※本稿は福山誠一郎『すごいテレワーク アイデア&成果を2倍にする方法』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
今ある商品を売らなければならない時の対処方法
フリーのデザイナーやコピーライターがクライアントの仕事を請け負う時、基本的には、今ある商品を変えずに、広告を作らなければなりません。テレワーカーの営業の方も、自社商品をそのまま売るしかありません。そうしたケースへの対応方法を紹介します。
さて、ここで質問です。
プロ仕様の高価な包丁は、一般のお客様にとっては、ハードルが高い商品です。食材の繊維を壊さずに切ることができるという特徴は、一般のお客様が日常生活で感じている課題の解決とは大きくかけ離れています。一般のお客様にこうした商品の特徴を説明すると、「私に使いこなせるの?」「そこまではいらないよ」というのが正直な感想でしょう。
ポイントは商品の使用シーンをどれだけ想像できるか
ここで、お客様の調理シーンを見てみましょう。
・お刺身が上手く切れない
・とんかつを子供用に切り分けると形が崩れてしまう
・ケーキをカットすると潰つぶれてしまう
お客様の中には、こうした経験をされている方は多いと思います。営業トークや広告コピーを考える際に、このようにお客様が実際に感じている課題を見つけることから始めます。そうすると、商品説明から始めるよりも、興味を持ってくれるお客様の数は増えていきます。興味を持たれたお客様に対して、続いて、この包丁を使った結果のT(解決した姿)を説明します。
・お店で食べるようなお刺身が簡単に切れます
・衣が崩れず、ジューシーなとんかつが家で食べられます
・カフェで出るような形のいいケーキを切ることができます
店舗販売であれば包丁の実演をして見せる、通販であれば動画を見せることで、お客様は、T(解決した姿)を具体的にイメージすることができます。実際、プロが使う包丁は、素人が使っても、お刺身を簡単に切ることができます。
解決後のイメージを伝えた後は、購買のハードルを下げるため、「いい包丁を買えば一生モノです」「1000円で包丁を研ぎます」などの説明で購入する妥当性を伝えます。
以上のように、お客様が日常の生活で困っていることを多く知っておくことで、商品が、お客様の役に立つシーンを見出すことができるようになります。こうしたシーンを数多くストックしておくことで、広告や営業トークの幅を広げることができます。
今ある商品を売るという発想は、プロダクトアウトの発想ですが、お客様の“一次情報”を多く知っておくことで、顧客視点から提案ができるようになります。
“一次情報”の収集に特別な能力はいらない
大切なことは、お客様に意識を向けて観察することです。ここで、「意識を向けて」と書いたのは、同じものを見ても気付く人と、気付かない人がいるからです。商品を売る理由を探す発想で、お客様のことを調べても、本当の課題は見えてこないと思います。売ることに意識が向いているため、お客様の現実の気持ちに意識が向かないからです。
“一次情報”の引き出しが増やせる人は、人に対して意識を向けられる人だと思います。意識を向けることができないと、フィールドワークを実施しても、お客様の課題を見つけることは難しく、課題が見つからなければ、解決策も作れません。
結局のところ、お客様に支持されるアイデアが作れるかどうかは、特別なスキルを身につけることではなく、“気が利く人になる”ということなのです。
テレワークで商品が売れないリスクを軽減できる
新しい商品を販売する時や、新規の広告を展開する時は、期待とともに「上手くいくかな?」という不安も伴います。成果が出るか不安になることは、多かれ少なかれ誰でも経験することです。
こうした不安をゼロにすることはできませんが、事前に日常生活の中で検証しておくことで軽減することはできます。
古くから用いられているものに、モニターを集めて意見を聞くという手法があります。しかし、モニター調査をもとに、いざ販売をしてみると、調査通りにいかなかったということがしばしばあります。調査では大好評だったのに、実際のお客様の反応はイマイチだったということもあります。モニターの方といえども、企業の担当者が真剣に開発した商品に対して、厳しい評価はつけにくいのかもしれません。
「生活シーンでの検証」がしやすいことが強みに
ここで、皆さん自身で商品を検証することをお勧めします。お客様の課題を最も理解しているのはお客様ですが、皆さんは、そのお客様を“一次情報”の収集時に身近で観察されています。検証方法は、実際の生活シーンで検証することです。商品は、製造現場の制約により、製造過程において、当初の予定から変更されていきます。コストの関係からボトルの仕様を変更した、作業効率の関係から素材を変えたなど様々な変更が出てきます。このように、商品は、いくつかの変更を経て完成に辿り着きます。
商品開発の担当者は、ボトルや一部の素材変更など小さな変更があっただけで、当初の計画通りに完成したという認識を持っています。しかし、生活現場で使用すると、気付かなかった違和感に気付くことが多々あります。
「このボトル、開閉時に手が少し痛くなるな」
「この口径だと、中身が詰まりやすいな」
お客様は、3、4日と使い続けていくうちに、この違和感をさらに強く意識するようになります。中には、この段階で使わなくなる人も出てきます。こうした違和感に、商品開発の早い段階で気付くことができれば「ボトルの仕様は、もとのプランに戻しましょう!」と対処することも可能ですが、完成に近づくにつれて、そうはいかなくなります。
第三者からの意見も収集しておこう
また、関係者以外の方に、サンプルを使用してもらうこともお勧めします。第三者の意見は、重要な判断材料になります。その時、全体の使用感を確認しましょう。商品のウリ以外のところに課題があり、使わなくなるケースがあるからです。例えば、調理器具の中には、簡単に調理ができても、洗う手間がかかるものがあります。そうした調理器具は、一度使っただけで終わってしまいます。
サンプルを渡してから、しばらく経った後で、「あの商品の使用感はどう?」と聞いてみるとよいでしょう。「まだ使っていないな」「3日くらい使ったけれど最近は使ってない」などの意見が多く出た場合は課題が潜んでいると思ってください。
商品を検証する際に、もう一つ重要なことがあります。サンプルを渡した方々が、その後、お金を払って購入してくれるかどうかです。無料であれば、概ね、よい反応を返してくれますが、お金を払うとなると話が変わってきます。サンプルを使った後に、「どこで買えるの?」と誰からも言ってもらえないようであれば、再度、見直す必要があります。
念のため書いておきますが、検証を依頼した方と商品のターゲット層との間に、隔たりがないようにしておきましょう。例えば、普段、高価な商品を使う人に低価格帯の商品について意見を聞くことは、正しい方法ではありません。逆もしかりです。
広告も第三者に意見をもらうことを忘れないように!
広告についても、皆さんのほかに、関係者以外の方に確認してもらうことをお勧めします。関係者が広告内容を確認する場合、彼らは仕事として確認します。細かい文字が多くても文章をしっかりと読み、内容についてフィードバックをくれます。中には、画面を拡大しながら読んでくれる親切な方もいます。しかし、実際のお客様は、そのようにしてまでは読んでくれません。第一印象、読みやすさなどを、関係者以外に確認してもらいましょう。
商品や広告を事前に確認する必要性を述べた理由は、皆さんがいくら優れたアイデアを出したとしても、商品が売れなければ、皆さんの成果にならないからです。皆さんのアイデアは、成果が出た時に、初めて評価されるからです。