社会人になって10年以上にもなれば、誰でも1度や2度は転職を考えたことがあるはず。コロナショックで不況の影がしのびよる中で、不安もつのるけれど今どうしたら幸せな転職ができるの? 2人の敏腕転職エージェントが答えます!

コロナ不況でも「35歳以上の転職で勝てる女性」とは

「人間関係や職場環境が悪い」「やりたい仕事ができない」など転職の理由はさまざまだが、給与など待遇への不満はその大きな理由になる。しかし転職後、新しい環境でこれまでと同じ成果を出せるか未知数の部分があるため、転職によって収入を上げるのは簡単ではない。パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」の調査によると、転職後に年収がアップした人は30代で56.2%、40代でも56.2%、50代以上では39.7%(グラフ参照)だ。では、“転職後に年収が上がる人”になるにはどうしたらいいのか。

転職後に年収は上がりましたか? 下がりましたか?

「業界をまたいでも、これまでの経験を生かすことができる、専門的な知識やスキルを持つ人は転職に強い。例えば、人事は専門領域を高めていきやすく年収が落ちにくい傾向があります。また、昇進するほど経営視点が必要になる場合もあるので、人事×ファイナンスなど“掛け算のスキル”を持っていると転職市場での価値が上がりやすいですね」と、パーソルキャリアエグゼクティブエージェントの西川晴之さん。

また、Keep in touch社長の田畑晃子さんは「ポストコロナで混沌こんとんとしそうな転職市場ですが、ITを基盤とした流通、医療、暮らし、クラウドサービスなどの成長産業・企業、ベンチャー企業で依然求人が多そうです。ITの知識やスキルを持つ人は、ある程度の収入アップを狙える可能性が高いです」と語る。

規模が小さい会社は経営者と“近距離”に

しかし、収入アップだけが勝ち組要素ではない。年収の高さにとらわれると、大企業ばかりに目がいってしまいがち。中小企業やベンチャー企業も選択肢に入れたことで、転職を成功させた人も少なくない。「規模が小さい会社やベンチャー企業では、経営者との距離が近い。結果次第で大手企業より昇進や収入アップのスピードが速い可能性もあります。以前担当した44歳(当時)のA子さんは、巨大IT企業のマーケティング職から、社員50人ほどのクラウド型ビジネスベンチャー企業に転職。転職直後は収入がダウンしましたが、数年後には年収が前職よりアップしたのです」と田畑さん。

A子さんは入社後にマーケティング部署の必要性を強く感じ、立ち上げを上層部に提案して実現。半年後にはその部署で利益を生む仕組みを考えてチームリーダーに。3年目には事業責任者、役員へと昇進した。「彼女はゼロから仕組みをつくり、自分がいなくても業務が回るようにしました。その後は新しいミッションを任され、常に経営層に近いポジションで重要な仕事をしています。あれがやりたい、これがやりたいという希望が通りやすい会社だったようです」と田畑さんは分析する。

転職回数が多い人は、不利か、有利か

さらに、西川さんは外部環境の変化に迅速、かつ適切に対応できる人材が今求められていると断言する。「大手企業1社に勤めてきた人は、これまで転職先からの引き合いが多かった。しかし、最近では大手の盤石な環境しか知らないと逆にそれが不安材料となる可能性も。複数の会社を渡り歩いてきた中で、チャレンジ精神があって前のめりにキャリアを切り開いてきた人が、評価されています」

また、ずっと同じ会社にいても、海外赴任や地方拠点の立ち上げ、新規プロジェクトをゼロベースから進めたなど多様な経験を積んでいる人は高いニーズがある。

「企業風土もありますが、以前より転職回数が多い人を敬遠する傾向はなくなっています。ただし転職の内容が大事。どんな意図で転職を繰り返したのか、それぞれの会社で何を得て成長したのか整理して、きちんと人に説明できるようにしておくことが大切」と田畑さんも言う。

転職前になすべきことはキャリアの棚卸し

では、実際に転職活動をする際、どんなことに注意したらいいのか。

田畑さんは「面接で自分の能力を必要以上に高く見せて、入社後にマイナス評価になっては誰の利益にもなりません。ミスマッチにならないよう、転職先の会社が欲しい能力を自分が持っているのかを正確に把握すべきです」とアドバイス。また、企業カルチャー、社風を判断するためにも、2次面接以降は社内の人に会わせてもらい、離職者の数なども聞いていいと言う。「聞きにくい場合は、取引実績があるエージェントに問い合わせてみてください。また、転職に成功した人から担当者を紹介してもらうのもオススメです」

一方、転職しないほうが幸せな場合もあると言うのは西川さん。

「ある女性が転職を希望し、われわれと一緒に“キャリアの棚卸し”をした結果、自分の強みが整理できました。その強みを現在の会社の上層部にプレゼンしたところ、高倍率のMBAの社費留学の対象者に選ばれたのです。結局転職しなかったけれど、本質的にやりたいことが明確になり、大きな一歩をふみ出せました」

そして、自分のキャリアは会社のものではなく自分のものという“オーナーシップ”を自覚することが大事。「オーナーシップが持てる人は会社でどんどんステップアップするでしょうし、将来転職したとしても成功すると思います」

生活の向上や仕事のモチベーションにおいて、収入はとても大事なもの。しかし転職を成功させたいのなら、自分が絶対譲れないもの(must)、自分に何ができるのか(can)、何をしたいのか(will)を、見直すべきだと西川さんは力説。収入だけでなく、この3つを考えることが満足できる転職への第一歩になるだろう。

西川晴之
西川晴之(にしかわ・はるゆき)
パーソルキャリアエグゼクティブエージェント
2001年、ノエビア入社。クライアントへのコンサルティング営業、全国の拠点統括責任者などを経験後、15年にパーソルキャリア(現在)に入社。主にエグゼクティブ領域のキャリアコンサルティングを担当。
 

田畑晃子
田畑晃子(たばた・あきこ)
Keep in touch社長
1992年、リクルート人材センター(当時)に入社。主に法人向けコンサルタントを経験。2009年にKeep in touchを設立し、現職。著書に『採用側のホンネを見抜く 超転職術』(CCCメディアハウス)。