緊急事態宣言が解除されてから、再び東京での感染者が増えてきました。とはいえ、再び経済を止めるわけにもいきません。経営コンサルタントとして数多くの企業を支援する竹内謙礼さんが、Withコロナの時代を生き抜くための戦略を教えてくれます。

※本稿は、竹内謙礼『巣ごもり消費マーケティング「家から出ない人」に買ってもらう100の販促ワザ』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

ビジネスプレゼンテーションやセミナーでのボードルームテーブルの書類と手
※写真はイメージです(写真=iStock.com/courtneyk)

コロナ禍収束までを描く「中期戦略」が必要

私が提案する中期戦略とは、政府や地方自治体からの強制力が解除されて、消費者が自主的に感染予防に務める時期の売り方である。感染者数も減り、医療体制も安定。お客様の感染に対する警戒心はあるものの、自ら外出して経済活動をおこなうフェーズだ。

ここで紹介する中期戦略が、コロナ禍収束までの売り方になる可能性が高い。収束までのシナリオがどうなるか予想することはできないが、仮に新型コロナウイルスへの認識が薄まったとしても、「感染させてはいけない」という社会通念みたいなものだけが残り、ずるずるとその習慣を引きずり続けるのではないかと思われる。

しばらくすると治療薬も出てきて、感染者が身の回りに増え、軽症で終わった人の話などを耳にするようになるはずである。「感染は怖いけど、感染しても仕方がない」という風潮になり、ワクチンができるまでの数年は、このような状況が続くのではないか。しかし、高齢者や持病のある人が感染すると、重症化しやすいという事実は変わりがなく、やはり緊張感を持って予防対策を取り続ける日々は続いていくだろう。

「客層マトリクス」で新規顧客の客質を決める

中期戦略で考えていかなくてはいけないのが、新規顧客の獲得である。緊急事態宣言下の短期戦略では優良顧客、常連客、エリア内の顧客に対して、信頼を担保に売上を作ることができた。これらの客層は、中期戦略に入っても、来店に対しての警戒心が少なく、引き続き売上を底支えしてくれる貴重なお客様になってくれる。しかし、優良顧客だけに頼る販促には限界がある。中期戦略に入り、お客様の財布が緩みだしたタイミングで、新規顧客を獲得して、売上を伸ばしていく戦略を展開していかなければいけない。

中期戦略においての新規顧客獲得で注意する点は、お客様の「質」である。従来の販促では、所得や職業によってお客様の「質」を分類することができた。しかし、新型コロナウイルスの感染リスクによって、お客様の心理的状況や考え方が細分化されてしまい、新たな顧客の「質」を分析して、販促戦略を展開していかなければいけない。

次のマトリクスで顧客を分類してみたので、参考にしてもらいたい(図表1)。

コロナ禍における客層マトリクス

巣ごもり状態の顧客の心理状況には、2つの軸がある。1つは感染に対する「恐怖心」、もう1つは自分自身の「良識」である。両方とも個人差のある感情なので、明確な基準を設けることが難しい。しかし、ここでは“一般的な感情”というアバウトな意味合いで、お客様の「質」を見極めていきたい。

①感染が怖くて、良識がある

感染に対しての恐怖心はあるが、良識的な行動をとる人のことをいう。中期戦略に入っても完全非対面の接客を好み、ネット通販、またはなじみの店でしか最低限の買い物をしない。このような客層を新規顧客として獲得することは難しく、感染に対しての恐怖心が強いため、無理をして中期戦略で狙いにいかないほうがいい。

②感染が怖くて、良識がない

神経質になりすぎて、感情的な行動を取ってしまう人のことである。店頭で怒鳴ったり、ヒステリックになったりする人は、従業員やほかのお客様の神経をすり減らすことにつながる。中期戦略では狙いたくない客質といえる。

③感染が怖くなくて、良識がある

感染に対して、ある一定の距離感をとったバランスの取れた人たちのことをいう。巣ごもりでストレスが溜まり、今すぐに外に出たいが、良識があるので「そこまで派手には外に出られない」「感染は怖くないけど、万が一の可能性がある」と、心のどこかでブレーキをかけられる人たちである。

このようなバランス感覚の取れた客質を、中期戦略では狙いたい。このようなお客様を新規顧客として迎え入れて、優良顧客に引き上げていきたいところである。

④感染が怖くなくて、良識がない

この4つの中で、最も警戒しなくてはいけない客質である。スタッフやほかのお客様に感染を広めてしまうリスクがあり、中期戦略でも、できるだけ接触を回避したい客質といえる。

感染が怖くなくて、良識があるお客様の獲得法

③の「感染が怖くなくて、良識がある」という客質を狙うためには、集客の段階でふるいにかけて選別することである。自粛ムードの中でスタッフががんばっている話や、お店の復活に向けて力を合わせて働いている話などをチラシやホームページでアピールすることで、その情報に心を揺さぶらせるお客様だけを来店させる。

店舗や企業の“考え方”に共感する人は、必然的に、売り手側と同じような価値観の人である可能性が高い。中期的な段階に入って、本格的に営業を軌道に乗せたい人は、そもそも③のカテゴリーの「感染が怖くなくて、良識がある」に分類される人たちでもある。その思いを自分たちのメディアに載せて発信すれば、③の客質が必然的に集まってくるはずである。

客層によって対応方法を変えていくことが大事

次に狙っていくのは、①の「感染が怖くて、良識がある」という客質である。リアルな店に呼び込むためには、もう少し時間がかかるが、情報発信をマメにおこなっていけば、やがて③の客層にスライドしていく。焦らず見守るスタンスで対応したほうがいいだろう。

②の客層は、もともと「感染が怖い」というスタンスなので、実店舗には近寄ってこない。しかし、自分たちが実店舗に足を運べないストレスから、電話やメールでクレームを寄こしてくることが考えられる。それをきっかけにお店のスタンスや考え方を理解してもらい、③の客層に引き上げられる可能性もある。無碍にクレームを扱うのではなく、新規のお客様になる可能性があることを意識して、慎重に対応したほうがいいだろう。

④の客層は、極端な安売りや無料プレゼントの販促企画を展開しないかぎり、来店することはない。不特定多数を大量に呼び込むような企画は、①~③のお客様を遠ざけてしまう可能性もあり、中期の段階で集客を仕掛けるのは時期尚早といえる。新型コロナウイルスが収束して、店舗での販売に感染対策をおこなう必要がなくなった長期戦略の際に、このような客質からの集客を考えても、遅くはない。

商品やサービスを「悩みごと解決」に切り替える

中期戦略における売り方は、短期とほとんど変わらない。売り手と買い手の接触がないネット通販のような「完全非対面」に加えて、短期戦略で展開した接触を最小限にする「準非対面」の売り方を強化することで、常連客も新規顧客も商品を購入してくれるようになる。基本路線は、短期戦略の延長と考えて問題ない。

しかし、中期戦略では提供する商品やサービスが変わってくる。短期戦略は既存の商品を常連客にセール販売することで売上を作ってきたが、中期戦略は既存の商品に変化を加えて、新しい客層の獲得に動いていかなければいけない。

巣ごもり消費の中で、中期戦略で売りやすいものは、悩みごとを解決してくれる商品やサービスである。たとえば、寝具を販売する場合、「寝心地がいい」という売り文句だけでは、購入させることは難しい。なぜならば、不要不急の商品のため、「また景気が戻った時に買えばいい」という発想が、お客様の頭の中に浮かんでしまうからである。

だが、見せ方を「悩みごと解決」に切り替えてみるとどうだろうか。同じ寝具でも、

「睡眠不足は免疫力の低下につながります」
「不安で眠れないときは寝具を変えるのが一番」

とキャッチコピーを変えるだけで、「寝るための寝具」から「悩みごとを解消する寝具」に価値観が大きく変わる。お客様の購入動機がより明確になり、商品の付加価値も高まるため、お客様も「今、買わなくてはいけない」という意識を持つようになる。

巣ごもり消費は、買い手側に「今、買わなくてはいけない」と強く思わせる必要があり、そのためには悩みごとを解決させる販促を仕掛けなければいけない。

Withコロナ時代に生き残るためにすべきこと

不要不急の商品を消費者が買わなくなっている今、必要早急の商品に切り替えなければ、いつまでも利益率の薄いセール販売を強いられることになってしまう。特に感染予防の対策として集客や席数を絞り込んでいる事業の場合、客単価のアップが急務となる。従来と同じ商品やサービス内容では、客単価を上げることは難しいので、「悩みごと解決」という高い付加価値を与えることで、採算が取れるラインまで単価を上げていきたいところである。

竹内謙礼『巣ごもり消費マーケティング「家から出ない人」に買ってもらう100の販促ワザ』(技術評論社)
竹内謙礼『巣ごもり消費マーケティング「家から出ない人」に買ってもらう100の販促ワザ』(技術評論社)

今後も長期的に景気低迷が続くと思われる。そのため、市場には低価格路線の販促と、客単価を上げるための付加価値を高めたものを売る販促の2種類が混在する形となる。体力のある企業であれば、セール販売に持ち込んで価格勝負で勝つことができるが、中小企業はそもそも価格競争に向いているビジネスモデルではない。付加価値を高める戦略に舵を切らなければ生き残ることは難しい。

新型コロナウイルスの巣ごもり消費では、今まで経験したことのない“悩み”が存在している。生活様式も大きく変わるので、掘り起こし方によっては、他社も気づいていないような付加価値の高いヒット商品が生まれやすい社会になる。中小企業にも客単価を上げるチャンスがたくさん存在しているといえる。