治大学文学部3年生。男性

女性管理職数より人事部の男女比

【原田】SDGsの中には「ジェンダー平等を実現しよう」という目標があるんだけど、ここには職場における男女平等も含まれているんだ。でも、日本はこの点が遅れていると言われていて、女性の役員や管理職もまだまだ少ない。就活の時、その点を意識して企業を選んだ人はいるかな?

【鈴木さん】私は男女平等の会社がいいなと思って、企業説明会に出てくる人事部の人が男女同数かどうかを見ていました。例えば登壇者が2人なら、男性2人を出すのか、それとも男女1人ずつなのか。男女平等を意識しているのなら、学生に女性社員の話も聞かせようと思うはずですよね。企業の姿勢って、女性管理職が何人いるかより、そういう点に現れるんじゃないかと思います。

【島本さん】私は、男性社員の育休取得率をチェックするようにしていました。育休制度があっても、実際には休みにくい雰囲気があったりするかもしれない。その点、男性の取得率も高ければ大丈夫かなと思ったんです。それに、育休を女性だけでなく男性にも勧めている企業って、平等意識がしっかりしているなと感じます。

【寺田くん】就活生にとっては、説明会や面談で会う人事部の人がその企業の象徴。企業もそれはわかっているだろうから、SDGsに取り組んでいる、男女平等を意識しているって言うなら、男女同数を出してくるはずですよね。でも実際はすごくアンバランスで、何でなんだろうって不思議に思いました。例えば、僕は同じ業界の2社でインターンをしたんですが、A社の人事部は20人全員が男性、B社は全員が女性だったんです。

男職場は男子にとっても「気持ち悪い」し「古い」

【原田】それは極端だね。両方ともアンバランスだけど、寺田くんとしてはどっちのほうがより違和感があったのかな。

【寺田くん】全員男性のA社ですね。学生同士で「気持ち悪いね」って話してました。SDGsに取り組んでいるなら、パフォーマンスでもいいから女性を入れたらいいのに。結局そこが決め手になって、僕はB社で就活を進めました。後で聞いたら、B社では最前線で働き続けるのがかなり大変だから、無理なく長く働きたい人は人事部を志望するそうなんです。そういう人は女性に多いと聞いて「そういうことなのか……」と思いました。

【原田】でも、成果ではなくパフォーマンスで女性を起用するのは男女平等とは違うよね。ある企業の方から聞いた話なんだけど、女性役員や女性管理職を急激に増やしたせいで、男性社員から不満が出ている企業もあるそうなんだ。「女性だから昇進できたんだ」って女性管理職が陰口を言われることもあるそうで、せっかく女性管理職を増やしたのに本末転倒になってしまっている企業もあるようだね。

【寺田くん】僕は男だから、女性の起用で機会が減る側だけど、それでも、たとえパフォーマンスでも、やっぱり男女均等にしたほうがいいと思います。就活の時、ある企業の人が「もし女性を起用することでたとえ生産性が落ちたとしも、男女平等は正しいことだからその正しさを追求する」って言っていて。その信念、正しさを掲げる強さに胸を打たれました。

【遠山くん】僕はアメリカに留学したからかもしれないけど、白人だけの社会や男だけの社会って、それだけでもう「古いな」と思います。色々な民族や性別の人と一緒にやっていこうっていう考え方の企業で働きたい。就活でも「うちはそうですよ」って言ってくれるところを探すつもりです。

人事が語る「男性のほうが後伸びする説」

【加藤くん】女性活躍が遅れているのって、以前から不思議でした。中学でも高校でも、男子より女子のほうが宿題をちゃんとやってくる子が多かったから、僕の肌感覚だと男性より女性のほうが真面目で優秀なんですよ。なのに、職場で出世するのは男性のほう。これにはずっと違和感があります。

【原田】僕はずっと若者研究をしているので色々な企業の人事の方から相談を受ける機会が多いのだけど、「社会人初期は女性のほうが優秀だけど後で伸びるのは男性」っておっしゃる企業の人事の方はいまだに多い。そういった人たちは、自身の経験値の統計でそうおっしゃっているから確信を持ってしまっているわけなんだけど、そういう企業風土だから結果的にそうなっているのかもしれないし、あくまでこれまでの時代の話、あるいは、その企業だけの話かもしれない。島本さんと鈴木さんはどう思う?

【島本さん】その人事担当者の意見って、固定観念だけで話している気がします。女性は伸びないって思ってるからそう見ちゃうのかなって。私、ちょっとおこ(怒っている)ですね。活躍したい思いに性別は関係ないのに。

【鈴木さん】私もおこです。性別でくくって能力を判断されるなんて、意味がわかりません。

Z世代女子「女性は後伸びしない」に怒り

【原田】過去にある企業の人事担当者に聞いた話では、「女性は後伸びしない」って言うのには、彼らなりの根拠が2つあって、1つは「キャリアの途中で産休で抜ける」、もう1つは「リーダーとして伸びる人材は男性に多い」ということだそうなんだ。前者は自然の摂理で変えようもないけど、欧米のように家庭の中で家事と育児が両立されて早く産休から復帰できると改善できる可能性がある。後者の方は先程も言ったけど、偏見や時代がそうさせているのか、あるいは、仮に事実これまでそうであったのなら、どうしたら変えていけるのかを真剣に考えるべきなのだけれど……。

【図表1】共働きでも妻の家事・育児負担は夫の2.3倍

【鈴木さん】そんなこと言うのって男性じゃないですか? でも女性が言ったとしても嫌だな……。どっちにしても、そういう考え方の会社には行きません。

【島本さん】私も。ずっと働き続けるつもりだから、そんな考え方の会社には行けません。これまでのデータがそうだったとしても、女性が伸びないなんて偏見でしかないと思います。

【原田】この問題についてはかなりヒートアップしたね。確かに日本企業はまだまだ古い企業が多いので、就活生の、特に女子は大きな違和感をもつケースも多いんだろうね。君たちのようなZ世代(1990年代後半~2000年生まれの若者)が働き手の中心になるころには、日本は必ず変わるだろうと感じたよ。

今回の座談会は、Z世代の男女平等意識がよくわかるものでした。従来、日本では若い女性の専業主婦希望率が高く、特に平成の間はずっと上昇傾向にありました。しかし、Z世代を対象にした調査では逆に減少傾向を見せています。ここから考えると、働くということについては今まさに新しい世代、新しい考え方の女性が生まれつつあるのではないでしょうか。さらに、男子のほとんどが職場での男女比率に違和感を覚えていたことから、Z世代の男性にも同じことが言えそうです。

SDGsの中の男女平等について、企業は今後真剣に取り組む必要があるでしょう。意識するだけで実践していない企業に対しては、学生はすでにそっぽを向き始めています。この変化に取り残されないためにも、ぜひ男女平等への取り組みを加速していただきたいと思います。