クラウドファンディングで100万円の支援を呼び掛けたところ、1億円集まったという話題の製品がある。超吸収型生理ショーツBé-A《ベア》シグネチャーショーツだ。その開発は苦労と挫折の連続だったという――。

100万円の支援を呼び掛けたら100倍集まった

「イノベーションは一人では起こせないんです」

MNC New Yorkの山本未奈子代表取締役 CEOはそう話す。

2020年7月、クラウドファンディング界を揺るがす旋風が起きた。

MNC New Yorkのグループ会社であるBé-A Japanが開発した「超吸収型生理ショーツ Bé-A《ベア》シグネチャーショーツ」がクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で100万円の支援額を募ったところ、その100倍の約1億円が集まったのだ。これは同サイトの歴代支援額で7位以内(支援者数では5位)、ビューティ・ヘルスケア部門ではトップという快挙となった。

MNC New York 代表取締役 山本未奈子さん(写真=MNC New York提供)
MNC New York/Bé-A Japan代表取締役 CEO 山本未奈子さん(写真=MNC New York提供)

そこまで注目が集まった理由は、「生理の日にナプキンが要らない」というコンセプトにある。ショーツ本体が1日分の液体を吸収するのでナプキンが不要であり、なおかつ抗菌・防臭加工で蒸れやニオイも気にならない仕様になっているのだ。

この製品を開発したMNC New Yorkの創設者である山本未奈子代表と高橋くみ取締役は、UCL(University College London、ロンドン大学)時代の同級生だった。

二人は幼少期から日本と海外を行ったり来たりの生活であったことから、「日本の良さ」を感じる機会が多かった。

「生理用ナプキン」もその一つだった。「当時のイギリスやオーストラリアはタンポン中心で、インジケーターがないフィンガータイプばかり。そのうえ素材は段ボールのようだった。ナプキンは分厚くて使いづらい。日本で大量に日本製のナプキンを購入して持ち帰ったものです」と高橋さんは振り返る。

大学生の時に、いつかは一緒に起業しようと誓い合った二人が、実際に起業したのは2009年のことだった。

「日本で一番女性を幸せにする会社」をビジョンに掲げたMNC New Yorkは、美容研究家としての地位を築いていた山本さんの知見を生かし、化粧品やサプリメント、ファッションブランド、ヘアアクセサリー、スパの運営など美容分野のプロダクトを、高橋さんと二人三脚で幅広く展開していった。

米国の吸収型生理用ショーツには不満だらけ

そんな二人が、生理用ナプキンの代わりになる、吸収型の生理用ショーツに興味を持ったのは、3年前のことだった。

当時米国ロサンゼルスに住んでいた高橋さんの周囲では、吸収型生理用ショーツが流行し始めていた。

MNC New York 取締役 高橋くみさん(写真=MNC New York提供)
MNC New York 取締役 COO/Bé-A Japan 代表取締役 COO 高橋くみさん(写真=MNC New York提供)

「急に生理が始まって、ひやっとしたことがある女性は多いと思います。会議の時にうっかり、ということもありがちです。しかも私たちのオフィスは白を基調としており、イスまで真っ白でした。白熱した会議の時にハッとすることも少なくなく、山本と一緒に『何とかならないかな』と話すこともありました」と高橋さんは言う。

高橋さんは、吸収型生理用ショーツを米国で購入して、他のメンバーに使ってもらったのだという。

しかし、海外で販売されている製品は期待外れなものばかりだった。日本の女性が求めているような、十分な吸収力のある製品は見当たらなかったのだ。そのうえ、何度か洗うと、縫い目がほつれて漏れてしまうなど、耐久性にも不満があった。

これは、生理の文化の違いのせいでもある。米国の女性たちはタンポンの使用率が非常に高く、生理用ショーツは補助的に履くものという位置付けであった。また、ピルを服用している女性が多いため経血量が少なく、生理周期も確実で、いつ訪れるともわからない生理におびえる必要もない。

こうした背景から、日本女性には物足りない製品しか売られていないということがわかったのだった。

ジェンダーレスとサステナブルをかなえる製品を

この製品があれば、必ず女性の幸せを高めるものになるはずだ。また、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から考えても、ジェンダーレスを追求できる。さらに、女性は生涯で1万2000枚の使い捨ての生理用ナプキンを使用すると言われている。これを1枚で何度も利用できるショーツに置き換えることができれば、サステナブルな社会に貢献できるだろう。

そうした社会的インパクトのある製品がこの世にないのであれば、11年培ってきた自分たちの製品づくりのスキルを用いて、私たちが作り出せないだろうか――そこからこのプロジェクトは動き始めたのだった。

MNC New Yorkはファッションブランドを保有しており、製品開発のノウハウはある。しかし、下着というのは、その他の衣類よりももともと工程が多く、生産メーカーが限られる。それだけ複雑な製品であるため、ある程度の売れ行きが望めないものはそもそも作られることがない。

だからといって、妥協はできない。高橋さんをコンセプターとして、メンバー全員でどんな機能が必要かを喧々囂々けんけんごうごう議論した。山本さんが体の冷えを抑える機能は必ず必要だという考えから、それも仕様に盛り込み、すべてかなえてくれる生産先を探し回った。地域創生の観点から、国産にすることにもこだわっていたからだ。

工場からの門前払いにもめげず

下着メーカーをはじめ、さまざまな生産工場に企画を持ち込んだ。当初20社くらい連絡したものの、そのうち半分は返事すら帰ってこなかった。門前払いである。

技術的に作れないことやコストに見合わないことから断られることもあった。また、「生理を吸収したものを履き続けるなんて日本に合わない。そんなものが本当に売れるのか」とコンセプト自体を否定されてしまうことも多かったという。下着メーカーの場合は、吸収量の点がどうしても解決できず、生産には至らなかった。

それでも絶対に売れる――二人は確信していた。

企画から半年余りがたったころだった。ある工場が受注生産のOKの返事をくれた。ついに、企画を理解してくれる生産工場が見つかったのだ。そこで、あれもこれもとお願いしたら、「そこまではできない」とお断りされてしまった。

吸収型下着は、普通の洋服の3倍の工程がかかるという。5層にまたがる吸収体を作るだけで、普通のショーツの5倍の工程がかかってしまう。機能を増やせば増やすほど、工程はどんどん煩雑化していくため、メーカーの負担は非常に大きくなるのだ。

それでも、山本さんたちは「女性のためのイノベーションを起こしたいんです」と食い下がった。工場側が理解を示し、一からプロジェクトを仕切りなおした。

他の人が作れるものを作る必要はない

開発で大変だったのは、吸収量の確保と、耐久性だ。1日の吸収量として、水分120mlが必要と仮定し、さらに100回洗っても吸収力を維持できることを目指した。一度は一体型の試作品を作ったが、どうも洗いにくい。洗いやすさを考えて、パンツ一体型ながらパーツを2つに分けた。

超吸収型生理ショーツ Bé-A《ベア》シグネチャーショーツ(写真=MNC New York提供)
超吸収型生理ショーツ Bé-A《ベア》シグネチャーショーツ(写真=MNC New York提供)

山本さんのこだわりとして、お腹を冷やさないため、「テラヘルツ波」を放出するテラヘルツ鉱石をパウダー化し、お腹を覆う部分にプリントした。「吸収量・耐久性・保温性の3つの機能をそろえて出さないとイノベーションは起きない。他の人にも作れるものを私たちが作る必要はないからです」と山本さんは言い切る。

自分たちの理想とする製品を作るためには、一般的に販売されている生理用ショーツの何倍もの工程が必要だ。試作品を作るたびに試すのだが、生理が来るのは月に1度。試せる人数も限られており、なかなかデータが取れない。改良にも時間がかかった。

それでもようやく製品化にこぎつけ、2020年7月30日に「超吸収型生理ショーツ Bé-A《ベア》シグネチャーショーツ」を公式サイトにて販売することになった。

定価は6900円(税別)で、生理用ショーツだと考えれば非常に高額だ。その金額で生理用ナプキンの代用となるからには、製品の品質の立証が必須だと考え、吸収量と耐久性について公的機関で審査し、実証結果を得た。安価とはいいがたい商品だからこそ、徹底的に品質にこだわり、長く使ってもらいたいという姿勢を表したかった。

なぜクラウドファンディングか

先行して、6月1日からクラウドファンディングでプロジェクトを開始した。

この製品は今までやってきた美容の枠を超えた、世界共通の女性の悩みを解決するものだ。また、SDGsのジェンダーレスおよび環境にやさしいという観点からも、この世に必要な製品だろうと考えた。だからこそ、一般的な販売方法ではなく、多くの人に知ってもらうためにクラウドファンディングにチャレンジしたというわけだ。

そうした経緯もあり、クラウドファンディングの目標はたった100万円だった。ここで売り上げを立てたいと考えていたわけではなかったからだ。しかし、あれよあれよと寄付額は膨らみ、スタートからわずか3日で1200万円を達成。1カ月半後のプロジェクト終了時には、なんと1億241万円、9000人を超える支援者の寄付が集まったのだ。

このクラウドファンディングを通じて、このショーツに共感して寄付をした人々のさまざまな声から、思わぬニーズが集まった。たとえば発達障害のある娘を持つ親からの声だ。

「娘が発達障害でナプキンを交換するのを理解できず、このショーツを履かせたい」
「子どもの支援学校での先生は男性。生理の時に男性に分からないようにしてあげたい」

この商品を求める女性は、自分たちが想定している以上に幅広く存在している。そして、もっとそのニーズに応えたい――。

いずれ、ナプキンがいらない時代が来る

集まった1億円余りの資金の使い道として、まずは医療従事者にベアシグネチャーショーツを寄贈する。新型コロナウイルス感染症の影響で、医療従事者である女性たちは過酷な状況にさらされているからだ。

その一方で、新しい商品の開発に役立てる。

「まずは少女サイズのショーツです。周期が安定しない10代の女子にも、生理を意識せずに過ごす快適さを届けたいと考えています。もう一つが、服に響かないTバックタイプです。日本の高品質な製品づくりを世界に届けたいと考えています」

ベアシグネチャーショーツは、海外販売にも今後力を入れていく。「日本発」の素晴らしい製品を世に広めていきたいからだ。

「いずれナプキンがいらない時代が来ます」

山本さんは力強くそう語る。地球環境のためにも、ライバルが増えて市場が盛り上がることを期待しているという。

いつの日か二人で――。

海外から日本を眺めていた二人の少女の夢が、長い時を経て、日本で花開いた。若いころに抱いた高い志が羅針盤となり、自らをその地まで導いたのだった。