妊娠がわかったら早々に決めたいのが、分娩する施設です。「お産はまだ先。そんなにあわてなくても」と悠長に構えていては、希望の産院が満員になってしまうことだってあります。安全で満足できる出産をするために押さえておきたい産院選びのコツを、産婦人科医の月花瑶子さんに伺いました。
女性医師
※写真はイメージです(写真=iStock.com/kokouu)

3つの分娩施設の特徴をチェック

分娩を扱う施設は、総合病院・大学病院、個人産院や診療所、助産院の大きく3つに分けられます。まずはそれぞれの施設の大まかな特徴を把握しましょう。

総合病院・大学病院

産婦人科以外の診療科もある総合病院や大学病院。持病や合併症がある場合も、他科と連携をとりながら診察をしてくれるので安心感があります。設備やスタッフも充実しているため、緊急帝王切開などのさまざまな緊急事態にも対応しやすいのもメリットです。ただ一方で、病院の方針にもよりますが、複数の医師がいるため、健診時と分娩時では医師が異なることもあります。また、早産などの場合に赤ちゃんに必要なケアを迅速に行える新生児特定集中治療室(NICU)を備えているところも。

個人産院・診療所

妊娠中から分娩、産後の健診まで1人の医師が担当することが多く、医師やスタッフとの信頼関係が築きやすいのが魅力。個室がおしゃれ、入院中の食事が充実している、マタニティヨガや呼吸法の院内教室があるなど、特色のあるサービスを行っているところも。扱うお産のスタイルも、施設によって異なるのでよく確認しましょう。持病があったり合併症が発生した場合は院内では対応できず、転院、緊急搬送などになるケースもあります。

助産院

助産師が妊娠中から出産、産後までサポートをしてくれます。アットホームな雰囲気で、妊娠中の指導や産後の母乳ケアなども充実。自宅出産に対応してもらえる助産院も。ただ、助産師は医療行為ができないため、合併症などのトラブルがないことが大前提。リスクが高まる高齢出産は受け入れていないことも多いので、確認しましょう。

年齢制限のある施設もあるので要確認

「上の子も立ち会えるところがいい」「分娩台の上ではなく、フリースタイルで出産したい」「できるだけ早く仕事復帰したいから、産後の回復が早いと聞く無痛分娩がいい」など、理想のお産のイメージは十人十色。出産のスタイルだけでなく、産後、赤ちゃんとの過ごし方も施設によって方針が違います。完全母子同室のところもあれば、日中だけ同室のところ、母子別室の施設もあります。満足できる出産にするためには、まずは自分が望むお産や産後のイメージや、ゆずれないポイントをクリアにすることが大事です。

「助産院や個人産院は、分娩の受け入れに年齢制限を設けているところがほとんど。40歳以上の初産は扱っていないところが多いでしょう。ただ、だからといって出産スタイルに選択の余地がないとあきらめることはありません。大きい病院でも水中出産やフリースタイルなど、自由度の高い出産スタイルを取り入れているところもあります。病院によって方針やできることが違うので、施設のホームページを確認したり、先輩ママの声などを聞くなどして、広く情報を集めましょう」

ただし、妊娠の経過によっては、希望の出産方法ができないことも頭に入れておく必要があります。

「とくに40歳以上の高齢出産の場合は、妊娠高血圧症候群などの合併症が出たり、お産がなかなか進まずに緊急帝王切開になったりと、リスクが高いのも事実です。安全面を考えると、高齢出産の場合は総合病院や大学病院のほうが安心です。40歳以上になると、緊急帝王切開のリスクは39歳以下の2倍にもなります(初産の場合)。早産のリスクも高いので、NICUが完備されているかどうかも施設選びの大事なチェックポイントです」

分娩予約は妊娠3カ月のうちに

分娩の予約は、妊娠8〜11週までには入れましょう。出産費用は施設によって異なるほか、同じ施設でも自然分娩か無痛分娩か、個室か複数人部屋かなどによっても違いがあります。人気の施設は予約がうまるのも早いので、希望が決まったらすぐに分娩予約を入れましょう。

「里帰り出産を考えている方は、産休前の健診で通う病院のほかに、里帰り先の病院も早めに決めましょう。妊娠中は何が起こるかわかりません。切迫早産で絶対安静が必要になってしまうこともあります。地元の病院のリサーチ、見学は早め早めが安心です。もちろん現在通っている施設にも、里帰りを希望していることは早めに伝え、相談するといいでしょう」

妊娠中に産後のサポート体制をととのえておく

出産はゴールではなく、スタート。トラブルがなければ出産後は5日ほどで退院となり、赤ちゃんとの新生活が始まります。

「新生児のころは2〜3時間おきの授乳が続きます。さらに産後はガクッと女性ホルモンが減るため、精神的にも不安定になりやすい。慣れない育児と孤独感から、産後うつを発症してしまうケースも少なくありません。この時期は、絶対に周囲のサポートが必要。パートナーは当然ながら、双方の両親、友人など、手助けしてくれる人のネットワークを模索して妊娠中から準備しておきましょう。産後ドゥーラさんをお願いしたり、産後ケア施設を利用するのも手です」

「産後ドゥーラ」とは、産後の女性が心身ともに安定して新しい生活に入っていけるようにとサポートする専門家。「産後ケア施設」は、産後のママと赤ちゃんのサポートをしてくれる日帰り、または宿泊型の施設です。看護師や助産師が常駐していて、体を休めながら新生児育児のポイントをゆっくり学ぶことができます。

「お仕事でも、プロフェッショナルに外注したほうがうまくいくことってありますよね。育児も同じように、外注できるところは上手に取り入れていくのがいいと思います。ドゥーラさんやシッターさんとは、相性もあります。妊娠中に一度会っておくといいですね。それから産後に備えて、便利家電を導入するのもおすすめですよ。私も育児中は義母からもらったホットクックが大活躍しています」

分娩施設の選択も産前・産後のサポート体制づくりも、まずは情報収集が大切です。とくに産む場所を決めるまでには、それほど時間の余裕がありません。どんな出産をしたいかを思い描きながら、比較・検討をし、短期間でも納得のできる自分にあった施設を選びましょう。