堅実に投資を続けていくには、どのように投資対象を選べばよいのでしょうか。経済コラムニストの大江英樹さんが、その着眼点について具体事例を交えて解説します。

※本稿は大江英樹『今さら人には聞けないけどとっても知りたい投資とお金のはなし』(ソシム)の一部を再編集したものです。

ビジネストレンドグラフとチャート
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Vertigo3d)

投資を始めたばかりの人が陥る決定的な間違い

読者のみなさんの中には株式投資の経験のある人もいるでしょう。株式投資を始めた人が陥りがちな決定的な間違いが1つあります。それは「すぐに上がる株」を探そうとすることです。「え、どうして? だってすぐ上がる株があるなら知りたいのは当然でしょう」と思うかも知れませんが、株式投資とは本来、自分が投資する企業の成長に期待するものです。したがって企業が成果を出すには早い遅いといった違いはあったとしても一定の時間はかかります。投資している側から見ると、自分が出したお金を有効に活用して事業をし、大きな儲けを出してくれるから、その分け前として配当をくれますし、株価も値上がりをするのです。

すなわち株式投資は長い目で見て成長する企業に対しておこなうべきなのです。そもそも短期的な株価の動きなどは誰も正確に予測することはできません。でも株式投資が企業の成長に賭けるのであれば、それはある程度予想することはできます。具体的に言えば、その会社が儲かりそうな事業をやっているか? あるいは経営者が優れた能力を持っていてちゃんと儲けてくれるかどうかを見極めることがとても大切なのです。

金額より納得感が大事

このように考えて行くと、株式投資というのは本質的に自分が興味を持っている会社、あるいは自分がそれについて豊富な情報を持っている事業分野の会社に対しておこなうのが本来の姿なのです。また別な視点から見れば、出資をする動機として自分がその会社を応援したいという気持ちがあっても良いでしょう。預金や融資とは異なり、先行きの儲けの額が不確実であるというリスクを負ってもお金を出すわけですから、それに対する納得度が一番重要であることは言うまでもありません。つまり、単に儲かればいいから何にでもお金を出せばいいというのではなく、自分が納得して出しても良いと思う先にお金を出すのが投資だということです。

その場合、ごくシンプルに考えると、自分が好きな会社の株を買ったり、あるいはその会社が提供する商品やサービスに素直に感動したりした時にその会社の株を買うということがあっても良いのではないかと思います。

一つの例を挙げてみましょう。今では多くの人が利用しているアマゾンですが、私がこのサービスを最初に使ったのは1998年ですから今から20年以上も前のことです。当時はまだアマゾンは日本に上陸していなかったので私は米国のamazonのサイトを使っていました。私は60年代のソウルミュージックが大好きで、その中のあるアーティストのCDを探していたのですが、なかなか見つからなかったのです。東京中のCDショップを探し歩いても見つかりませんでした。そんな時、アマゾンのサイトで検索すると一発で出てきたのです。すぐに注文すると米国から3週間後に送られてきました。

もし買っていれば10万円が1,300万円に

このサービスに私は感動しました。早速アマゾンの株を調べてみたところ、株価は20ドルそこそこでした。一瞬買おうかと思ったのですが、まだ巨額の赤字を抱えている状態だったので、「サービスは良いけど、いずれ行き詰るかもしれないな」と思って、投資はしませんでした。ところがもしその時点で投資をしていれば、今は2,600ドルを超えています(2020年6月17日)。つまり株価は130倍になったのです。もし当時10万円で買っていればこの20年あまりで1,300万円になったということです。ちなみにアマゾンが上場したのはその少し前、1997年ですが、その当時の株価は2ドルほどですからその時点からだと約1,300倍。仮に2ドルで1,000株買っていれば20万円が、その後の高値で2億6千万円にもなっているのです。

5倍や10倍になっている株は数多くある

これほどの例はあまりありませんが、日本でもこの10年ぐらいの間で大きく上がった株はいくつもあります。例えば九州を中心に展開するドラッグストアチェーンのコスモス薬品は2004年の11月に1,310円で上場しましたが、今年の6月18日時点では1万6,880円になっています。しかもこの会社は5月末に1株を2株に株式分割していますので、実質的には投資した金額は25倍強になっています。

またネットでの決済サービスを手がけるGMOペイメントゲイトウェイという会社は2009年のリーマンショック後には90円前後だった株価が現在では1万1,620円になっていますので(6月18日現在)10年あまりで何と129倍にもなっているのです。

インバウンドの増加によってドラッグストアの売上げが順調に推移してきていることやネット取引による決済の拡がりといった現象はいずれも私たちが実感してきたことです。さすがに100倍にもなる株はほとんどありませんが、5倍や10倍くらいになっている株であればたくさんあります。

「身近な変化」に気づくことが大事

このように自分の身近で起きていることで気付いたことについて投資するという発想はとても大事です。例えばリーマンショックが起きた時にどんなことが起こったか。特にアメリカでは大規模なレイオフや解雇が起き、失業してずっと家で過ごす人が多くなったのです。その結果、家でテレビを観て宅配ピザを食べるという人が増えました。実際にリーマンショック後にネットフリックスとドミノピザは米国で株価が100倍になっています。

大江英樹『今さら人には聞けないけどとっても知りたい投資とお金のはなし』(ソシム)
大江英樹『今さら人には聞けないけどとっても知りたい投資とお金のはなし』(ソシム)

今回のコロナ禍でもそれに近いですが、今回は在宅勤務が増えたことによってZoomの利用が急増しています。結果、昨年末には68ドルだったZoomの株価は直近では240ドルと、わずか半年で3.5倍になっています。要するに、「みんながZoomを使うようになったよね。ところでZoomって上場しているのかしら? だったら株価っていくらぐらいなんだろう?」と考えてみることが大切なわけです。

このように投資は身近なところにヒントがたくさんありますが、もちろんそんなやり方で投資すれば全てうまくいくというわけではありません。Zoomの例は、たまたま、今回のコロナウイルスの流行という残念な状況によって短期的な上昇が起きただけです。前述の例のように長期的に成長する企業に投資をすれば、長期的には何倍にもなる可能性はおおいにあります。株式投資の本質が成長性や収益性の高い事業に投資をしたい、そしてそんな会社を応援したいということなのであれば、あまり難しく考えずに気に入ったサービスや製品を提供する会社に素直に投資をするということでも良いのではないかと思います。