コロナショックを機に一気に普及したZoom会議。そろそろ慣れてきたという人は、次は司会進行役「ファシリテーター」に挑戦してみては? Zoom会議で一目置かれる“仕切り術”を、ファシリテーション講師のちょんせいこさんに聞きました。

会議は「集まり」から「つながり」へ変化

コロナ前は、会議と言えば「全員が一室に集まるもの」でした。しかしコロナ以降は「オンラインでつながる会議」も一般的になりました。コロナを機に、会議のスタイルは「集まり」から「つながり」へ大きく変化したと言えるでしょう。

ファシリテーション講師、ちょんせいこさん(本人提供)
ファシリテーション講師、ちょんせいこさん(本人提供)

Zoom会議を従来通り「集まり」だと考えていると、「リアル会議よりも場の雰囲気が読めず発言しにくい」「議論がどこまで進んだのかわからない」といった認識のギャップが生まれやすくなります。その結果、参加者の姿勢も受け身になり、なかなか成果が上がらなかったり、参加者の満足度が低い会議になってしまったりします。

最近は「Zoom会議をスムーズに進行させるにはどうすれば良いか」というご相談を多くいただくようになりました。いくつかのZoom会議を見学させてもらいましたが、やはり「つながる」ための工夫をしているかどうかで、大きな違いが出ています。また、リアル会議で「つながり」を大切にしてきたチームは、比較的スムーズにZoom会議も運営できているようです。

「ただ集まる」だけではうまくいかない

Zoom会議は、ただ集まるだけではなかなかうまくいきません。会議の進行を通して参加者がつながれるよう、工夫することが大切です。

「つながり」というと抽象的な表現に聞こえますが、まず、参加者全員が、今何について話しているかを把握し、同じ目標に向かって歩もうとする姿勢を持つところから始まります。そして、たくさんの意見を目標に向かって収束させ、結論を導き出していくうえで重要な役割を果たすのが、司会進行役である「ファシリテーター」です。ファシリテーターは会議で参加者のつながりをはぐくみながら、効率的かつ効果的に話し合いを進行します。

ファシリテーターは「問いを立てる人」

リアルの会議でもZoom会議でも、ファシリテーターは、必須と言っていいほどの存在です。ファシリテーションの技術は、経験を重ねるうちに自然と得られますが、もちろん意識的に練習をすればより早く的確に身に付けられます。ポイントとなるのは次の5つです。

Zoom会議ファシリテーションのコツ
①冒頭で「ゴールと見通し」を明確に伝える
②皆が発言したくなるような「問い」を立てる
③議論の内容をホワイトボードツールで可視化する
④時間をかける部分とかけない部分を見極める
⑤「温かいつながり」を意識する

①は、会議の冒頭や次の議題に移る時などに意識したいことです。

会議には、報告を聞くだけのものから意見回収や意見調整、アイデア出し、合意形成、振り返りなどさまざまな目的とパターンがあります。これが明確に共有されないと、参加者は何を話し合えばいいのかわからず、議論も散漫になりがちです。ファシリテーターはまず、今から始まる話し合いの目的とパターンを明確にして、参加者が安心して対話できるよう心がけましょう。

②は、特にキモとなる部分です。ファシリテーターの主な役割は、「問いを立てる」こと。問いの立て方によって、会議の進行は大きく変わります。

参加者の意見を引き出したいとき、全員に向けて「何か意見はありますか?」と呼びかける人も多いですが、もう少し具体的な問いのほうが、意見が言いやすいでしょう。例えば、「○○さんは××についてどうお考えですか?」といった問いかけです。

さらに、同じような質問であっても、「○○さんは××の強みは、何だとお考えですか?」と、ポジティブな面を聞く問いかけと、「○○さんは××の課題は何だと思いますか?」のように、ネガティブな面を聞く問いかけの2つが考えられます。どちらがより発言しやすいかを考えて使い分けるとよいでしょう。

問いの立て方に習熟するためには、まずは「この人が進行するときの会議は議論が進むな」と思う人を見つけて、観察してみるところから始めるのがおすすめです。意識しているとコツが見えてくるので、良いと思ったワザを取り入れていきましょう。

「ホワイトボード」で議論を可視化

そして、会議で成果を出すために欠かせないのが、③の「議論の可視化」です。リアルの会議では、出た意見をホワイトボードなどに書いていくことも多いかと思いますが、オンラインではホワイトボードの準備ができません。そのため、参加者が議論の方向を見失う事態もしばしば起こってしまいます。

そこで役立つのが、Zoomのホワイトボード機能やGoogleスライドなどをホワイトボードに見立てた活用です。使い方はシンプルで、これを全員で「画面共有」し、意見が出たら入力します。最初は黒字で入力していき、まとめやポイントとなるところを赤字に変えるようにしていけば、議論が収束していく過程も全員が手にとるようにわかります。

Googleスライドの画面を共有してホワイトボードのように使い、挙がった意見を書き込みながら議論する
Googleスライドの画面を共有してホワイトボードのように使い、挙がった意見を書き込みながら議論する

この時、ホワイトボードには発言した人の名前は書かず、内容だけを書くのがポイントです。これを私たちは「意見の帰属を外す」と呼んでいます。全員の意見が平等にホワイトボードに書かれていくので、特に、自由にアイデアを出し合うときには、発言者の役職や立場などの余計な先入観にとらわれることなく、有効な意見を採用しやすくなります。こうして、一見関係なさそうに見える意見を組み合わせることでクリエーティブなアイデアが生まれる場面を、これまで私もたくさん見てきました。

ホワイトボードを使った可視化は、何を話し合っているのかが明確になるので、議論が横道にそれにくくなりますし、多くの意見は書き出されることによってわかりやすくなります。また、Zoomの画面でお互いの顔を見ながらよりも、ホワイトボードの画面を見ながらの方が、意見も出しやすくなると思います。ぜひ取り入れてみてください。

④の「時間をかける部分とかけない部分を見極める」は、会議を時間内に終わらせるためのコツとも言えます。一般的に、全員の意見を聞こうとすると、一人ずつ順番に話を振っていかなければならないのでかなり時間がかかってしまいます。

ここもファシリテーターの腕の見せどころ。議題すべてについて全員の意見を聞くのではなく、「ここは上長の話を聞くだけ」「ここは一人ずつ発言してもらう」「これはZoomの『ブレイクアウトルーム』機能を使って、部門ごとの少人数に分かれて話し合う」というように、内容に応じてかける時間にメリハリをつけましょう。「この会議のクライマックスはどこか」を意識して、見極め力を磨きます。

温かい会議を作る3つのポイント

最後に忘れてはならないのが、⑤の「温かいつながり」をつくることです。

新型コロナウイルス流行のような状況では、誰もが多くの不安を抱えています。「会議で目標を共有する」「仲間の意見を聞く」「自分の意見を述べる」ことができる良質な議論は、参加者のつながり強め、意欲を高めることができます。上手に進めれば、心のケアにつながる「元気になる会議」にすることができます。

そのためには、Zoom会議を、全員にとって安心できる場にすることが大事です。特に今回は休校措置のため「在宅でオンライン授業を受ける息子とWi-Fiの取り合いになった」などの声も聞かれました。また、幼い子どもがいる家庭では、会議の途中に離脱せざるを得ないという人もいたようです。

Zoom会議の途中で誰かが抜けてしまっても、ファシリテーターはそれぞれの事情に理解を示し、「いつでも戻ってきてください」という姿勢を取りましょう。ホワイトボードに意見が書いてあれば、復帰した時に議論の流れを追うことができるので、すぐにまた参加することができるでしょう。

画面越しに理解や温かさを示すには、表情と言葉が重要になります。おすすめしたいのは、「笑顔で話す」「意識して名前を呼ぶ」「感謝の言葉をかける」の3つ。メンバーの発言後に、笑顔で「○○さんありがとう」と言うだけでも、その会議はぐっと温かい雰囲気になるでしょう。

Zoom会議の成否がチーム力の差に

Zoom会議を仕切るコツというテーマでお伝えしてきましたが、これらは営業やプレゼンなどにも通じる技術です。日常業務を通してトレーニングを積んできた人も多いのではないでしょうか。ファシリテーターを務める際は、それらの経験を総動員して、みんなが力を出しやすい環境をつくるようにしてください。

コロナショックは会議のスタイルを大きく変えました。第2波や第3波も心配される中、もうリアルの会議だけの時代には戻れないでしょう。そうなると、Zoom会議で成果を出せるチームと、そうでないチームの差はますます広がります。

今、大切なのはリフレクション(振り返り)です。緊急事態宣言で在宅リモートワークに突入した時、「これからはオンラインでつながっていこう!」と意識合わせをしてキックオフできたチームは、その後のコミュニケーションもスムーズでした。しかし、それができなかったチームもたくさんあります。

だからこそ今、チームで「何がうまくいったのか。どうすればさらに良くなるのか」を振り返ることが大切です。それが、第2波に向けたキックオフにもなります。ぜひ振り返りを行い、より良いZoom会議を目指してください。