出産後、育児休業を控えた女性、またそうしたプランを持っている女性に知っておいてほしいのが、育児休業中の社会保険についてです。給与から天引きされている年金保険料や健康保険料はどうなる? 休んだ分だけ年金も減る? 休業中に病気になったら? 気になる社会保険について解説します。
息子と一緒に家で働く母親
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Yue_)

育児休業中は最大で給与の7割弱が受け取れる

まずは育児休業中の収入についておさえておこう。

会社員(雇用保険に加入する人)が育児休業をした場合には、雇用保険から「育児休業給付」が受けられる。給付を受けられる期間は、状況により異なる。

母親か父親、いずれかが育児休業を取得する場合に給付されるのは、子ども1歳の誕生日の前日まで(ただし、母親は出産日の翌日から8週間、「出産手当金」が支給されるため、その間、育児休業給付はなし)。

母親、父親の2人が育児休業をする場合は、子どもが1歳2カ月までの休業に対し、それぞれ最長1年まで支給される。同時に取得しても、別の時期でも変わらない。

また離婚や配偶者の死亡などで1歳以降も育児休業を取得する場合は、最長2年まで支給される。

気になるのは支給額だが、これは休業する前の賃金によって決まり、休業から180日目まではその67%、181日目以降はその50%。ただし、休業中も勤務先から賃金が支払われる場合は、支払われる賃金の割合によって支給額が変わる。休業開始時賃金の13%超の賃金が支払われる場合は給付金が減額、80%超では支給されない。

育児休業で賃金がストップしても、一定の収入が得られるというのは心強い。多くても賃金の7割弱ではあるが、育児休業給付は非課税であり、そのうえ、社会保険料もかからない。いつもは賃金から税・社会保険料が引かれるが、それらが引かれないため、実質的には休業前と大差ない収入が得られる、というわけだ。目安としては、手取りで休業前の1割減くらいだろう。

保険料はなし。でも年金額に反映される

将来受け取る年金の額は、現役時代に年金保険料を払った月数と、払った保険料の額によって決まる。産前産後休業や育児休業を取得した場合、年金への影響はあるだろうか。

保険料の支払いについてだが、産前産後休業や育児休業を取得した期間は、厚生年金の保険料が免除される(勤務先経由で、「産前産後休業取得者申出書」や「育児休業等取得者申出書」を年金事務所に提出する必要あり。勤務先が手続きしてくれる)。

前述のとおり、育児休業給付を受けても賃金よりは少ないため、保険料の支払いが免除されるのは助かる。とはいえ、それによって将来受け取る年金が減るのは困る……と思うかもしれないが、その心配はない。産前産後休業や育児休業中は、年金保険料を支払わなくても納付されたものとみなされ、年金の加入期間や年金額に反映されるのだ。

保険料は産前産後休業前の標準報酬月額(給与など基にした額)に基づいて計算され、休業中はその額を払ったものとみなされる。保険料を払わないのに、年金額は休まない場合と同じ、ということである。

子どもが3歳までは収入が減っても年金は減らない

復帰後、しばらくは時短勤務、という人も少なくないだろう。

時短勤務になって収入が減ると、休業前と同じ保険料を支払うのは負担が重くなることもありうる。その場合は、復帰後の報酬(給与や各種手当を合計した額)に応じた保険料への変更を申し出ることができる。具体的には、復帰後3カ月間の報酬の平均を標準報酬月額とし、それを復帰後4カ月目からの年金保険料に反映させる。休業の賃金の水準に応じた保険料にする、というわけである。

ここでもう1点、うれしいのが、「3歳未満の子を養育する期間についての年金額計算の特例」である。

これは、子どもが3歳になる前までは、出産直前の標準報酬月額(この場合は従前標準報酬月額と言う)を基に年金額が計算される、という特例で、育児休業後などに報酬が減っても、一定期間は休業前の報酬が年金額に反映されるのだ。

このように、ワーキングママには、出産・育児に伴って年金保険料の負担が重くなったり、年金額が少なくなったりしない仕組みになっている。頑張って仕事を続ければ年金においてもメリットがある、と言っていい。

さらに産前産後休業や育児休業中は、健康保険の保険料も免除される。免除されるのは、休業に入った月から復職する前の月までとなる。保険料が免除されている期間も、健康保険は休業前と変わらず、保障が受けられるので、安心だ。

iDeCoは減額も休止も可能。引き落とし口座に注意

会社員でもiDeCo(個人型確定拠出年金)で年金づくりをしている人もいる。休業で収入が減ると積み立てるのが負担になる可能性もあるが、どうすればいいだろうか。

iDeCoは一時的に積み立て(資金の拠出)をストップすることもできる。収入が回復したら積み立てを再開する、という手もあるが、できれば、止めることなく、積み立てを続けることを考えたい。iDeCoには、掛金が所得から控除されて所得税と住民税が軽減されるというメリットがあるが、育児休業給付金は非課税なので、そのメリットは享受できない。しかし、積み立てを続ければ、その分、将来受け取る年金の原資は多くなる。

またiDeCoでは積み立てを停止している間も運用期間中にかかる費用(金額は取扱金融機関によって異なる)があるため、積み立てを休んで元本を増やさないと、手数料損ということになりかねない。

さらにコロナ禍でマーケットが不安定な時期は、株式に投資する投資信託などを安値で買える可能性があるなど、積み立てでお金を増やす好機とも考えられる。そうした時期にはとくに、積み立てを休むのはもったいないとも言えるのだ。

なお、iDeCoの掛金について、給与からの天引きとしている人は、自身の預金口座からの引き落としに変更する必要がある。休業中、給与が支払われなければ、掛金の引き落としができないので注意してほしい。

教育費が気になってもiDeCoは継続がオススメ

職場復帰して収入が回復したあとも、「教育費の準備も必要だからiDeCoは難しい」と考える人がいるが、これも賛成しかねる。教育費の準備が大切なのは確かだが、老後資金の準備も同様に重要であり、所得控除というメリットを最大限に生かしながらiDeCoを続けていくことを考えたい。

掛金の金額は年に1度まで、減額の場合、5000円を下限に変更できる。金額が少なくても確実に老後資金のベースになるし、「年金づくりをしている」という意識を持てる、精神的な効果も大きい。子どもも大事だけれど、豊かな老後をめざして、自身の将来への仕送りも続ける、ということを大事に考えたい。